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0時のお誕生日おめでとう。
しおりを挟む「……」
苦しい。彼が抱えてきた痛みに、なにもしてやれない。
「……あ」
私の深刻な表情を見たオスカー殿。彼は。
「はは、だっさ。変なトラウマだよね。つか、変な話聞かせちゃったし」
オスカー殿は重くなった雰囲気を察したのでしょう。明るく努めようとしています。ですが、同調すると思いまして?
「ださくなどありませんし、あなたを苦しめてきたものではありませんか。私は……聞けて良かったと思っておりますから。あなたは頑張ってきたのでしょう……?」
これは私からの言葉。
「……ははは」
オスカー殿はまだ笑ってはいましたが、泣きそうな表情でした。彼は私の方に体を向けて。
「……アリアンヌ様はすごいな。ポジティブの化身っていうか。陽のパワーがすごいっていうか。こっちまで明るくなってくるっていうか」
「……それは、あなたこそ」
あなたこそ明るいではありませんか。私が言ったことに対し、あなたは困った顔をしてしまいましたが。
「……俺のは見せかけだから。ああ、でも――」
「……?」
自嘲気味に笑ったオスカー殿は、何かを思われたようです。
「アリアンヌ様だってそうじゃん。大変なこと、辛いことだってあるのに。抱えてもいるのに……それでも、笑顔でいようとしている。それこそ格好いいよな。俺さ、いつも力もらってるんだ」
「……!」
オスカー殿は優しい表情をしていた。私は――表情を取り繕えなくなっていた。私が抱えていることも、彼は知らないはずなのに――わかってくれているかのようで。
「それは……それは私こそです。あなたの朗らかさに助けられていますから」
「そっか。それじゃ俺達、お互いにだね」
暖炉の炎にあてられてなのか、顔が赤くなっているオスカー殿。私も頷いたのでした。
「……うん! 俺、変わらないとな」
「まあ、オスカー殿」
オスカー殿は勢いよく立ち上がりました。そして宣誓もしているようです。前向きなお顔、私も安堵できるものでした。
「ええ、あなたがお元気になられたのなら――」
私が言っていた途中で、鳴ったのは鳩時計でした。時計は0時を指しています。日が変わりましたわね。私の誕生日は終わりとなり――。
「ああ!」
「!」
突然大声を出したオスカー殿。鳩時計には耐えられた私でも、これには驚いてしまいましてよ。心臓がバクバクしてますわ。
「な、なんですの?」
「……まじか。誕生日、もう終わってんじゃんって」
「ま」
ええ、終わりましたわね。オスカー殿は項垂れていましたが、彼は顔を上げました。
「あ、でも! まだセーフ? ぎりいける? いけるよね?」
「セーフって、あなた……」
なんでしょう、滑り込みを狙うあなたが何だかおかしくて。
「ええ、セーフです。今なら間に合います。受け付けましてよ」
ああ、笑ってしまいました。その、笑ってしまって良かったのでしょうか。
「……」
オスカー殿は無言になってしまいました。やはり笑ったのはまずかったのでしょうか……?
「……はあ。本当に可愛いんだよなぁ」
「!?」
溜息と共に吐かれた言葉、私は衝撃を受けてしまいました。ええと、これは笑って流した方がよろしいのかしら。お戯れであると。ですが……。
「……可愛い。本当どうしよう」
「!?」
つ、追撃がきてしまいましたわ。切なさそうに言う彼は、とても冗談で言っているようには見えなくて……。
「ほ、ほら、オスカー殿? 締めきってしまいましてよ?」
そ、そう! 冗談というよりは、社交辞令ですわ、ええ。誕生日ということで、景気づけのような。ああ、自分でも何を言っているのか。頭がぐるぐるして参りましたわ……!
「あはは、そうだね。お誕生日おめでとう、アリアンヌ様」
「――ええ、ありがとうございます。嬉しいですわ」
もちろんプレゼントも嬉しいのです。それでもこうして――あなたからお祝いの言葉をいただけたこと。
本当に素敵な誕生日でした――。
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