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05話

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 女王陛下懐妊の報にクルミア王国中が沸いた。
 メルデスはこれを機に王位を娘に譲る決意をする。

 これを喜んだのがクルスである。
 単純にメルデスと共にいる時間が増えるからである。

 帝国からも祝いの使者が来た。
 外務省の重鎮である。
 他国を訪れるついでに寄ったに過ぎないが、クルミア国民がそんな事情を知るはずもなく熱狂的な歓迎を受けることになる。

 帝国側はこのことに殊の外驚いた。
 帝国は侵略国家である。
 外交使節団が他国の国民から歓迎を受けることなど何時以来のことか……
 慌てて調査した一行は女王陛下を一途に愛した少年に辿り着く。

 外国においての評判の悪さをコンプレックスに感じている帝国臣民を大いに勇気付けるだろうと、クルスに帝国名誉勲章授与の打診を行う。
 しかしクルスはこれを拒否した。
 理由は身重の妻の傍を離れられないからである。
 もっともメルデスが身重だろうとそうでなかろうとクルスには帝都に行く選択肢など一切なかったが。

 事情を鑑み叙勲は帝都においてルガード公爵家の者が代理で受ける。ということに話がまとまった。
 この時からルガード公爵家の4男とクルミア王国女王陛下との熱愛が徐々に帝国臣民に知られるようになってくる。



 クルミア王国では当たり前の事実が大きく注目され始めた。
 自分達が敬愛する女王陛下を無下に扱われた怒りと帝国への反感。
 一転して女王陛下を一途に愛するクルスへの評価の急激な上昇。
 余りにも感情の振れ幅が大きくて、誰もが頭でわかっていながら見過ごされてきたのだ。

 クルスは自分の母親より年上の女王陛下と結婚した。
 つまり、女王陛下は自分の娘より若い男の子と結婚したという事実をである。

 このことに過剰に反応したのは30代の女性である。
 しかも独身者・既婚者問わずにだ。
 次に20代・40代の女性も大きく反応した。
 男性からのこれまでの『女性は若さこそ正義』とする価値観に対する反動が一気に噴き出した。

 女性達は必死に情報を求めた。
 親子以上に歳の離れた男子との夫婦の営みがどのようなものか、具体的には何もわからないのである。


 王国は最初気にもしてなかった。
 せいぜい仕事の合間に話題に上る程度である。
 そもそも国府にしても各役所にしても女王陛下夫妻の夫婦の営みを問われたところで答えようがない。

 公式・非公式に問い詰めて来る女性達の対応が問題になり始めた頃、城の前で王国史上初(記録上)のデモが行われたことで事態は一変する。
 特定の年代の女性だけが反応してたことから幅広い年代の女性に影響が広がっていき、果ては一部の男性すら騒動に加担するようになったのだ。
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