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64: 以来、古びたピアノは我儘になり、王都七不思議に数えられた。

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今がその刻、今夜は戦いの夜♪天井をぶち破って騒げ♪♪

愉しそうにトランペットを吹くのに合わせて、俺は鍵盤を爆走し、ジュリアが歌いながらトランペッターの胸倉を掴んで吊り上げる。
なのに、何故かトランペッターは平気な顔で演奏を続け、足は空中に見えない床でもあるのかと思う華麗なステップだ。

「パパパパラパパーパー♪……パプ、パンパパッパッパ~?」

「俺、何かやっちゃった~?じゃねぇ。とっとと終われ。ネオンはもう帰るんだから…!」

トランペッターが演奏の合間にトランペットで喋るが、ジュリアはそれをキッチリ理解してるらしく、不思議と会話が成立していた。
そして、ジュリアが怒ってるのにトランペッターは悪びれもせず、その弧を描いた瞳は明らかに面白がっている。

「パンパ~♪パーパプゥ~?」

「そんな~、どーしてぇー?じゃねぇよ!トランペットで喋るな!」

いや、ジュリア凄いな。完璧にトランペット語を理解してる…。
トランペッターも本当に喋ってるみたいに吹くのが上手いんだけど、ジュリアの察する能力も凄くない?

弾きながら見守る俺の目の前で、ジュリアとトランペッターの寸劇は続く。

「プゥィプゥィー♪」

「HEYHEY~♪じゃねぇ、スローダウンだ!」

なんて言い合う二人を眺め、笑いながらピアノを弾く。
ナントカ調ピアノはトランペットとのセッションが気に入ったのか、見た目の古さから想像できない艶やかで生き生きとした音で唄って見せてくれた。

すっかりダンスが上達した蘊蓄令嬢二人と騎士も中々良い雰囲気で、成り上がり令嬢は何かの境地に達したのかブリンブリンと晴れやかな顔付きだ。

凄く楽しかった。

夜会を楽しんだと言うよりは、夜会に自分のホームグラウンドを持ち込んだと言う感じだし、デビュタントとしては家族に滅茶苦茶怒られるレベルの大暴れだと思う。

だが、ぶっちゃけこのまま貴族社会とはおさらばで、繁華街の片隅で面白おかしく暮らしても良いかな、なんて本気で思ってた俺にとって、何だかとても自分らしいデビュタントを過ごせた気がしていた。

優しく頼もしい恋人が居て、ピアノでそこそこ食べていける位評価されてて、心地良い居場所が有って、沢山の素敵な友人が居て…。

これ以上何を望む?って位、満ち足りて幸せで…。

俺はナントカ調ピアノを、幸せに浸りながら弾き続けた。
なんせ、かなり酔ってたしね。


そんな、脳内お花畑~多めのお酒を添えて~な状態だったもんだから、俺はオキナに夜会で会おうと約束してたなんて当然の如く忘れていたし、このわちゃわちゃを呆然とオキナが眺めてるなんて微塵にも思わなかった。

勿論、そんなオキナの背後で、俺を知ってる幾人かの子息達が面白く無さそうに見ていたのも、全く気付けなかった……。

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