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06話

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 これに非常に困惑したのが国府である。

 取り分けデモが行われたことの影響は殊の外大きかった。

 城の前で行われたことで物理的に城への出入りができないのだ。
 更に王国には治安維持の為の警備兵しかおらず大きな事件への対処が何も出来ないことが浮き彫りになってしまった。

 『女王陛下夫妻の夫婦の営みを公開するか否かについて』
 このことを議題とする閣僚会議が連日行われてることを知ったメルデスが、
 『私の統治は間違っていたのか』
 と嘆いた逸話は後々他国にまで知れ渡るようになる。


 会議の結果、国が直接公開するという事態は避けることが決まり、各種方法が討議されて結局本を出版することに決定した。
 要は女性達の知的欲求を満たしてしまえばこの騒動は収まるだろうという結論に至ったのである。

 国から依頼された30代の女性の作者がメルデスとクルスの下に数日間取材の為に訪れた。
 メルデスを愛し…溺愛してると公言しているクルスは何も恥じることはないと積極的に取材に応じ、夫婦の営みも包み隠さずに答えていく。
 それに釣られるかのようにメルデスも微に入り細を穿つ質問に事細かに答えてしまうことになる。

 取材中に奇声を上げたり痙攣したり鼻血を出す作者の奇行が度々見られ周囲を大いに不安がらせたが、最初に国に届けられた下書きは意外とまともだった。
 ほぼ女性視点…つまりメルデス視点の語り口がもっと客観性を持たすべきと多少問題になったものの、読むのもこちらの目的も女性(達の沈静化)だしで片付けられた。

 大問題になったのは後日送られてきた2冊目の下書きである。
 これは全編に渡って夫婦の営みについて記されており、間違いなく騒いでる女性達が知りたいことが書かれているものの、公表は躊躇われる内容である。
 喧々諤々の議論が繰り広げられたものの結論に至らずに女王陛下の裁可を仰ぐこととなる。

 元々行為そのものが国事と密接に関係してること。
 夫であるクルスが賛成してること。
 近く王位を継ぐ娘の為にこの騒動を早く収束させたいこと。

 これらの理由から出版が許可されることとなった。

 明らかにその手の嗜好の第一人者が執筆した2冊の本は飛ぶように売れた。
 1冊目の純愛小説と価格が4倍はする2冊目の官能小説は他国にも大量に輸出された。
 取り分け一番の輸出先は帝国である。

 どのような選考基準でこの作者が選ばれたのかは資料が存在してない為に明らかになってない。
 巷では選考委員の妻達に入れ知恵をした集団の存在がまことしやかに囁かれた。
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