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第3章 サフォケイション
3-16 追跡
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黒いステルス航空機にその男、江飛凱がいる。いつの間にかフィア・ファクターも乗り込んでおり、江飛凱の傍らに立っていた。普通のステルス機ではなく、何人も乗れる仕様のようだった。
フィア・ファクターと江飛凱を乗せた機体は上昇しながら地上に向けてレーザーを放つ。特殊部隊の連中をも巻き添いにしながら。
「くそ、逃げる気か? 今度こそ逃がさんぞ江飛凱!」
ラウディさんは荷電粒子砲を放ったが、それはステルス機に届く前にかき消されてしまった。
「江飛凱のグラインドか!?」
僕は声を上げた。ラウディさんの荷電粒子砲をも消す力とは、一体どうなっているんだ。
「ファルさん、一颯さんをお願いします!」
僕はそう言って車外に飛び出す。
「わかった。なるべく安全な所にいるからな。想、気をつけろよ!」
ファルさんは窓から声を掛け、僕はファルさんに向かって頷く。外に出てみると、辺りには火の手も上がり、半壊状態のビルがいくつかあった。ステルス機はゆっくりではあるがビルの谷間を飛び進んでいる。
「ドド、無事かい?」
ステルス機を目で追いながら、僕はドドと合流した。周囲にはまだ戦闘意思を持った特殊部隊がおり、ドドはその隊員たちと戦っていた。
「想か。俺は大丈夫だ。ラウディさんは随分暴れてたな。だが、江飛凱を逃がす訳にはいかねぇ。煉美さんの仇をここで取らなきゃいけねぇんだ」
そうか、ドドも姉さんの事を思っていたから、今まで以上に戦っているのか。そのため、彼の目は闘志に満ち溢れていた。
「うん。ここを突破して奴を追いかけよう。おそらく江飛凱は僕らの様子を見物してるつもりだ」
僕はそう言って、近くの道路標識をグラインドで動かし、迫りくる隊員を殴り倒していく。
どうやら特殊部隊は身体強化だけでなく、恐怖心も麻痺されているようで、僕の攻撃にも臆する事無く立ち向かってくる。
以前、シクスが言っていた事を思い出す。恐怖心は捨てなくていいと言っていたが、捨てちゃダメなんだと今は言い切れる。恐怖心があるからこそ、自分は人間なんだと、自分の存在を保てる。
「弟! 出てきたのか。奴が向かった方は特殊部隊の壁が固い。3人で突破するぞ。来い」
ラウディさんが合流し、僕とドドはその後に続く。ラウディさんは左手に持ったハンドガンで隊員たちを撃ち、右手の義手ファントム・リムの荷電粒子砲で特殊部隊の車両を破壊している。すごい。姉さんが言った通り頼もしい大佐だ。
と、上空を行くステルス機は交差点で左に曲がった。目の前の道路には特殊部隊とその車両が密集しており、その車両からは機関銃が放たれてきている。それを僕はグラインドで動かした交通案内板で防御する。
「歩道橋を渡るぞ!」
ラウディさんが僕らに呼びかけた。歩道橋の上にも何人か隊員がいたが、その下の密集地帯を行くよりはましだ。ラウディさんはあれだけ動いたにも拘わらず、また全速力で走り出し、歩道橋の階段を駆け上がっていく。
「おっしゃあ! いくぞ!」
それを見たドドはさらに火がついたのか、一気に走り出した。流石に僕は2人には付いて行けない。防御に使っていた交通案内板をボードにして、それに乗ってグラインドの力で上空を飛ぶ。そして、上空から道路標識を地上の特殊部隊に向けて飛ばす。
「弟、ずるいぞ」
ラウディさんはそう言いながら、電気をまとったファントム・リムで次々と歩道橋の上にいた隊員達を一撃で殴り倒していく。
上空を行く僕は交差点を曲がり、黒いステルス機を視界に収める。また道路標識を周囲に浮かべ、それをあのステルス機に向けて突撃させる。1つは当たったが、それ以外はまた目に見えない力によって弾かれる。江飛凱の謎のグラインドか。
そして、黒いステルス機は後方の僕に向かってレーザーを撃ってくる。僕は弾道を見極め、それを躱しつつ、また道路標識を飛ばす。しかし、レーザーの連射量が激しく、僕は自分が乗っている案内板ボードを大きく動かしながら回避しているため、道路標識を飛ばす狙いが定まらなくなってしまう。
その時、レーザーではない何かがこちらに向かって放たれた。
それは、人間だった。強烈な勢いで突撃したその人間は、僕が乗る案内板ボードを、なんと蹴りで真っ二つに割った。
足場を失った僕は、地面に落ちていく。辛うじて視界の隅に入った別の交通案内板をグラインドで引き剥がし、それで自分の身体を受け止め、着陸する事に成功した。
「なんだ……? 今のは?」
呟いた僕の目の前に黒い影が瞬時に近付いた。そいつは、僕の腹を思い切り殴り、吹き飛ばされた僕の身体はアスファルトを擦るように打ち付けられた。
「うっ、ぐはぁ!?」
「大丈夫か!? 弟!」
ラウディさんが駆け寄ってくれた。
「安心しろ。殺してない」
僕を殴った男が言った。先程僕が乗っていた案内板ボードを蹴りで割ったのもこいつか。そして、こいつは……。
「貴様! ブルータル!」
ラウディさんが叫びに近い声を上げていた。僕は腹部を押さえながら顔を上げる。
奴はもうあのテンガロンハットを被っていない。白髪混じりの短髪はごわごわした固い髪質だ。
年齢は江飛凱と同じ40代くらいだろうか。スーツももう着ておらず、グレーの半袖Tシャツに、軍人用の黒いカーゴパンツを履いている。
身長は、ドドとラウディさんよりは高くない。180cmくらいか。しかし、上半身の筋肉はラウディさんのそれよりも遥かに上回り、隆々としていた。
「リラプスの隊長さんか。悪いが、こいつはもらったぜ」
そう言ってブルータルは右手を上げる。その手には、僕の腕時計が握られていた。腕時計の中にあのマイクロSDカードが入っている事が、予言者エイシストによってバレていたのか。
その直後、奴の背後に黒いステルス機が舞い降りる。
「江飛凱! 受け取れ!」
ステルス機の窓が開き、ブルータルが投げた僕の腕時計を江飛凱が受け取った。
「よくやったブルータル。頼りになるねー」
江飛凱がそう言うと、ステルス機は上昇し始める。
「待て! 返せ!」
「おおっとー。悪いが、追わせねーぞー?」
立ち上がって走り出そうとした僕の前に、髭面の男ブルータルが立ちはだかった。
「想! どうなってんだ!?」
そこへドドが追い付き隣に立った。
「僕の腕時計を奪われた。ラウディさんとドドは江飛凱を追ってくれ。こいつは、僕が食い止める」
ラウディさんは悩んでいたのか、何も言わずに僕を見つめていたが、やがて決心したように静かに口を開く。
「わかった。江飛凱は何としてでも俺達が止める。弟、気をつけろよ」
そう言ってドドと一緒に走り出す。
「小僧、わしが誰だかわかってるよなー? 1人で相手できるのか?」
走り行くラウディさん達を横目にブルータルは言う。
「あぁ、わかっているさ。それでも、お前を倒さなくちゃいけないんだ」
周囲にはまだ一般人がおり、危険を察知して避難を始めている。そこに特殊部隊も何人か駆けつける。
「これだけの数がいるのに、このわしを倒すと?」
ブルータルは笑いながら手を広げている。やってみなくちゃわかんないし、やるしかないんだ。こいつを倒さなければ、あの江飛凱の前に立つ事はできない。
僕は先程クッション代わりに使った交通安全板を奴に向けて飛ばす。それと同時に、ブルータルによって割られた案内板2つを周りの特殊部隊に向けて飛ばす。
特殊部隊達は呆気なく倒れていく。だが、
「ふんっ!」
ブルータルは僕が飛ばした案内板を拳1つで弾き飛ばした。僕は横に走り出す。奴と距離をとりつつ、今度は道路標識を回転させながら奴に当てる。ブルータルは今度は蹴りでその道路標識を受け止めた。
しかし、僕は既に第2の一手を放っていた。先程、ブルータルの拳によって弾き飛ばされた案内板を、もう一度飛ばしていたのだ。奴の背後から素早く、それは見事にブルータルの背中に命中し、ベコッという音を立てた。
「うっ、くぅー、流石にちょっと効いたなぁ。物体を自由自在に動かすグラインドか。なかなか面白いな」
僕の攻撃は確かに命中したはずだ。しかし、あいつは余程頑丈なのか、全くダメージを受けていないように見える。奴は僕に向かって走り出した。
と、その時、ブルータルの前にある飲食店の入口から、一般人の男性がタイミング悪く出てきた。
「危ない!」
僕は叫びながら走り出していたが、目の前に特殊部隊の隊員が2人立ちはだかった。どうすればいいんだ。そう考え出したその時。
「邪魔だ!」
ブルータルは目の前の一般人男性の腹部を殴った。空間を揺るがすような、ドンッという音が街に響き、その一般人は声も上げることなく倒れ込んだ。
「お前らも邪魔だ! 退けい!」
そう言って、なんと2人の特殊部隊の隊員も殴った。ドンッ、ドンッと立て続けに音が鳴り、奴は僕の目の前に現れた。僕は特殊部隊に向けて放とうと準備していた案内板を掲げる。
ブルータルの動きは素早すぎるが、辛うじて蹴りを放とうとしているのが見え、その方向に向かって、案内板で咄嗟に防御した。
「くっ……! 力が強すぎる!」
僕は案内板ごと吹き飛ばされ、近くの建物の壁に激突した。背中に激痛が走り、視界が揺らぐ。
そして、先程殴られた一般人と隊員2人を見る。視界が揺らいではいたが、その3人が起き上がらない所か、ピクリとも動く気配がなかったのがわかった。
「お前、まさか殺したのか!?」
僕は激痛に耐えながらも、立ち上がり聞く。あの隊員2人は、こいつの仲間だったはずだ。なのに、どうして?
「あぁ、そうだ。わしの勝負を邪魔する奴、それも雑魚だ。殺して何が悪い?」
ラウディさんが言っていた。ブルータルは拳一突きで人間を殺せると。それが今、目の前で起きた。
なんて奴だ。本当に一撃で人を殺してしまった。あいつの、拳を受けたら、僕は、死ぬ。
フィア・ファクターと江飛凱を乗せた機体は上昇しながら地上に向けてレーザーを放つ。特殊部隊の連中をも巻き添いにしながら。
「くそ、逃げる気か? 今度こそ逃がさんぞ江飛凱!」
ラウディさんは荷電粒子砲を放ったが、それはステルス機に届く前にかき消されてしまった。
「江飛凱のグラインドか!?」
僕は声を上げた。ラウディさんの荷電粒子砲をも消す力とは、一体どうなっているんだ。
「ファルさん、一颯さんをお願いします!」
僕はそう言って車外に飛び出す。
「わかった。なるべく安全な所にいるからな。想、気をつけろよ!」
ファルさんは窓から声を掛け、僕はファルさんに向かって頷く。外に出てみると、辺りには火の手も上がり、半壊状態のビルがいくつかあった。ステルス機はゆっくりではあるがビルの谷間を飛び進んでいる。
「ドド、無事かい?」
ステルス機を目で追いながら、僕はドドと合流した。周囲にはまだ戦闘意思を持った特殊部隊がおり、ドドはその隊員たちと戦っていた。
「想か。俺は大丈夫だ。ラウディさんは随分暴れてたな。だが、江飛凱を逃がす訳にはいかねぇ。煉美さんの仇をここで取らなきゃいけねぇんだ」
そうか、ドドも姉さんの事を思っていたから、今まで以上に戦っているのか。そのため、彼の目は闘志に満ち溢れていた。
「うん。ここを突破して奴を追いかけよう。おそらく江飛凱は僕らの様子を見物してるつもりだ」
僕はそう言って、近くの道路標識をグラインドで動かし、迫りくる隊員を殴り倒していく。
どうやら特殊部隊は身体強化だけでなく、恐怖心も麻痺されているようで、僕の攻撃にも臆する事無く立ち向かってくる。
以前、シクスが言っていた事を思い出す。恐怖心は捨てなくていいと言っていたが、捨てちゃダメなんだと今は言い切れる。恐怖心があるからこそ、自分は人間なんだと、自分の存在を保てる。
「弟! 出てきたのか。奴が向かった方は特殊部隊の壁が固い。3人で突破するぞ。来い」
ラウディさんが合流し、僕とドドはその後に続く。ラウディさんは左手に持ったハンドガンで隊員たちを撃ち、右手の義手ファントム・リムの荷電粒子砲で特殊部隊の車両を破壊している。すごい。姉さんが言った通り頼もしい大佐だ。
と、上空を行くステルス機は交差点で左に曲がった。目の前の道路には特殊部隊とその車両が密集しており、その車両からは機関銃が放たれてきている。それを僕はグラインドで動かした交通案内板で防御する。
「歩道橋を渡るぞ!」
ラウディさんが僕らに呼びかけた。歩道橋の上にも何人か隊員がいたが、その下の密集地帯を行くよりはましだ。ラウディさんはあれだけ動いたにも拘わらず、また全速力で走り出し、歩道橋の階段を駆け上がっていく。
「おっしゃあ! いくぞ!」
それを見たドドはさらに火がついたのか、一気に走り出した。流石に僕は2人には付いて行けない。防御に使っていた交通案内板をボードにして、それに乗ってグラインドの力で上空を飛ぶ。そして、上空から道路標識を地上の特殊部隊に向けて飛ばす。
「弟、ずるいぞ」
ラウディさんはそう言いながら、電気をまとったファントム・リムで次々と歩道橋の上にいた隊員達を一撃で殴り倒していく。
上空を行く僕は交差点を曲がり、黒いステルス機を視界に収める。また道路標識を周囲に浮かべ、それをあのステルス機に向けて突撃させる。1つは当たったが、それ以外はまた目に見えない力によって弾かれる。江飛凱の謎のグラインドか。
そして、黒いステルス機は後方の僕に向かってレーザーを撃ってくる。僕は弾道を見極め、それを躱しつつ、また道路標識を飛ばす。しかし、レーザーの連射量が激しく、僕は自分が乗っている案内板ボードを大きく動かしながら回避しているため、道路標識を飛ばす狙いが定まらなくなってしまう。
その時、レーザーではない何かがこちらに向かって放たれた。
それは、人間だった。強烈な勢いで突撃したその人間は、僕が乗る案内板ボードを、なんと蹴りで真っ二つに割った。
足場を失った僕は、地面に落ちていく。辛うじて視界の隅に入った別の交通案内板をグラインドで引き剥がし、それで自分の身体を受け止め、着陸する事に成功した。
「なんだ……? 今のは?」
呟いた僕の目の前に黒い影が瞬時に近付いた。そいつは、僕の腹を思い切り殴り、吹き飛ばされた僕の身体はアスファルトを擦るように打ち付けられた。
「うっ、ぐはぁ!?」
「大丈夫か!? 弟!」
ラウディさんが駆け寄ってくれた。
「安心しろ。殺してない」
僕を殴った男が言った。先程僕が乗っていた案内板ボードを蹴りで割ったのもこいつか。そして、こいつは……。
「貴様! ブルータル!」
ラウディさんが叫びに近い声を上げていた。僕は腹部を押さえながら顔を上げる。
奴はもうあのテンガロンハットを被っていない。白髪混じりの短髪はごわごわした固い髪質だ。
年齢は江飛凱と同じ40代くらいだろうか。スーツももう着ておらず、グレーの半袖Tシャツに、軍人用の黒いカーゴパンツを履いている。
身長は、ドドとラウディさんよりは高くない。180cmくらいか。しかし、上半身の筋肉はラウディさんのそれよりも遥かに上回り、隆々としていた。
「リラプスの隊長さんか。悪いが、こいつはもらったぜ」
そう言ってブルータルは右手を上げる。その手には、僕の腕時計が握られていた。腕時計の中にあのマイクロSDカードが入っている事が、予言者エイシストによってバレていたのか。
その直後、奴の背後に黒いステルス機が舞い降りる。
「江飛凱! 受け取れ!」
ステルス機の窓が開き、ブルータルが投げた僕の腕時計を江飛凱が受け取った。
「よくやったブルータル。頼りになるねー」
江飛凱がそう言うと、ステルス機は上昇し始める。
「待て! 返せ!」
「おおっとー。悪いが、追わせねーぞー?」
立ち上がって走り出そうとした僕の前に、髭面の男ブルータルが立ちはだかった。
「想! どうなってんだ!?」
そこへドドが追い付き隣に立った。
「僕の腕時計を奪われた。ラウディさんとドドは江飛凱を追ってくれ。こいつは、僕が食い止める」
ラウディさんは悩んでいたのか、何も言わずに僕を見つめていたが、やがて決心したように静かに口を開く。
「わかった。江飛凱は何としてでも俺達が止める。弟、気をつけろよ」
そう言ってドドと一緒に走り出す。
「小僧、わしが誰だかわかってるよなー? 1人で相手できるのか?」
走り行くラウディさん達を横目にブルータルは言う。
「あぁ、わかっているさ。それでも、お前を倒さなくちゃいけないんだ」
周囲にはまだ一般人がおり、危険を察知して避難を始めている。そこに特殊部隊も何人か駆けつける。
「これだけの数がいるのに、このわしを倒すと?」
ブルータルは笑いながら手を広げている。やってみなくちゃわかんないし、やるしかないんだ。こいつを倒さなければ、あの江飛凱の前に立つ事はできない。
僕は先程クッション代わりに使った交通安全板を奴に向けて飛ばす。それと同時に、ブルータルによって割られた案内板2つを周りの特殊部隊に向けて飛ばす。
特殊部隊達は呆気なく倒れていく。だが、
「ふんっ!」
ブルータルは僕が飛ばした案内板を拳1つで弾き飛ばした。僕は横に走り出す。奴と距離をとりつつ、今度は道路標識を回転させながら奴に当てる。ブルータルは今度は蹴りでその道路標識を受け止めた。
しかし、僕は既に第2の一手を放っていた。先程、ブルータルの拳によって弾き飛ばされた案内板を、もう一度飛ばしていたのだ。奴の背後から素早く、それは見事にブルータルの背中に命中し、ベコッという音を立てた。
「うっ、くぅー、流石にちょっと効いたなぁ。物体を自由自在に動かすグラインドか。なかなか面白いな」
僕の攻撃は確かに命中したはずだ。しかし、あいつは余程頑丈なのか、全くダメージを受けていないように見える。奴は僕に向かって走り出した。
と、その時、ブルータルの前にある飲食店の入口から、一般人の男性がタイミング悪く出てきた。
「危ない!」
僕は叫びながら走り出していたが、目の前に特殊部隊の隊員が2人立ちはだかった。どうすればいいんだ。そう考え出したその時。
「邪魔だ!」
ブルータルは目の前の一般人男性の腹部を殴った。空間を揺るがすような、ドンッという音が街に響き、その一般人は声も上げることなく倒れ込んだ。
「お前らも邪魔だ! 退けい!」
そう言って、なんと2人の特殊部隊の隊員も殴った。ドンッ、ドンッと立て続けに音が鳴り、奴は僕の目の前に現れた。僕は特殊部隊に向けて放とうと準備していた案内板を掲げる。
ブルータルの動きは素早すぎるが、辛うじて蹴りを放とうとしているのが見え、その方向に向かって、案内板で咄嗟に防御した。
「くっ……! 力が強すぎる!」
僕は案内板ごと吹き飛ばされ、近くの建物の壁に激突した。背中に激痛が走り、視界が揺らぐ。
そして、先程殴られた一般人と隊員2人を見る。視界が揺らいではいたが、その3人が起き上がらない所か、ピクリとも動く気配がなかったのがわかった。
「お前、まさか殺したのか!?」
僕は激痛に耐えながらも、立ち上がり聞く。あの隊員2人は、こいつの仲間だったはずだ。なのに、どうして?
「あぁ、そうだ。わしの勝負を邪魔する奴、それも雑魚だ。殺して何が悪い?」
ラウディさんが言っていた。ブルータルは拳一突きで人間を殺せると。それが今、目の前で起きた。
なんて奴だ。本当に一撃で人を殺してしまった。あいつの、拳を受けたら、僕は、死ぬ。
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