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第4章 ナターシャ
4-15 混戦
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迫り来る黒目のゾンビを僕はグラインドで動かした道路標識で薙ぎ倒していく。
「なかなかやりおるのー。だーがー、増援も到着したどー」
ブルヘリアの言葉通り、奴の背後から何台もの車がやって来た。その車には何人も白塗り人間達が乗っていた。こっちはゾンビではなく、まだ生きているこの街の住人だ。
「生きた人間だろうが、俺達を邪魔する奴ァ全員ぶっ倒す!」
ドドは周りのゾンビを蹴散らして進む。ドドが倒したゾンビの頭に向かって、僕はグラインドで動かした道路標識の看板部分を振り下ろし、その頭を首から切り落としていく。
「2人ともお気をつけなさいませ! 上からまた敵が狙ってます!」
ミルちゃんの言葉通り、周りのビルの窓や屋上から白塗り人間達が銃を撃ってきている。
「数が多い。僕にまかせて」
僕は周りのビルの窓ガラスをグラインドで割って、その無数の破片を周りの人間達に飛ばす。
「なんたる非道な所業。だが、調子に乗るなよ若造」
空を飛んでいたバルズムが僕に向けて無数の黒い鳥を差し向けた。
「お爺さんこそ、調子に乗らないでくださいます?」
ミルちゃんがそう言うと同時に、僕の目の前に中型トラックが上を向いた状態で出現した。それによって黒い鳥の襲撃を防ぐ事が出来た。
「ミルちゃん。ありがとう」
「想様! このミルティーユ、いつでも想様をお守り致します!」
ミルちゃんは僕の目の前に現れたトラックの上に立っていた。
「ふん。生意気な小娘が!」
僕を襲おうとしていた黒い鳥の群れが、今度はミルちゃんを襲う。が、すぐにミルちゃんは瞬間移動で消え去る。
「あなたの攻撃など、このわたくしには当たりませんわよ?」
ミルちゃんは、黒い鳥に乗って空中に飛ぶバルズムの真下にいた。その手にライフルのような細長い筒を持って。
それは、火炎放射器だった。ミルちゃんは、下からその火炎放射器を噴射し、大きな炎がバルズムを襲った。
「炎がいつまでも効くと思うなよ」
バルズムを乗せた黒い鳥がスピンしながら上昇する。
「なら、これはどうだ?」
僕は、先程ミルちゃんが出現させたトラックを既に動かしていた。バルズムがそれに気付いた時には、既にそのトラックが奴の目前にまで迫っており、黒い鳥もろともバルズムにトラックが激突する。
「ぬおー!? おのれぇー!」
バルズムはトラックに押されながらも叫んでいた。
僕は白塗りの信者達が乗ってきた別の軽トラックを目の前まで持ってきて、その荷台部分に乗りグラインドの力によって走り出す。
「ドド! 乗って!」
周りの黒目ゾンビを轢き倒しながらドドの元にまで向かう。彼は軽々と荷台部分に飛び乗る。
「ふぅー! やっと一息つけるぜ」
ドドはずっとゾンビや白塗り信者を蹴散らし続けていたからな。そして、そこにミルちゃんも現れる。
「想様の運転でドライブでございますわね!」
戦いの中でも楽しそうにしている。本当、元気な娘だ。
「そんな楽しいものじゃないよ。奴を追うからね」
空中でバルズムを押していたはずのトラックの動きが止まっている。やはり奴はこの程度ではやられない。
トラックの周りに無数の黒い鳥が張り付き、そのトラックを投げ飛ばし、それは近くのビルへと激突する。
「おのれー! 忌々しい小僧め! いっそわしの手で殺してくれよう!」
憎悪に満ちた表情を浮かべたバルズムが、僕らを乗せて走る軽トラックの斜め上の上空を飛び始める。
「ふっ、璃風でヘリに追っかけられた時みてぇだな!」
ドドが不敵に笑う。確かにそうだ。だが、あの時みたいにロープでどうこうはならないだろう。バルズムは再び無数の黒い鳥を僕らの軽トラックに向けて放とうとしていた。
「ミルちゃん、また車を寄越してくれないか?」
「承知致しましたわ!」
すると、すぐに僕らの頭上に乗用車が現れた。それを僕はグラインドで動かして、黒い鳥の突撃を防ぐ。さらにその乗用車の向きを変え、バルズムに向けてぶつける。
「馬鹿にしおって!」
バルズムは大きな黒い鳥を出現させ、それで防いでいたが、僕のグラインドの威力に押されつつある。
「言ったでしょう? わたくしたちの邪魔をする者は、ぶっ倒すと」
ミルちゃんはいつの間にか僕が飛ばした車のボンネットの上に乗っており、さっきのドドの言葉を自分の言葉のように言う。そして、バルズムに向けて拳銃を連発した。
「ぬぐうぉ!?」
バルズムは銃撃と乗用車の激突を受け、近くのビルへと衝突して行った。
「やりましたわー!」
と、ミルちゃんが軽トラックの荷台へと戻ってきた。
「なんだい爺さん。楽しそうに遊んでるじゃないか」
と、どこからか声が聞こえた。次の瞬間、僕達が乗っていた軽トラックが激しい衝撃を受け、爆発した。
「な、なんだ!? 何が起きた?」
僕達は爆発で飛ばされ、3人とも地面を転がった。そこは勾配のある曲がりくねった大通りだった。
「痛いですわぁ……」
「大丈夫かミルちゃん?」
咄嗟にドドはミルちゃんを受け止め、衝撃を緩和していてくれたようだ。
「くっ、マードック、遅いぞ」
バルズムが大きな鳥の上にしゃがみながら飛んできた。
その下の道路に、男がいた。いや、若い。まだ高校生くらいの少年だ。逆立った金髪は風でゆらゆら揺れている。身長は僕と同じくらいだ。
黒いワイシャツを着て、黒いパンツを履いている。
「はっ。寝坊だ馬鹿野郎」
そう言って、『マードック』と呼ばれた少年は自身の金髪頭を搔いている。
「君も、教団の1人なのか?」
僕が聞くと、マードックは歯茎を剥き出しにして笑う。
「おうおう! 青緑兄さんよ! そうだ! 俺様がマードックだ! ガキだからって甘く見んなよー?」
マードックはそう言うと、僕に向けて腕を伸ばす。その腕の上に、黒く細長い筒が現れる。それは、戦車砲だった。その筒が爆発するような火を噴く。
「まずいっ!」
咄嗟に、先程バラバラにされた軽トラックのパーツを集め、それを何重にも重ねて防御する。しかし、着弾と同時に僕の身体は大きく吹っ飛ばされた。
「想様!? よくも……よくも想様を!」
僕は30m程吹き飛ばされ、地面に激突したが、ミルちゃんが瞬間移動でマードックの懐に飛び込むのが見えた。その手に持った拳銃を、近距離から撃とうとしている。
「おー怖い怖い。怖いレディーは嫌われるよー?」
マードックは、拳銃を持ったミルちゃんの手を蹴り上げてその拳銃を飛ばした。そして、腕の戦車砲を今度はミルちゃんに向けている。
「ミルちゃん!」
この距離じゃ、間に合わない。あの至近距離で受けたら、ミルちゃんの命は……そう考えている間に、無情にも爆発が起きた。
「うーん! すごい爆発だねぇ。たださ、女の子にそんな物騒な物向けたら、それこそレディーに嫌われちゃうよキミー?」
爆発による煙が晴れていく。この声は……。
「あん? 誰だおめぇ?」
マードックが顔を顰める。ミルちゃんは無事だった。
そのミルちゃんの前に、赤いゴスロリワンピースを着た女性がいた。白銀髪でツインテールの女性は、黒いタイツに黒いスニーカーという不釣り合いな組み合わせをしていた。
「吹っ飛べ!」
「んおーっ!?」
女性が叫ぶと同時に、マードックは50m程吹き飛ばされる。
「姉さん!」
そう、僕の姉だった。まさか、あのゴスロリ姿で現れるとは。
姉の背後に座り込んだミルちゃんは、ぽかんと口を開けて驚きながら僕と姉を交互に何度も見ている。
「ミルちゃーん! 大丈夫だった? 初めまして! そーくんの姉、煉美でございますわ!」
ミルちゃんの口調を真似て、姉はミルちゃんの手を取っていた。
「お、お、お姉様ー!? 想様のお姉様!? 確か、お亡くなりのはずですよね? え、幽霊なんですの!? は、初めまして! 一颯・ミルティーユ・ルヴィエと申します! よろしくお願い致します! 危ない所を助けていただき、誠にありがとうございます!」
ミルちゃんは姉の手を握りながら何度も頭を下げている。
「うん、幽霊! そーくんと仲良くしてあげてね」
「も、もちろんでございます! こちらこそでございます! その、まさか想様のお姉様もゴスロリを嗜むとは存じておりませんでした! 感激であります!」
ミルちゃんは目を輝かせている。姉はくるりと回ってワンピースの裾をたなびかせる。
「ふふっ。ミルちゃんに合わせてきたんだー。どう? 似合ってる?」
「はい! とっても! とっても可愛いお召し物でございますわ!」
ミルちゃんはすっかり興奮してしまっている。僕も姉さんの元へと歩いて近寄る。姉はすぐに僕に気付いて笑いかける。
が、その僕を追い越して姉に駆け寄る人間がいた。
「煉美さんっ! まーじかー!? ほ、本当に煉美さんがいるぞ! また会えるなんて、俺、もう言葉が出ねぇよ!」
ドドだった。姉はまだミルちゃんと手を繋いでおり、空いてるもう片方の手をドドは握り、ぶんぶん振り回している。人気者だな、姉は。
「はははっ! ドドくんこの前は会えなかったからね。相変わらず元気そうでよかった。そーくんの事、いつも守ってくれてありがとう」
ドドは一瞬泣き出しそうになったが、そこで長い黒髪を揺らしながら顔をぶんぶん振り、笑顔になる。
「おいおいおーい! こっちを無視すんなよ女ー!」
と、マードックが走りながら腕の戦車砲を撃つ。が、姉はそれを片手で受け止める。姉のグラインド、「アンチセシス」による重力操作で砲弾は威力を失い、それは逆にマードックへと返される。
だが、マードックに当たる前にその砲弾は消え去った。自身の砲弾だから消す事ができるのだろう。
「全く。せっかくみんなとお喋りしてたのに水を差すとは、なかなか無粋だねー。それじゃあ女の子にモテないよー?」
姉は相手を挑発する事が得意だ。
「はっ! ああどうも! ちょっと綺麗だからって調子乗ると痛い目見るもんだぜ?」
マードックはそう言って挑発を跳ね除けると、一気に姉との距離を詰める。
「そうだ。調子乗って痛い目見るのはお前だ」
マードックはすぐに姉の目前にいた。いや、姉が重力によってマードックの身体を引き寄せていた。
そして、そこに姉が重力を込めた拳を当てる。重力と重力の挟撃をくらい、凄まじい衝撃音を立て、マードックは声にならない叫び声を出し、その場に蹲る。
「あ、『綺麗』って言ってくれたのは素直に受け取っとくわ! ありがとな!」
そう言って、姉は蹲るマードックを容赦なく蹴り上げて吹っ飛ばした。ゴスロリ姿でもいつもとなんら変わらない動きだ。
「な、なんだこの女は!? 化け物か!? くっ、退治してくれるわ!」
と、空中にいたバルズムが大きな鳥に乗りながら突撃してきた。
「だーかーら! 幽霊なんだって――ばっ!」
そう言って、姉は後ろ回し蹴りで黒い鳥ごとバルズムを吹き飛ばす。
「おいおい。煉美さん昔よりも強ぇじゃねぇか」
ドドは呆然としながらも、姉の強さにどん引きしていた。グラインドの力があるから生前よりも更に強いのだろう。
「はわぁーん! やはりお姉様かっこいいですわー! 本当に、伝説の正義の味方ですわー!」
ミルちゃんは手を組み合わせて感動していた。
「はははは……そこまで言われちゃうと流石に照れるねー。伝説だなんてそんな」
めちゃくちゃ上機嫌じゃないか。
「よかったね、姉さん。ミルちゃんに好かれちゃったじゃん」
僕がそう言うと、余計嬉しそうに笑っている。だがその時、先程吹き飛ばされたマードックが再び起き上がる。
「面白ぇじゃねぇか! 幽霊と殺し合いできるなんてよぉ!」
頭から血を流しながらも、その男は暗くなりつつある空に向かって吠えていた。
「なかなかやりおるのー。だーがー、増援も到着したどー」
ブルヘリアの言葉通り、奴の背後から何台もの車がやって来た。その車には何人も白塗り人間達が乗っていた。こっちはゾンビではなく、まだ生きているこの街の住人だ。
「生きた人間だろうが、俺達を邪魔する奴ァ全員ぶっ倒す!」
ドドは周りのゾンビを蹴散らして進む。ドドが倒したゾンビの頭に向かって、僕はグラインドで動かした道路標識の看板部分を振り下ろし、その頭を首から切り落としていく。
「2人ともお気をつけなさいませ! 上からまた敵が狙ってます!」
ミルちゃんの言葉通り、周りのビルの窓や屋上から白塗り人間達が銃を撃ってきている。
「数が多い。僕にまかせて」
僕は周りのビルの窓ガラスをグラインドで割って、その無数の破片を周りの人間達に飛ばす。
「なんたる非道な所業。だが、調子に乗るなよ若造」
空を飛んでいたバルズムが僕に向けて無数の黒い鳥を差し向けた。
「お爺さんこそ、調子に乗らないでくださいます?」
ミルちゃんがそう言うと同時に、僕の目の前に中型トラックが上を向いた状態で出現した。それによって黒い鳥の襲撃を防ぐ事が出来た。
「ミルちゃん。ありがとう」
「想様! このミルティーユ、いつでも想様をお守り致します!」
ミルちゃんは僕の目の前に現れたトラックの上に立っていた。
「ふん。生意気な小娘が!」
僕を襲おうとしていた黒い鳥の群れが、今度はミルちゃんを襲う。が、すぐにミルちゃんは瞬間移動で消え去る。
「あなたの攻撃など、このわたくしには当たりませんわよ?」
ミルちゃんは、黒い鳥に乗って空中に飛ぶバルズムの真下にいた。その手にライフルのような細長い筒を持って。
それは、火炎放射器だった。ミルちゃんは、下からその火炎放射器を噴射し、大きな炎がバルズムを襲った。
「炎がいつまでも効くと思うなよ」
バルズムを乗せた黒い鳥がスピンしながら上昇する。
「なら、これはどうだ?」
僕は、先程ミルちゃんが出現させたトラックを既に動かしていた。バルズムがそれに気付いた時には、既にそのトラックが奴の目前にまで迫っており、黒い鳥もろともバルズムにトラックが激突する。
「ぬおー!? おのれぇー!」
バルズムはトラックに押されながらも叫んでいた。
僕は白塗りの信者達が乗ってきた別の軽トラックを目の前まで持ってきて、その荷台部分に乗りグラインドの力によって走り出す。
「ドド! 乗って!」
周りの黒目ゾンビを轢き倒しながらドドの元にまで向かう。彼は軽々と荷台部分に飛び乗る。
「ふぅー! やっと一息つけるぜ」
ドドはずっとゾンビや白塗り信者を蹴散らし続けていたからな。そして、そこにミルちゃんも現れる。
「想様の運転でドライブでございますわね!」
戦いの中でも楽しそうにしている。本当、元気な娘だ。
「そんな楽しいものじゃないよ。奴を追うからね」
空中でバルズムを押していたはずのトラックの動きが止まっている。やはり奴はこの程度ではやられない。
トラックの周りに無数の黒い鳥が張り付き、そのトラックを投げ飛ばし、それは近くのビルへと激突する。
「おのれー! 忌々しい小僧め! いっそわしの手で殺してくれよう!」
憎悪に満ちた表情を浮かべたバルズムが、僕らを乗せて走る軽トラックの斜め上の上空を飛び始める。
「ふっ、璃風でヘリに追っかけられた時みてぇだな!」
ドドが不敵に笑う。確かにそうだ。だが、あの時みたいにロープでどうこうはならないだろう。バルズムは再び無数の黒い鳥を僕らの軽トラックに向けて放とうとしていた。
「ミルちゃん、また車を寄越してくれないか?」
「承知致しましたわ!」
すると、すぐに僕らの頭上に乗用車が現れた。それを僕はグラインドで動かして、黒い鳥の突撃を防ぐ。さらにその乗用車の向きを変え、バルズムに向けてぶつける。
「馬鹿にしおって!」
バルズムは大きな黒い鳥を出現させ、それで防いでいたが、僕のグラインドの威力に押されつつある。
「言ったでしょう? わたくしたちの邪魔をする者は、ぶっ倒すと」
ミルちゃんはいつの間にか僕が飛ばした車のボンネットの上に乗っており、さっきのドドの言葉を自分の言葉のように言う。そして、バルズムに向けて拳銃を連発した。
「ぬぐうぉ!?」
バルズムは銃撃と乗用車の激突を受け、近くのビルへと衝突して行った。
「やりましたわー!」
と、ミルちゃんが軽トラックの荷台へと戻ってきた。
「なんだい爺さん。楽しそうに遊んでるじゃないか」
と、どこからか声が聞こえた。次の瞬間、僕達が乗っていた軽トラックが激しい衝撃を受け、爆発した。
「な、なんだ!? 何が起きた?」
僕達は爆発で飛ばされ、3人とも地面を転がった。そこは勾配のある曲がりくねった大通りだった。
「痛いですわぁ……」
「大丈夫かミルちゃん?」
咄嗟にドドはミルちゃんを受け止め、衝撃を緩和していてくれたようだ。
「くっ、マードック、遅いぞ」
バルズムが大きな鳥の上にしゃがみながら飛んできた。
その下の道路に、男がいた。いや、若い。まだ高校生くらいの少年だ。逆立った金髪は風でゆらゆら揺れている。身長は僕と同じくらいだ。
黒いワイシャツを着て、黒いパンツを履いている。
「はっ。寝坊だ馬鹿野郎」
そう言って、『マードック』と呼ばれた少年は自身の金髪頭を搔いている。
「君も、教団の1人なのか?」
僕が聞くと、マードックは歯茎を剥き出しにして笑う。
「おうおう! 青緑兄さんよ! そうだ! 俺様がマードックだ! ガキだからって甘く見んなよー?」
マードックはそう言うと、僕に向けて腕を伸ばす。その腕の上に、黒く細長い筒が現れる。それは、戦車砲だった。その筒が爆発するような火を噴く。
「まずいっ!」
咄嗟に、先程バラバラにされた軽トラックのパーツを集め、それを何重にも重ねて防御する。しかし、着弾と同時に僕の身体は大きく吹っ飛ばされた。
「想様!? よくも……よくも想様を!」
僕は30m程吹き飛ばされ、地面に激突したが、ミルちゃんが瞬間移動でマードックの懐に飛び込むのが見えた。その手に持った拳銃を、近距離から撃とうとしている。
「おー怖い怖い。怖いレディーは嫌われるよー?」
マードックは、拳銃を持ったミルちゃんの手を蹴り上げてその拳銃を飛ばした。そして、腕の戦車砲を今度はミルちゃんに向けている。
「ミルちゃん!」
この距離じゃ、間に合わない。あの至近距離で受けたら、ミルちゃんの命は……そう考えている間に、無情にも爆発が起きた。
「うーん! すごい爆発だねぇ。たださ、女の子にそんな物騒な物向けたら、それこそレディーに嫌われちゃうよキミー?」
爆発による煙が晴れていく。この声は……。
「あん? 誰だおめぇ?」
マードックが顔を顰める。ミルちゃんは無事だった。
そのミルちゃんの前に、赤いゴスロリワンピースを着た女性がいた。白銀髪でツインテールの女性は、黒いタイツに黒いスニーカーという不釣り合いな組み合わせをしていた。
「吹っ飛べ!」
「んおーっ!?」
女性が叫ぶと同時に、マードックは50m程吹き飛ばされる。
「姉さん!」
そう、僕の姉だった。まさか、あのゴスロリ姿で現れるとは。
姉の背後に座り込んだミルちゃんは、ぽかんと口を開けて驚きながら僕と姉を交互に何度も見ている。
「ミルちゃーん! 大丈夫だった? 初めまして! そーくんの姉、煉美でございますわ!」
ミルちゃんの口調を真似て、姉はミルちゃんの手を取っていた。
「お、お、お姉様ー!? 想様のお姉様!? 確か、お亡くなりのはずですよね? え、幽霊なんですの!? は、初めまして! 一颯・ミルティーユ・ルヴィエと申します! よろしくお願い致します! 危ない所を助けていただき、誠にありがとうございます!」
ミルちゃんは姉の手を握りながら何度も頭を下げている。
「うん、幽霊! そーくんと仲良くしてあげてね」
「も、もちろんでございます! こちらこそでございます! その、まさか想様のお姉様もゴスロリを嗜むとは存じておりませんでした! 感激であります!」
ミルちゃんは目を輝かせている。姉はくるりと回ってワンピースの裾をたなびかせる。
「ふふっ。ミルちゃんに合わせてきたんだー。どう? 似合ってる?」
「はい! とっても! とっても可愛いお召し物でございますわ!」
ミルちゃんはすっかり興奮してしまっている。僕も姉さんの元へと歩いて近寄る。姉はすぐに僕に気付いて笑いかける。
が、その僕を追い越して姉に駆け寄る人間がいた。
「煉美さんっ! まーじかー!? ほ、本当に煉美さんがいるぞ! また会えるなんて、俺、もう言葉が出ねぇよ!」
ドドだった。姉はまだミルちゃんと手を繋いでおり、空いてるもう片方の手をドドは握り、ぶんぶん振り回している。人気者だな、姉は。
「はははっ! ドドくんこの前は会えなかったからね。相変わらず元気そうでよかった。そーくんの事、いつも守ってくれてありがとう」
ドドは一瞬泣き出しそうになったが、そこで長い黒髪を揺らしながら顔をぶんぶん振り、笑顔になる。
「おいおいおーい! こっちを無視すんなよ女ー!」
と、マードックが走りながら腕の戦車砲を撃つ。が、姉はそれを片手で受け止める。姉のグラインド、「アンチセシス」による重力操作で砲弾は威力を失い、それは逆にマードックへと返される。
だが、マードックに当たる前にその砲弾は消え去った。自身の砲弾だから消す事ができるのだろう。
「全く。せっかくみんなとお喋りしてたのに水を差すとは、なかなか無粋だねー。それじゃあ女の子にモテないよー?」
姉は相手を挑発する事が得意だ。
「はっ! ああどうも! ちょっと綺麗だからって調子乗ると痛い目見るもんだぜ?」
マードックはそう言って挑発を跳ね除けると、一気に姉との距離を詰める。
「そうだ。調子乗って痛い目見るのはお前だ」
マードックはすぐに姉の目前にいた。いや、姉が重力によってマードックの身体を引き寄せていた。
そして、そこに姉が重力を込めた拳を当てる。重力と重力の挟撃をくらい、凄まじい衝撃音を立て、マードックは声にならない叫び声を出し、その場に蹲る。
「あ、『綺麗』って言ってくれたのは素直に受け取っとくわ! ありがとな!」
そう言って、姉は蹲るマードックを容赦なく蹴り上げて吹っ飛ばした。ゴスロリ姿でもいつもとなんら変わらない動きだ。
「な、なんだこの女は!? 化け物か!? くっ、退治してくれるわ!」
と、空中にいたバルズムが大きな鳥に乗りながら突撃してきた。
「だーかーら! 幽霊なんだって――ばっ!」
そう言って、姉は後ろ回し蹴りで黒い鳥ごとバルズムを吹き飛ばす。
「おいおい。煉美さん昔よりも強ぇじゃねぇか」
ドドは呆然としながらも、姉の強さにどん引きしていた。グラインドの力があるから生前よりも更に強いのだろう。
「はわぁーん! やはりお姉様かっこいいですわー! 本当に、伝説の正義の味方ですわー!」
ミルちゃんは手を組み合わせて感動していた。
「はははは……そこまで言われちゃうと流石に照れるねー。伝説だなんてそんな」
めちゃくちゃ上機嫌じゃないか。
「よかったね、姉さん。ミルちゃんに好かれちゃったじゃん」
僕がそう言うと、余計嬉しそうに笑っている。だがその時、先程吹き飛ばされたマードックが再び起き上がる。
「面白ぇじゃねぇか! 幽霊と殺し合いできるなんてよぉ!」
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