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65: とある人気者子爵は姪っ子にも大人気。

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「叔父様叔父様~!ねぇ、聞いて♪あのね、この前カフェでね……あ、それと、お友達のサンローズがね……そうそう、最近流行ってる劇はもう見た??…ねぇ、叔父様!……それと叔父様!……あ、叔父様!」

可愛い姪っ子達が、モモタウロ子爵の腹をたゆんたゆんと揺らしながらキャイキャイ話し掛けてくる。
その可愛らしい光景に、モモタウロ子爵は激甘ココアに浸したビターチョコクッキーを齧りながら困った様な笑みを浮かべた。

誰の話もちゃんと聞いてくれる太った叔父は、みんなの人気者で、四姉妹は自分の話を一番に聞いて貰おうと、我先にと話し続ける。

今日はちょっと近くに来たついでに、伯爵家に嫁いだ姉の顔でも見ようと手土産片手にふらっと来たのだが、偶々可愛い姪っ子達が勢揃いで、あっという間にモモタウロ子爵は姪っ子達に取り囲まれてしまった。一度こうなると、夕食を共にしても帰して貰えるかどうか…。

(こんな事なら先触れを出すんだったな…。皆、すまないね…。)

静かに動き回る使用人達に目配せで謝罪の意を表すると、皆一様に、とんでもない、と言わんばかりに微笑む。

実際、先触れを出さなくても、モモタウロは伯爵夫妻が不在や多忙なら手土産だけ渡して直ぐに帰るし、使用人に無理難題も吹っ掛けないしで、いつ来て貰っても大歓迎な来客の一人であった。

お陰で四姉妹が一ヶ所に固まってくれるから、仕事が捗るわね♪なんてこっそり言い合いながら、使用人達は夕食の準備に精を出していた。


「それにしても、ぁぁ~ショックだわぁ…くすんっ」

三女があからさまに落胆の溜め息を吐き、哀しそうに首を振ってクッキーを齧る。

「やぁね、又この子は…。叔父様に聞いて欲しいからってわざとらしい。」

「まぁまぁ、姉さん。実際結構凹んでるんだから許してあげてよ…。」

「おや、どうしたんだね?」

三女の態度にうんざり、といった顔で呟く長女にフォローする次女と無言で苦笑する四女。
姉妹達は聞き飽きてる様だったが、モモタウロは三女を気遣う様に眉を下げて問い掛けた。
途端、嬉しそうに姉妹全員が口を開く。

「それがね、叔父様。ほら、この子は前からオキナ・タカサゴ様に御執心だったでしょう?」

「その大好きな大好きなオキナ様が最近元気がなくって。」「どうしたのかしらどうしたのかしらって毎日五月蝿いったら…」「そしたらね、なんと、オキナ様の最古参取り巻きの御令息がね?」

「ちょっと!私の事よ!私が叔父様にお話するんだから!聞いてよ叔父様ー!実はね……!」

わぁ、まさか此処でもブレーカー家のΩ君の話を聞くとは思わなかったな、と思いながら、モモタウロは三女の話をうんうん頷きながら聞き入った。

何でも、オキナ・タカサゴ君の最古参取り巻きとして、ネオン・ブレーカー君は同年代の子達の間では有名だったらしい。

派手な模様&目に突き刺さる色合いのファッションで、Ωでも無いのにド派手なカラーとΩフェロモン風香水をプンプンにして、いつでもオキナ・タカサゴ君の模擬試合等に駆け付けていたんだそうだ。

「いやちょっと、待っておくれ。ネオン・ブレーカー君はΩだと聞いてるんだけどな…?」

三女の"Ωでも無いのに"という言葉にモモタウロが待ったをかけるが、三女はさらりと当然の様に反論した。

「知ってるわ、この間の夜会でブレーカー侯爵が言及して、一気に噂が広まったもの。でもね、叔父様。皆ずっと彼の事、何故かΩのふりをしている変人令息だと思ってたのよ。」

「昔はあんなに派手な服装じゃなかったと思うけど、何か年々派手になっていったのよね…。顔が好みだっただけに残念に思ったのを覚えてるわ…。
茶会でも、一人でテーブルに座ってお茶を飲んでるだけで…。誰にも話し掛けに来なくて…。今思えば、Ωだから当然なんだけど。」

「……誰も本人に性別を聞かなかったのかい?」

三女の言葉に、長女が遠い目をして昔を懐かしむ。
二人の態度に思わず訊いたモモタウロは言ってしまってから、しまったな、と思った。
二人が傷付いた顔をしたのだ。

「だって、令嬢やΩから令息に話し掛けちゃいけないのよ?彼から話し掛けてくれなくちゃ、私達はお話出来ないわ!」

慌ててフォローに入る次女に、うんうん、と頷く姉妹達。

(でも、ネオン君はカラーを着けて、他のΩ令息と同じ様にしてたんだよね…?)

モモタウロは自身が子供の頃参加した茶会を思い出した。
令嬢やΩ令息達がテーブルに座ってキャッキャと歓談し、βやαの令息達は少し離れたカウンターで歓談しながら、時々、意を決したように令嬢達の方へと話し掛けに行く。
サキュレント特有の、甘酸っぱい少年少女の茶会。

(そこに、ずっと一人ぼっちで……?)

だが、今度は口に出さなかった。

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