23 / 442
イヴ、わたくしに力を貸してくださいませ。
しおりを挟む
「アリアンヌ様も、私も。理不尽に殺されてしまったから。このまま、やられっぱなしも嫌。何も知らないままなのも嫌。あんな結末も迎えたくない。そう願った時、私は記憶を持ったまま、昔に戻っていったのです」
「うん……なるほど」
さすがイヴですわね。セレステとしての記憶はでしょうが、私の要領の得ない話にもついていっています。
「……冤罪をかけられたこと。そして、悪意ある者に背中を押されて転落されて……でしたから」
「……それもまた、わからずじまいと。どうして、アリアンヌ様のような方が……」
イヴは信じられないといった面持ちで、胸を痛めているようです。それは私も同感ですわ。
さあ、まだ話は続きますわよ。ここからさらに、荒唐無稽な話となって参りますわよ。ああ、そうでした。結末と言い方、いかにも物語感がありますわね。変えましょう。
「結末……いえ、未来とさせてください。未来を望むには、私は殿方の思いを勝ち取らないとなりませんの。――ブリジット様に勝って」
「……へ?」
そうなりますわね。イヴは口をあんぐりと開けていました。何故、殿方の取り合いをする必要が生じるのか。相手もブリジット様なのか。――だって、乙女ゲーの世界ですもの。
「……冗談ではなくてよ。そういうことになってますのよ! ですが、友愛という形でも成り立ちますから。恋愛が成立しなくても、と申しましょうか?」
若干苦しくなってきましたわ。ゲームの世界だといっそ、ばらしたくなってきたくらい。聡いイヴもまだ混乱しているようですわ。『友愛ならギリか……』とか呟いてもいました。
「……イヴ。ブリジット様が殿方と結ばれることによって、それを機に破滅の未来へと誘われてしまうのです。私とて必死なのです。困難であると承知もしております。ですから――」
手、重ねたままでしたわね。私は、触れ合わせた手に思いを込めました。
「おかしな話でもあります。ですが、あなたのご助力も願いたいのです。どうか、私に力を貸してくださいませんか」
お願いします、イヴ。そして、セレステ。さらに苦労をかけますが、あなたの力が必要なのです。
「アリアンヌ様――お断りすることなんて、あります?」
イヴは微笑んでいた。
「あなたの御力になれる、それ以上の幸いなんてないから」
そう言って、イヴは快諾をしてくれました。
「ありがとうございました!」
私は嬉しさのあまり、手を強く握ってしまいました。ああ、和らげる為だったのに。本末転倒でした。私はそっと彼から手を離しました。思えば許可なく触れておりました。淑女に非ず。
「……ああ」
イヴは名残惜しそうに……なわけないですね。気のせいでしょう。
「――アリアンヌ様、こちらをご覧ください」
イヴが持ち出してきたのは、筆記用の本でした。そちらをテーブルに広げております。彼の綺麗な字で綴られているのは――殿方の情報。
「あなた……」
入学前に情報をまとめてくれると言っていましたが、ずっと書き溜めてくれていたのでしょうか。あなたという人は……!
「……いえ、本題はここからなので。そこで感動されても、話が進まないというか」
「あら、失礼しましたわ」
今のメタ発言ではなくて? まあ、その通りではありますけれども。
「あなたが、えっと……普通の友愛。そう、友人として? 彼らと関係を築きたいというなら。僕はこうした形でも御力になれるかなって」
イヴは昨日から探っていたと、そう加えておりました。 元々、イヴは情報屋という立ち位置ではありました。今回もそうしてくれるというのでしょうか。そのような寝不足になってまででもありましたから。あまり無理はして欲しくないものですが……。
「……粗方、調べ終えたから。もう無理はしないから」
「……そうですの。ありがとうございました。お世話になりますわね」
「うんっ」
私がそう言うと、イヴは頷いてくれました。私が見る限りは、嬉しそうでありました。
「そう、この本は僕が記したものだけど。でも……この数ページだけ。書いた覚えがないものがあって」
「どれどれ――」
イブが提示してくれたページ。可愛らしい絵やら、何らかのデータやら。数値は見当たりませんわね。
「そうそう、これこれ。これですわ。好感度ですわね」
私は見た瞬間に察しました。俗に言うあれですわね。――好感度画面のようです。
ページ両面に渡って四分割されております。表記されているのは、攻略対象の四名。デフォルメされた彼らの横、一つ一つハートが置かれてあります。おそらく、こちらで好感度を計れるのでしょう。
「……好感度?」
「……ええと、おそらくではありますが。ほら、こちらの形。この中に、薄い桃色のものが溜まっておりますでしょう?」
私はイヴに教えることにしました。彼もそうですが、私も不思議そうに見ておりました。本物の液体のように、動いているのですもの。
こう考えられるでしょう。イヴの本に、不思議な力でも宿ったのでしょうね。恩恵に授かったということで。
「うん……なるほど」
さすがイヴですわね。セレステとしての記憶はでしょうが、私の要領の得ない話にもついていっています。
「……冤罪をかけられたこと。そして、悪意ある者に背中を押されて転落されて……でしたから」
「……それもまた、わからずじまいと。どうして、アリアンヌ様のような方が……」
イヴは信じられないといった面持ちで、胸を痛めているようです。それは私も同感ですわ。
さあ、まだ話は続きますわよ。ここからさらに、荒唐無稽な話となって参りますわよ。ああ、そうでした。結末と言い方、いかにも物語感がありますわね。変えましょう。
「結末……いえ、未来とさせてください。未来を望むには、私は殿方の思いを勝ち取らないとなりませんの。――ブリジット様に勝って」
「……へ?」
そうなりますわね。イヴは口をあんぐりと開けていました。何故、殿方の取り合いをする必要が生じるのか。相手もブリジット様なのか。――だって、乙女ゲーの世界ですもの。
「……冗談ではなくてよ。そういうことになってますのよ! ですが、友愛という形でも成り立ちますから。恋愛が成立しなくても、と申しましょうか?」
若干苦しくなってきましたわ。ゲームの世界だといっそ、ばらしたくなってきたくらい。聡いイヴもまだ混乱しているようですわ。『友愛ならギリか……』とか呟いてもいました。
「……イヴ。ブリジット様が殿方と結ばれることによって、それを機に破滅の未来へと誘われてしまうのです。私とて必死なのです。困難であると承知もしております。ですから――」
手、重ねたままでしたわね。私は、触れ合わせた手に思いを込めました。
「おかしな話でもあります。ですが、あなたのご助力も願いたいのです。どうか、私に力を貸してくださいませんか」
お願いします、イヴ。そして、セレステ。さらに苦労をかけますが、あなたの力が必要なのです。
「アリアンヌ様――お断りすることなんて、あります?」
イヴは微笑んでいた。
「あなたの御力になれる、それ以上の幸いなんてないから」
そう言って、イヴは快諾をしてくれました。
「ありがとうございました!」
私は嬉しさのあまり、手を強く握ってしまいました。ああ、和らげる為だったのに。本末転倒でした。私はそっと彼から手を離しました。思えば許可なく触れておりました。淑女に非ず。
「……ああ」
イヴは名残惜しそうに……なわけないですね。気のせいでしょう。
「――アリアンヌ様、こちらをご覧ください」
イヴが持ち出してきたのは、筆記用の本でした。そちらをテーブルに広げております。彼の綺麗な字で綴られているのは――殿方の情報。
「あなた……」
入学前に情報をまとめてくれると言っていましたが、ずっと書き溜めてくれていたのでしょうか。あなたという人は……!
「……いえ、本題はここからなので。そこで感動されても、話が進まないというか」
「あら、失礼しましたわ」
今のメタ発言ではなくて? まあ、その通りではありますけれども。
「あなたが、えっと……普通の友愛。そう、友人として? 彼らと関係を築きたいというなら。僕はこうした形でも御力になれるかなって」
イヴは昨日から探っていたと、そう加えておりました。 元々、イヴは情報屋という立ち位置ではありました。今回もそうしてくれるというのでしょうか。そのような寝不足になってまででもありましたから。あまり無理はして欲しくないものですが……。
「……粗方、調べ終えたから。もう無理はしないから」
「……そうですの。ありがとうございました。お世話になりますわね」
「うんっ」
私がそう言うと、イヴは頷いてくれました。私が見る限りは、嬉しそうでありました。
「そう、この本は僕が記したものだけど。でも……この数ページだけ。書いた覚えがないものがあって」
「どれどれ――」
イブが提示してくれたページ。可愛らしい絵やら、何らかのデータやら。数値は見当たりませんわね。
「そうそう、これこれ。これですわ。好感度ですわね」
私は見た瞬間に察しました。俗に言うあれですわね。――好感度画面のようです。
ページ両面に渡って四分割されております。表記されているのは、攻略対象の四名。デフォルメされた彼らの横、一つ一つハートが置かれてあります。おそらく、こちらで好感度を計れるのでしょう。
「……好感度?」
「……ええと、おそらくではありますが。ほら、こちらの形。この中に、薄い桃色のものが溜まっておりますでしょう?」
私はイヴに教えることにしました。彼もそうですが、私も不思議そうに見ておりました。本物の液体のように、動いているのですもの。
こう考えられるでしょう。イヴの本に、不思議な力でも宿ったのでしょうね。恩恵に授かったということで。
0
あなたにおすすめの小説
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた
nionea
恋愛
ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、
死んだ
と、思ったら目が覚めて、
悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。
ぽっちゃり(控えめな表現です)
うっかり (婉曲的な表現です)
マイペース(モノはいいようです)
略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、
「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」
と、落ち込んでばかりもいられない。
今後の人生がかかっている。
果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。
※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。
’20.3.17 追記
更新ミスがありました。
3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。
本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。
大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる