脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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何を見てきたんだ。

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「……」

 私は今でも信じられない、そう思いながらも。彼に近づいていく。

「ブリジット様は……大丈夫ですの?」
「……ええ、ようやく。落ち着いたので」

 言い訳、とは違いますわね。あなたはきっと、彼女が落ち着くまで側にいた。まさか、帰してもらえなかった。そのようなことはないはずかと。

「眠られたから、ということかしら。落ち着かれたのなら、ひとまずは安心しましたが」
「……眠ったわけじゃ。いえ、失礼しました」

 彼は言いかけるも、それ以上は言うことはありませんでした。言い訳はしないと、頑なな態度でした。

「お顔、上げてくださいませ、ヒューゴ殿」

 私は彼の名を呼びました。彼に傘も傾けます。本当にずぶ濡れですこと。彼は迷いながらも、ゆっくりと顔を上げた。

「……ええ、ヒューゴ殿。あなたは当然のことをしたまで。その上で、戻ってきてくれたのですから」
「……こんなの、戻ってきたといえません。貴女もすっかり冷えて、こんなにも……」

 顔まで青くして、と。ヒューゴ殿は掠れた声でした。

「……ヒューゴ殿」

 私は平気です。だから、そんなに罪悪感を抱かないでください。だって、私は。

「……あなたが戻ってきてくれた。私はそれだけで」

 それだけで良かったの。約束、守ってくれたって。だから、あなたを見て笑える。

「十分――」

 そう言ったところで、私は――傘を落としてしまっていた。今度は私が、ああ、イヴ。あなたもこれぐらい衝撃を受けたからでしょうか。そう、こんなにも。

「――ヒューゴ・クラージェは何を見てきたんだ……。こんな人に高慢だ、驕っているだなんて……」

 悲痛なる声ながらも。ヒューゴ殿は。

「ごめんなさい……私は、貴女になんてことを」

 私を抱きしめていました。息苦しくなるまでに、強く。
 彼は雨に打たれようと、厭うこともなく。

「ごめんなさい……」

 彼は私に謝罪をしていました。本日のこと? それとも、これまでの接し方? そんな。もう良いのですよ? 

「……謝らないで、ヒューゴ殿。どうして、謝るというのです」

 苦しい。でも、私は彼の腕を払うことはなかった。彼もまた、縋っているようだったから。

「私の勘違いでなければ。私達は良い関係、築けたのでしょう? そうではなくて……?」
「アリアンヌ様……」

 私がかつて伝えたこと。願ってもいたこと。私は信じたいの。

「……はい」

 彼は静かにそう答えてくれました。なんて喜ばしいことなのでしょう。

「……アリアンヌ様」

 ヒューゴ殿は私を離そうとはしない。熱に浮かされたような声で、私の名を呼ぶ。

「ああ……」

 私の火照りも止まらない。頬は紅潮し、息も荒くなってきました。私達、互いの体温が高くなっていると、感じ取って――。

「あ、あら……? 私、なんだか……」

 おかしいですわ。目の前が眩んでおりますの。頭も朦朧としてきましたわ。

「わ、私もです……」

 ヒューゴ殿も、ふらついておられるご様子。抱きしめていた私からふらりと、離れられました。自分では立っていられない、そういった状況でしょうか。いえ、それは私も――。

「アリアンヌ様!」

 飛び出してきたイヴに私は抱き留められていました。片腕で私を受け止めてました。そのような腕力、あったのですか……。
 倒れられたのはヒューゴ殿も。彼も護衛の方に介抱されてました。

「イヴ、私は頑丈ですから。平気――」

 以降、私の意識は途切れました。そこからの記憶はありませんでした。



 私は自室にて療養をとっておりました。熱にうなされ、意識がはっきりとしたのは数日を経てのことです。
 ええ、今は本調子になりました。一日経過を診てましたが、問題もなさそうですわ。看病してくださった方々あってこそですわね。

 私は窓際の席に座り、読書をしておりました。明日には学園にも復帰できそうです。
 感染対策万全なイヴからも話を聞きました。ヒューゴ殿も風邪を引かれたとか。私に因果関係があるようで……いえ、ありますわね。戻る為に、雨の中強行してくださったのですから。

「登校したら、お詫びしなくては」

 彼がいつ復帰できるかは、わかりかねます。お見舞いにもいけたら望ましいですわね。

「……なるほど。薬草学も奥が深いのですわね」

 私はヒューゴ殿を見習って、薬草学や草植物にまつわる知識を学んでおりました。

「なるほどなるほど……」

 思えばダンジョンにも草が生えておりましたわね。採取スキルが存在するくらいですから、価値があるものも多々あったのでしょう。はあ、学ぶことはまだまだありますわね。

「さ、寝ましょうか」

 私は肩にかけていたブランケットを、椅子の背もたれへ。このまま寝ることにしました。


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