残響迷夢―惨劇の母体たち―

星坂 蓮夜

文字の大きさ
4 / 22

影と光2

しおりを挟む
 河野あかりに告白された時、彰巳は自身が怪異を宿す以外の全てを打ち明けた。

 母親による虐待。
 息子より恋人を優先する母親。
 母親と恋人の変死。
 そのおかげで餓死寸前で救出されたこと。

 自分を産んだ母親にすら愛されなかったのに、赤の他人に愛されるわけがないという思い。
 だからこそ、結婚する気も、恋人を作る気もないと、彰巳はハッキリとあかりに伝えた。

 それでもいいとあかりは言った。
 彰巳の傍に居たいとあかりは言った。
 彰巳は何度かあかりの影に触れたが、影が教えてくれる本心と、あかりの口にする言葉は、ピタリと一致した。

 彰巳とあかりは交際を始めた。
 しかし、長期の海外出張をきっかけに、2人はすれ違い始めた。

 彰巳のせいだった。
 あかりの言葉を信じられない彰巳のせいだった。
 影による本心の確認が出来ない彰巳は疑心暗鬼に陥り、そんな彰巳に流石のあかりも堪忍袋の緒が切れて……。
 2週間前の電話越しでの喧嘩の後、あかりと連絡が取れないまま、彰巳は帰国した。


 帰国の翌日、彰巳はあかりの部屋を訪れた。
 しかし、何度インターホンを鳴らしても、あかりの声は聞こえず、何の反応もない。
 出かけているのだろうか。
 それとも……やはりもう関係は修復できないのだろうか。
 前日から何度もかけているあかりのスマートフォンに電話を掛けるが、やはり繋がらない。

 帰ろう……。

 彰巳は力なくあかりの部屋を後にしようとして……郵便受けの前で立ち止まった。
 あかりの部屋の郵便受けには、郵便物やダイレクトメールの束が突っ込まれたままになっている。
 毎日郵便受けを確認する几帳面な彼女が、明らかに数日はこの郵便受けを確認していない。

 どうして、その考えに思い至らなかったのだろう。
 あかりの身に何かが起こったのかもしれない。
 何らかの事件に巻き込まれたのかもしれない。
 何故そういう発想に至らなかったのだろう。

 しかも、今の暁市は……。

「暁市、連続失踪事件……」

 被害者は全員男性だと報道されていたが、例えば男を拉致監禁する現場を目撃すれば、犯人が女性に手を出す可能性も、ゼロではない。

 彰巳は自分自身を責めた。
 連絡が途切れたその時点で警察に連絡していたら、あかりは……。

 彰巳は力の入らない身体を叱咤して、あかりの部屋の合鍵を取り出す。
 鍵を開ける音、扉を開ける音だけが響いた。

 生活音。
 人の息づかい。
 そういった音は一切聞こえない。

 あかりは不在だった。
 彰巳は膝を折り、呆然と人影のないあかりの部屋を眺めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...