カンテノ

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第3章 サフォケイション

3-15 フィア・ファクター

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 大通りには所狭しと特殊部隊ACHEの隊員たちが待ち構えており、今にでも銃を撃とうと構えていた。

「ファルゼン、極力銃撃を受けずに車を動かせるか?」

  ラウディさんは右隣の運転席に座るファルさんに問い掛けた。

「今のこの車なら余裕だ。前もって今まで以上に防弾強度も上げてあるからな。んじゃ、いくぞ!」

  ファルさんはそう言ってアクセルを踏んだ。道路を塞いでいる特殊部隊の集団に向かって直進して行く。すると、前方の隊員達が銃を撃ってきたが、ファルさんはその殆どを見事に回避する。数発当たった弾はかすった程度だった。
  ラウディさんは助手席からアサルトライフルマシンガンを撃つ。その命中精度は特殊部隊ACHEのものを遥かに凌いでおり、次々と隊員達は倒れていく。ドドもラウディさんに続くようにハンドガンで応戦する。
  僕は道路脇のガードレールをグラインドで持ち上げ、それをムチの様に振り回し、周りの隊員達を手当り次第薙ぎ払う。

「あーもうやめだ! 俺にはやっぱ拳銃は合わねぇや! 悪い! ちょっくら突撃するわ!」

  ドドは、そう言って銃を置き、車から飛び出し、特殊部隊の固まりに向かって全速力で走っていく。

「うおぉーっ!」

  ドドの雄叫びが聞こえる。右へ左へと素早く走り抜けて、銃弾の嵐を振り切るように走り、目の前の敵を殴って蹴って暴れ出している。すると、ラウディさんが笑い出した。

「ハハハッ! あいつは本物のバカだな。俺も行く。弟、お前は車の中から援護しててくれ」

「わかりました大佐! お気をつけて!」

  僕がそう言った時にはラウディさんは既に車を飛び出していた。

「だから俺は大佐じゃねぇ!」

  走り出しながらもそう叫んでいた。僕はガードレールで近くの隊員を薙ぎ払いながら、後方の敵に向かって道路標識を槍投げのように飛ばしていく。一度に複数の物体を動かす事にも慣れてきた。

「あのデカブツ共は無茶苦茶だな! よし、方向転換して後ろの敵も倒すぞ!」

  ファルさんは交差点に差し掛かった所でドリフトでUターンし、反対車線を走る。そして、拳銃を取り出して周りに撃ち始めた。ファルさんも拳銃を所持していたのだ。

「これでもちょっとは撃てるんだぜ?」

  後部座席にいる僕らに言いながらも、巧みなハンドルさばきで銃撃をかわしている。敵がグレネードランチャーを撃ってきても、車体を自分の身体の一部のように扱い、軽々回避してしまう。

  僕は後部座席の後ろに手榴弾が入ってるケースがあったことを思い出し、それを取り出し中から1つ手榴弾を掴み、目の前の集団に向かって投げる。
  手榴弾の扱い方は知らなかったが、グラインドでそれを飛ばして自分の意思で爆発させるのは容易かった。固まっていたACHEの隊員達が吹き飛んだ。
  すぐに、また後方のラウディさん達を確認する。先程よりも敵に囲まれている。僕は近くに路上駐車されていた一般車を、グラインドで容赦なく飛ばす。

「ラウディさーん! これ使ってー!」

  僕が叫ぶと、ラウディさんは振り返り、笑った。僕が飛ばした乗用車は、特殊部隊の戦闘車両の近くに落ちる。その瞬間にラウディさんはその一般車をアサルトライフルで撃つ。銃弾がガソリンタンクに当たり、車が爆発し、それに巻き込まれて特殊部隊の戦闘車両も爆発する。
  ドドの方は、隊員の足を片手で掴み、ぶん回しながら周りの隊員を吹っ飛ばしていた。野獣だ。

  と、その時、上空から銃撃が放たれた。それは銃撃ではなくレーザーだったと気づいたのは爆発が起きた後だった。僕は窓から顔を出して見上げる。

「え? な、な、何だよあれ……?」

  ビルの屋上に狙撃手でもいるのかと思っていたが違った。ビルの壁に巨大な物が張り付いていた。それはクモのように、何本も脚があり、中央には1つ目の顔のような物がある。間違いなく機械だった。先程のレーザーは、あの沢山ある足の1つの先端から放たれた物だったようだ。

「なんだよあのロボットみてぇなの!? あれか? 昨日の高速道路で見た車両みたいにAIで動くマシンか?」

  ファルさんも運転しながら呟いていた。あんな巨大なロボットをゼブルムは作っているのか。
  そのロボットは跳び上がり、地上へと降り立った。その衝撃で僕達が乗る車も揺れる。高さは、あのカーネイジよりも高い。7mを越えているくらいか。

「厄介なものが出てきたな。弟、後ろのケースを貸してくれ!」

  いつの間にかラウディさんが走りながら僕の横に来ていた。ファルさんはそれに気づいて減速していたようだった。僕は後ろにあるケースを取り出し、ラウディさんに渡す。

「Thanks」

  ラウディさんはその場にそのケースを置き、中の物を素早く取り出し、弾を装填した。ロケットランチャーだった。ゴォンという音を立て、銃身の後部から火を吹きながら発射した。
  しかし、あの強力なロケットランチャーを受けてもクモ型ロボットは全く損傷していなかった。

「なんて硬い装甲なんだ」

  ラウディさんは言いながらもアサルトライフルを連射する。その時、どこからか高笑いが響いた。

「ハッハッハッハー! そんな物では俺のマーターに傷1つ付けられんよ!」

  声の主は、少し離れた所にある特殊部隊の戦闘車両の上に立っていた。波打つ金髪の男だった。50歳前後くらいだろうか。顔には薄らしわが見える。

「貴様何者だ?」

  ラウディさんが静かに低い声で聞いた。

「俺はフィア・ファクター。昨日は俺のマシンをよくも粉砕してくれたなぁ? だが、今回はやられんぞー?」

  そう言って、フィア・ファクターと名乗った男は狂気じみた笑みを浮かべている。昨日のあの車両も、こいつが作ったマシンだったのか。こいつがゼブルムの科学者なのだろう。

「さぁ、マーターよ。奴らを仕留めろ」

  フィア・ファクターがそう言うと、マーターと呼ばれたクモ型ロボットは足の先端にある砲口をこちらに向けた。その穴が赤く光り出す。さっきのレーザーか。

「やらせるか!」

  僕はそう叫び、ビルの屋上に設置された、大きな広告看板をグラインドで引き剥がし、それを僕らの車とラウディさんの前に掲げる。
  間一髪でレーザーを受け止めたが、広告看板はへこみ出し、今にもレーザーが突き破ってきそうだ。

「もう1枚!」

  そう言って新しい広告看板を追加し、防御を固めた。これならなんとか持ちこたえる。が、その時、マーターはもう1本の足からレーザーを放つ所だった。
  ――だめだ、間に合わない。
 僕は思わず目をつむり、そして轟音が響いた。

  だが、なぜか僕らは無事だった。車が損傷している様子もまるでない。

「やれやれ。この手は使わない予定だったんだがな」

  車の前には、金髪オールバックの大きな男が立っていた。ラウディさんだった。ラウディさんはあのレーザーをなんと片腕で受け止めていた。その腕は――。

「昔、大戦で腕が吹き飛んじまってな。普段は特殊な人工皮膚でカモフラージュしてるんだ」

  ラウディさんの右腕は銀色に輝いていた。

「貴様! あのレーザーを片腕で受け止めただと!?」

  フィア・ファクターが身を乗り出して驚いていた。

「そうだ。俺の右腕、ファントム・リムでな」

  ラウディさんの右腕は機械で出来た義手だった。肩の下辺りから銀色のメタリックアームになっている。

「なかなか面白いクモの玩具だが、俺がこのファントム・リムを使えば敵じゃない。ファルゼン、下がってろ」

  ファルさんも義手の事については知らなかったようで、しばらくは驚いていたが、すぐに車を動かし距離を置く。

「それじゃあ、今度はこちらから行かしてもらうか」

  ラウディさんはそう言って走り出す。すると、ファントム・リムと呼ばれた義手が電気を帯び始める。
  その義手を掲げ、マーターの足を殴った。あの頑丈そうな装甲の足が、いとも容易く折れ曲がり、その足からは電流が飛び散っている。外部からの衝撃と内部に電磁波を発生させて破壊しているようだった。

「もろいな」

  ラウディさんはすぐにまた走り出し、マーターの右側に回り込む。そして電流を帯びて輝き出したファントム・リムの手の平をマーターに向ける。
  そこから、荷電粒子砲が発射された。昨日の高速道路で遭遇した、あのマシンよりもチャージ時間が短く、そしてその威力は凄まじく、振動で周りのビルの窓ガラスが割れる程だった。

「どうだゼブルムの科学者。これが荷電粒子砲だ」

  フィア・ファクターの顔はねじ曲がるように歪んでいた。マーターの足はまた1本折れ、その巨体はビリビリとショートしながら傾く。

「くっそがぁ! 小賢しいわぁ! こんな物でマーターが沈むと思うなよ!」

  フィア・ファクターがそう言うと、マーターは足が2本折れた状態でも跳び上がった。そして空中からレーザービームを乱射する。
  ラウディさんはその場から動かず、右手を掲げる。その手の平から電気の膜が伸びていく。電流バリアだ。あのレーザーを物ともせず防御している。かなり高出力の電流のようだ。
  しかし、追い討ちをかけるべく、マーターは落下すると共に、残る6本の足の先端を全てを1箇所にまとめて、ラウディさんに突き刺そうと突撃する。

「うおぉらぁ!」

  ラウディさんは吼えると共に、その6本の足をファントム・リムで殴った。凄まじい電気と風圧が発生し、マーターの巨体を弾き飛ばした。マーターの足がまた1本、今度は根元から折れた。
  しかし、マーターは弾き飛ばされると、ビルの壁に張り付き、またレーザーを乱射する。ラウディさんは走りながらも荷電粒子砲を撃つ。射撃の命中精度が高いラウディさんは、確実に荷電粒子砲を命中させていき、とうとうマーターは地面に落ちた。

「まだまだ……こんな物で、俺のメカはくたばりはせんぞ!」

  フィア・ファクターはどうやら手元にある端末を操作しているようだ。すると、マーターは唸り声を上げるように駆動し始め、その巨体は赤い光を帯び出した。高熱をまとっているのだろうか、車内にいる僕達の方まで熱気が届いてくる。
  そして、マーターは突進をし始める。常にボディの表面の至る所からレーザーを撒き散らし、マーターが踏んだ地面は爆発を起こす。

  ラウディさんはそれを見て、マーターに向かって走り出す。両者の距離が瞬時に縮まり、マーターは2本の前脚を振り上げる。その時、ラウディさんのファントム・リムは今までにない量の電流を帯びて、その腕は青白く輝き出す。

「はあぁっ!」

  そう叫び、マーターの前足の1本を下から振り上げたアッパーで粉々にした。しかし、もう1本残っていた足からレーザーが放たれようとしていた。
  ラウディさんはそれに目もくれず、マーターのボディの真下に潜り込む。そして、超高出力の電流を帯びた右腕をマーターの腹に突き刺した。マーターに激しい電流が走る。

「くたばりやがれ」

  ラウディさんはそう言って腕を突き刺した状態で荷電粒子砲を放ち、腕を引き抜く。そして、もう1発強烈な電磁ボディブローを放った。あの巨大なマーターのボディが宙に浮き、無残に爆発四散した。

「どうだ? まだやるか? 俺のファントム・リムは無限のエネルギー循環機能だから底なしだが」

  フィア・ファクターに向けてラウディさんが言い放つ。しかし、フィア・ファクターは笑っていた。
  その時、奴の目の前に巨大な黒い飛行物体が降り立った。ステルス航空機だ。その中に、あの男、江飛凱が笑みを浮かべて立っていた。
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