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第三章

Shall we ダンス?

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この世の中には、大きく二種類の人間しかいない。
ジーク様に求婚された人間とそうでない人間である。

私は有頂天だった、お鼻高々であった。
昨晩久しぶりに、ガチョピンが遊びに来てくれた。

「久しぶりだね、リーナちゃん」
「本当に久しぶり、どうしていたの?」
「僕達は妖精さ、太った小さな子にしか見えない妖精、
皆大人になって、糖質抜きとか炭水化物抜きダイエットとか、
そう言い出して痩せていくのさ。
穴が開いていたらカロリーゼロとか言えるサンドバックマンみたいな、
ロマンを追いかける大人なんて滅多にいないさ」

「…ガチョピン」
「それに君がモック派だって知ってたしね」
「ッつ、ごめんなさい、私」
「良いさ、それでも君と踊ったダンスは楽しかったから」

「Shall we ダンス?」
「Yes、I am hungry」

優しく差し出されたガチョピンの手をとると、
二人は優雅に踊り出した。
二人は最後までサヨナラは言わなかった。
例え形が違っても、きっとまた会えるから。

久しぶりに酷い妄想だった。

その日は、朝早くから王城に行く事になった。
陛下は第一王子に頼まれて取り急ぎ封書を書いたが、
同盟国の筆頭公爵家で親戚筋である我が家にあまり無理難題はいえず、
表向きは親族の内々での集まりとして、急遽午前中の予定を空けてくれたらしい。

ジーク様やご両親も同伴してくれるといったが、
逆に王族と臣下の関係と対外的に認識されると不味いという事で、
私とお母様だけで、国王に謁見する事にした。

お父様は、国でお留守番しているらしい。
自国の宰相ではあるが、我が家の舵取りはお母様がしている。
お兄様も余程の事がない限りは口出しして来ない。

王家が向かいに来てくれた馬車に乗って、
私達の国の城よりも少しばかり新しい様式のお城についた。
幼い頃に来たらしいけど、正直全く覚えてない。

あの王城爆発事件から、こちらの国に来る時も、
あの段階であまり王家とのつながりを前面に出すのは、
傷心中の私が可哀想だと配慮してくれた為、
私的には初めてのご挨拶となる。

色々お母様から話を聞く限りは、
良い王様みたいなので、
今回打診を断っても問題なさそうだ。

王城に入ると謁見の間ではなく客間に案内された。

既に国王は部屋の中にいた為、
私とお母様は例に沿って挨拶をしようとしたが、
陛下に止められ親しい口調での話し合いとなった。

豪華な造りの部屋の中には、国王と最低限の近衛、
侍女長がいるだけで、仰々しい話し合いを想定していた私は一安心する事が出来た。

「リーナちゃん久しぶりじゃのう、わしの事を覚えておるか?」
「覚えている訳ないでしょう、久しぶりも何もリーナに会ったのは、
この子が赤ちゃんだった時の一度きりですよね」
「そうか、残念じゃの」

流石我がお母様、無礼講と言われた瞬間に遠慮が全く無い。
そして国王も気にしていない、お母様を知っているのか、
近衛も侍女長も全く動じていない、私だけが付いていけてない。

「取りあえず、二人共楽にしてくれ、
リーナちゃんは、お菓子いるかい?」

ちびっ子?ちびっ子待遇?

「いえ、平気です」
「そうか残念じゃな、山田さんが作った美味しいイチゴ味チョコじゃったのに」

誰、山田さん誰?
後でリアルちゃんに聞いてみよう。

「それで今日は婚約の件の返答を貰えると思っていいんじゃな」
「はい、家の娘はハインデルク公爵家嫡男のジーク子息に嫁がせます」

「そうか、ジークか、あの堅物を良く落としたのう、
我が息子も決して愚かでは無い、むしろリーナ嬢が王妃として支えてくれれば、
賢王と呼ばれても不思議は無い。
じゃが時代が悪かったのう、アーク卿にジークか、
あの二人が相手では流石に無理じゃな」
「レナード王子が優れた方なのは、存じておりますが、
娘の想いを一番に考えたいと思いますので」

「相分かったリーナ嬢、
これからは王となるレナードの臣下ジークを妻として支えてやってくれ」
「はい、ご期待に添えるように精進していきます」

愛する自分の息子ゆえに、その限界も痛いほど分かっているのだろう。
そして息子がこれを機に成長する事を信じて。

国王陛下との謁見は終わった。


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