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第二章

ジーク・ハインデルク①

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ハインデルク公爵家嫡男のジークの表情筋が緩んでいた。

氷の貴公子
群れと認めた人には底なしに心を許すが
孤高の銀狼と言われている男の顔は
基本として喜怒哀楽が乏しい

そんなジークと邸内ですれ違った使用人は
いつもと明らかに違い、
上機嫌なのが隠せていない彼を見て
思わず誰もが立ち止まってしまう

だがあれ程心配していた公爵夫人の容態がかなり良くなった事を
邸内の使用人は、誰もが知っていたので
ある意味家族思いな彼らしいと誰もが納得して
立ち止まっていた足を動かし自分の仕事に戻った

もちろん最大の理由はその通りである
ただ彼がここまで機嫌が良い理由はもう一つあった

リーナ公爵令嬢が原因である
彼女が我が家について妹のビオラが
いきなりとんでも無い事を彼女に言ってしまった

妹はまだ幼く、あの子も我が一族特有の群れ意識があり

また、ジークに今まで自分から近づいて来た女性が
爵位目当てか一見の容姿目当て、若しくはその両方の
良くない女性しかいなくて
今回、国王頼みで我が家に来たリーナ嬢を良く思っていなかった

だがリーナ嬢にはリーナ嬢なりのトラウマやコンプレックスがあるのを私は知っていた
わざわざ隣国から我が家を頼って来た御令嬢に言って良い言葉では無い

私は傷ついたであろう彼女を見るのは怖かったが
そんな事を言っている場合では無いので彼女を見つめた

その顔見て私はびっくりした。
彼女の表情は、「無」であった

ショックで茫然自失しているのかと思いきや
彼女の周りからは、まるで何か珍妙な寸劇をみている様な雰囲気が漂っていた

その後彼女の侍女がリーナ令嬢が私に会いたがっていると聞いて驚いた。
私は疑問を覚えつつも彼女の元に向かった

彼女とあって、話をきいたが私は理解出来ずに困惑した。

治療法などの内容は良い、分からない事も多いが
聖女と言ってもその魔法が一辺倒で無い事は理解している

理解出来なかった事は、
私の妹が彼女のトラウマにさえなる様な言葉で侮辱したのは
つい先ほどである

それなのに目の前のご令嬢は
そんな事はとうに忘れていて
純粋に私の母親を心配して、
もしなにかあったら命まで差し出すと言っているのだ

あのアーク王子に溺愛されながら育った彼女が
私に一目惚れとかもあり得ないし欠片もそんな雰囲気もなかった

次に彼女を見た時には納得した
金色のオーラ、完全な金色の瞳
ああ、彼女もまた完全な存在なのだと

だが、完全な存在だと思った矢先に調理場で見たかの女は
年頃のご令嬢、いやむしろ本来の歳より幼く見えた

これであれば今で私に近づいて来たご令嬢の方が
よほど海千山千だった

あまりに酷いですよ、アーク王子
もう少し事前の情報を要求します

私は自分が一番であると思った事は無いし
妬む気持も全く無かった
むしろ学ばせて欲しいと思っている
だからアーク王子は苦手だった、完璧な人間から学べる事などないのだから

だがリーナ令嬢とあって私の認識は一新された

これから撒く薔薇の種が、どの様な花を咲かせ、
どの様に育ち、病気で枯れてしまうかさえも分かってしまう
それがわかっていても貴族として無為に種を蒔かないといけない人生

それに比べて、彼女の名誉が回復するまでの限りある時間とはいえ
彼女の成長と共に寄り添っていられる自分の人生の方が
良ほど人としては、『不完全な完璧』である様な気がしたのだ



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