何の能力も与えられずに異世界転移してしまった小娘ですけど、残忍な伯爵夫人だけは絶対に許せないので成敗させて頂きます

牧神堂

文字の大きさ
27 / 28
第一章

26話 会食が始まった

しおりを挟む

 マドンナさんに案内され、来客用の小食堂へ向かう。
 途中、廊下で変な女の子に行き会った。
 向こうから近付いてくる小柄なその子は、半裸でスキップしながら前進してる。それもピョンピョン軽快に、えらく高く跳ねながら。
「キャハッ! キャハッ! キャハッ!」
 機嫌の良い掛け声がリズミカルに聞こえてきた。

 鮮やかな黄緑色の毛束とマゼンタの毛束が入り混じる脚まで届きそうな長い髪。それをボリュームのあるラビット・スタイルのツインテールにしてなびかせ、顔は白塗り。つけまつげかと思うほど睫毛が派手に長く、大きな目の下には濃いシャドウ。
 そして唇に差した紅はどぎつい色で、大胆にはみ出しまくっている。歳は十七、八ってとこ?
 で、ふくらみが控え目な胸をさらけ出し、というかそれ以前に身に付けているものがただ一つだ。それは、金属製の貞操帯だった。
 な、何者っ?
 あんなもん付けててよく身軽に動けるなぁ。
 つか、ノーパンでいるくらいならアレちょっと欲しいかもと思った。
 
 女の子と擦れ違う。
「キャハッ! キャハッ! キャハッ!」
 そのまま行ってしまった。
 マドンナさんは特に気にする事もなく先を急ぐ。
 実際、気を散らしてる場合でもないので、あたしも誰なのか聞かずに足を進めた。



「ふししっ。指定の食堂はあしょこでしゅ」
 マドンナさんが指差す先。
 その部屋のドアの前には侍女が一人、ぽつねんと立っていた。
「あ、ポーラ」
 あたしは駆け寄り、声を掛けた。
 覆面付けてても服の色や体型で分かる。
「ふぎゅるっ」
 ポーラはなんか言った。ふぎゅるって何だよ。
「あっ、あうっ、ミチルさん、おまっ、お待ちしてましたっ」
 何でだか手をバタバタさせ始めた。
「伯爵夫人様もじきにいらすすすさいますので、中でおかげおかけしてお待ち下さい」
 この子大丈夫なの? 覆面の向こうで寝てたんじゃないよね??
「ここに伯爵夫人はいないんだから、あたしにそんな丁寧な言い方しなくていいよ?」
「あ、ひゃい」
 ポーラはドアを開けてくれた。
「ふししっ。ではあてくしは厨房に戻って待ってましゅよ? 料理長しゃんが食事を用意してくれるそうでしゅので」
「はい。ありがとうございます」
 こういう時はやっぱり頭下げる方があたしには合ってるな。
 マドンナさんは行ってしまった。心細いよぉ。


 部屋は皆と食事した食堂よりも少し狭い。
 ただ、ゴージャスだ。やたらと凝った装飾が壁を賑わせてるの。
 高い位置にはいくつかの小さな突き出し窓があり、開かれている。差し込む自然の陽光が部屋の中を柔らかく満たしていた。
 そして床には鮮やかな彩りの絨毯、見上げると天井には荘厳な宗教的絵画が描いてある。
 飾り棚には絵皿やら七色の大きな石やら動物の彫刻やらが大量に置かれ、部屋の四方の角には観葉植物の鉢。
 サイドボードの上にはカラフルな花々を挿した花瓶が幾つも乗っている。百花繚乱。テーブル掛けは凝った意匠。
 いや、しかしこの部屋、ごてごてしてて落ち着かないなぁ。
 それにキラキラと派手やかな二つの椅子の位置。細長ぁいテーブルの端と端に置いてある。
 二人が着席するとかなりの距離をおいて向かい合うことになるよ。話し辛そう。

「こ、こちらの椅子でござざざ」
 ポーラが手前の椅子を引いてくれる。
「だから丁寧にやんなくていいってば」
「こっ、こっちの椅子だぜ」
 ポーラ、素でやってんの? 普段ちゃんと仕事やれてんの?
 
 座って伯爵夫人を待つ。
 目の前のテーブルにはコップ、ナイフ、フォーク、スプーン、ナプキン、フィンガーボウル。そして小皿がやたら重ねて置いてある。
 テーブルマナーを頭の中で反芻。
 ポーラは椅子の後ろに控えている。
 
 カーン! カーン! カーン!
「うひゃあ!!」

 お昼の鐘の音。
 うひゃあ、は何でか鐘の音に驚いて跳ねたポーラの間抜けな叫び声。
 鐘が鳴り終わると同時にドアがノックされ、そのまま開いた。
 
 ドアを開けたのはアシェリさん。
「伯爵夫人様がお見えです」
 ぐいとドアを全開にし、下がる。
 その向こうから伯爵夫人が現れた。
 一瞬逆光の影となりながら、ゆっくりと歩を進めてくる。
 ドアに近い方の椅子に座っていたあたしは立ち上がった。
 その拍子に後ろに移動した椅子が、背後に立っていたポーラを直撃。
「ぷぎ・・・・・・」
 叫びかけたポーラはその声を飲み込んだ。
 ごめん、ポーラ。
 よく我慢した、偉いぞ。
 あたしは、挨拶だ。挨拶、挨拶。
「こっ、こんにちは、伯爵夫人様。この度はこっ、このような」
「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。急な誘いでしたのに来て下さってありがとう」
 あたしの言葉を遮り、伯爵夫人はカツカツと靴音立てて奥の自分の席へ向かった。アシェリさんが付いていく。
 夫人が横を通り過ぎる時、ふっと不思議な香りが鼻をくすぐった。
 甘美とも幽玄とも言える、表現し辛い匂い。
「お掛けになって」
「は、はい」
 言われてあたしは、伯爵夫人が座るタイミングに合わせて再び腰を下ろした。

 テーブルを挟み、少し先の真正面にいる伯爵夫人。
 相変わらず穏やかな微笑みを顔に浮かべている。
 実の所、夫人のこの優しげな表情とランマルさんに言われた『厳しさ』があたしの中でうまく結び付いていない。夫人に対するイメージがなんか分裂してる。
 もちろん優しさと厳しさは両立はするだろう。優しい顔で厳格な人はいる。
 それにしても昨日も今日も夫人の表情は変わらないな。ずっと寸分違わぬ同じ顔を維持してる。まるで彫像みたいに。
 そして、その顔はとてもとても美しい。侍女長やスキュラとは別領域の美。何だろう。どう言えばいいの。
 顔の造形の話じゃないんだ。滲み出てくるものが人間離れしている。これがオーラってやつか?
 元聖女様ってのは伊達じゃないね。

 伯爵夫人の格好。昨日と雰囲気の近いものを身につけていた。暗色のドレスにきらびやかな宝石。
 ただし、頭には帽子ではなくターバン。エスニック風な模様の絢爛豪華な布をボリュームたっぷりに巻いている。大きな輝く石のイヤリングも目を引く。
 それにしてもジロジロ見るのもあれだし、目線のやり場がよく分かんない。なんか冷や汗。
 気圧されてるね、あたし。何でだか昨日よりも夫人の背が高くなってるように感じたし。

「ミチル」
 伯爵夫人に名を呼ばれた。おっとりとした話し方。
 離れていても部屋が静かなので声は普通に聞こえる。
「はっ、はい。伯爵夫人様」
「苦手な食べ物はありませんか?」
 言葉を発する間も夫人の微笑みはそのままだ。
「あっ、あたし、何でも食べられます」
 たぶん、ね。生ネズミ出ないから。
「そう。よかった。先に聞いておくべきでしたのにね。いつも気が回らなくて情けない思いをしてしまいます」
「えっ、い、いえ、そんなあ、あはは」
 バカ。愛想笑いするとこじゃないだろ、あたし。
 何となくいたたまれなくなって俯いた。
 伯爵夫人は多分じっとあたしを見続けている。微笑んだままで。
 こりゃむしろ距離があって良かった。
「ゆっくりと食事を楽しんでらして下さいね」
「はっ、はいい」
 
 沈黙。
 どうしよう、間が持たない。
 あたし、話をしに来たんだよね。
 招かれたのはあたしの方だけど、立場上あたしが伯爵夫人を楽しませる場だよね、これは? 伯爵夫人もそれを期待してるよね?
 えと、えと、何か東方の話を切り出せばいいの? 話題、話題。何で話せない。いっそ何でもいいから質問でもしてくれないかなぁ。
 ポーラぁ、アシェリさぁん、ふぅ、助けを求めるわけにもいかない。

「ミチル」
 伯爵夫人の呼び掛け。
 静かに、囁くように。
 何だろう・・・・・・色っぽい。
 ドラマで耳にするような、恋人に甘える発情した女のような声。
「ミチル」
「はっ、はいっ!!」
 ぼうっとしてた。
「お飲み物は私のお勧めのドリンクで構わないですか?」
「はい。もちろんです、伯爵夫人様。あはは」
 それがお酒でなければね。
 伯爵の前での失敗が脳裡に蘇る。
 うう。

 この時、ノックの音がした。
「お料理をお持ちしました」

 給仕さん達が入ってくる。
 次々と入ってくる。
 踊るように滑らかな動きでテーブルの上に皿を置いては身を引き、入れ替わった次の給仕さんが皿を置き、また次の給仕さんが皿を置き。
 テーブルの上はたちまちご馳走の皿で埋め尽くされる。
 そうして給仕さん達は波が引くように部屋からいなくなった。
 ああ、いい匂い。

 ポーラが給仕さんから受け取った陶器の水差しから、あたしのコップに中身を注いでくれる。
 真っ赤な液体。ドクドクドク。
 次いで様々な料理を少しずつ取り分けてきてくれる。大皿から小皿へと。
 あたしの前には幾つものご馳走の小皿とドリンクとスープとパンが並んだ。
 向こうではアシェリさんがポーラと同じように伯爵夫人の前に食事を並べ整える。

「ありがとう。もう下がってよいですよ。後は自分達でやりますのでね」
 伯爵夫人が言うと、ポーラとアシェリさんは静かに歩いていってドアの前に並んで立った。
 そしてこちらへ向きを変え、伯爵夫人、次にあたしの方へ、スカートを摘み上げ体を上下させる。それを終えると黙って部屋から出て行った。
 ついに部屋の中はあたしと伯爵夫人の二人きりになってしまった。


「人の出入りがあるとゆっくり出来ませんからね。食事は一度に全部持って来てもらったのですよ」
 伯爵夫人は微笑んだまま言う。
「そ、そうですか」
「食べたいお料理は遠慮なく御自分で小皿に取ってお召し上がり下さいね。私もそうしますので」
「は、はい」
「ああ、そうそう」
 沈黙。
「は、はい? 何か・・・・・・」
「最後に一皿だけ、後で持って来てもらうお料理があるのでした」
「そうでしたか」
「それこそがメインディッシュ。最高のおもてなしが出来るよう、頭を捻った極上のお料理なの」
「あっ、ありがとうございます」
「ですから、それまでにお腹いっぱいにならないようお気をつけ下さいね。うふふふ」
「あ、はい。あははは」
 あたし、愛想笑いばっかしやん。あはは。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...