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フライブルク砦

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 一両日かけて、フライブルク砦に到着した烈たちはようやく一息付けた形となった。ミアはクリスと執務室に行き、鉄百合団の幹部たちと今後の方針を練るために出て行った。残りの三人---烈とラングとルルは、与えられた部屋で小休止を取った後、砦の中を見て回ることにした。

「男爵の屋敷を見た後だからか、なんとなく落ち着くねぇ」

「だな。これだけ見てもクリス団長の人柄がよくわかる」

 目を細めるラングに、烈が頷いた。

「というと? どういうことです?」

 それを聞いたルルが、きょとんと可愛らしく首を傾げた。

「ゴードウィン男爵の屋敷はどうだった?」

 烈が聞くと、ルルはフンスと鼻息を荒くして、両こぶしを胸の前まで掲げて、興奮したように答えた。

「キラキラしてました! 目に痛かったです!」

「そうだな。金をかけて贅沢なものを買い込み、見栄が充満しているような屋敷だった」

「確かに......燃えちゃったのはちょっともったいなかったです」

「はは! 何か持ってくればよかったな。だが比べると、この砦の様子はどうだい?」

「うーん......騎士さんたちがすごくいっぱいいるはずなのに、すごく静かです!」

「ああ、つまりそういうことさ。住居というのはそこに住む主人の性格が反映される。この砦は物静かで、規律を好むクリスの性格をしっかりと反映されているということさ」

「それだけじゃありませんぞ?」

 突然野太い声がかけられた。烈たちが声の方をゆっくりと振り向くと、そこには奇妙な存在がいた。浅黒く日焼けした筋骨隆々の体格に、そこから生える丸太のように太く、傷だらけの腕。首はルルの頭ほども太く、顔から立派なカイゼル髭が生えている。そしてその目はどこまでも優しかった---そこまでならよかった。ハート柄の......ピンクのフリフリエプロンをしていなければ......

「ひっ!?」

 あまりに異様な光景にルルが思わず悲鳴を上げる。よく見れば、ご丁寧にエプロンの中心にはハートの柄まで刺繍されている。ラングですら、二の句が継げなくなっていた。そんな中、烈が勇気を振り絞った。

「あ......あの? あなたは?」

「おお、これは拙者としたことが失礼いたしました。拙者、ドーン・オズワルドと申します。鉄百合団の副官も務めておりますのでお見知りおきを」

「「「ふ......副官!!」」」

 一同、大いに驚いた。まさか、この目の前にいる変態がそのような重要人物などとは思わなかったからだ。ラングなど、こっそり剣の柄に手を掛けていた。

「そ......それで、なぜそのような格好を?」

「ああ、これですか? 実は拙者はお菓子作りが趣味でしてな。ご客人がいらしたので、案内もかねてぜひご賞味いただこうと思いましてな」

「は......はあ?」

「ぜひ、どうです? このマドレーヌなぞ、自分でも会心の出来だと思っておりまして」

「あ......ああ......じゃあありがたく一つ」

 烈は恐る恐る、目の前に差し出された、菓子の一つを手に取って食べた。

「う......うまい!」

 驚いたことに、確かに絶品ともいえる味だった。烈の反応を見て、ラングとルルも菓子を手に取る。

「うお! うまい!」

「わあ! おいしいです!!」

 特にルルは気に入ったようで、そのまま次々と口に運んでいた。やはり気丈にふるまっていても女の子ということなのだろう。

「気に入ってもらえてようで、よかったです」

 三人の反応を見て、ドーンもにっこりと笑った。

「お口に召したようでよかったです」

「しかし、なぜ副官のあなたがわざわざお菓子を?」

「なに、騎士団というのは男所帯ですからな。こういう所に気が付かないと、細部がどんどんおざなりになってしまうのですよ」

 そう言って、ドーンはかっかっかと笑った。

「なるほど。じゃあクリス団長も?」

「ええ、そう言ったことを下に伝えたのも、彼の功績です。王国の『双剣』の一角という面でしか知られておりませんが、若干26歳で騎士団の団長に就任できたのは剣の腕だけではないということです」

「ああ、それがこの砦の静謐な雰囲気にも表れているということですか」

 まさに、とドーンが頷いていると、一人の兵士---伝令兵がこちらへ走ってきた。

「副団長! それにお客人の皆さま! 殿下と団長がお呼びです。団長室へ集まってほしいとのことです」

 その場にいた四人はすぐにといって、残りのお菓子を片付けて、団長室へを向かうことにした。
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