脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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オスカー様は私だったから。

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「オスカー様……オスカーさまぁぁぁ」

 ブリジット嬢は――彼の胸元に手を添えて、泣きじゃくっています。そうですわね、それだけ怖い思いをしたのだから。

「……うん、無事で良かった」 

 オスカー殿の眼差しも慈しむものでした。頑張って耐えた彼女を優しく見守っています。

「……ごめん、そろそろいいかな」

 オスカー殿はそっと彼女の両肩に触れていました。彼はずっとブリジット嬢を胸の中に、それから抱きしめようと。そう思われたのに。それはなさそうです。
 まだ、完全に脱却はしていないのでしょうか。私もですし、ブリジット嬢もそうとったのでしょう。

「あ、うん……こっちこそごめんね?」

 彼の気持ちを汲んだのでしょう。ブリジット嬢はその手を離したのでした。

「ありがとう、オスカー様。えへへ……」

 恐怖から解放されたこともあります。でもそれだけではなくて。彼女の表情は満ち足りていました。

「オスカー様は私だったから……ううん、何でもない」

 ブリジット嬢は顔を伏せたけれど、私には見えていました。それは優越感、勝ち誇った顔といえるでしょう。女性からの接触を拒む彼が、ただ自分には許したのだと。

「……」

 ……私にもわかる気持ちでした。彼が、オスカー殿が自分にだけ許してくれたとしたら。得意にはなってしまうと。

「……ふふ」

 おかしな感情だこと。でも否定なんてできないのです。

「くっ……」

 さて。私は屋根の上の侵入者を見据えました。彼もまたふらついており、そのまま落下しようか考え中のようです。安全に梯子辺りを使用としていうのかしら。

「させなくてよ!」

 私、途中からあなたに近づいていましたのよ。気配を消して迫っておりましたの。人質がいないことでこれで心置きなく――。

「がはっ!」

 出会い頭に腹パン一発ですわっ! 上手い具合に入り、相手はその場で崩れ落ちました。ここに途中で拝借した縄がありますわ。がっちがちに縛って差し上げましょう。

「……!」

 突入する音がしました。先頭に立つのは、国軍の兵士たち。その後ろにいるのは、リゲル商会の関係者や私たちの級友方。事が済んでいたことに彼らは驚きつつも、それぞれの任務にあたっていました。

「ブリジットぉ、良かったよぉ……」

 無事を喜んで一斉に抱き着く彼ら。兵たちは侵入者を確保していました。気の毒ですが、リゲル商会は警備体制について問われるのでしょう。

「さてと」

 私がすることといえば、途中で撒いてしまった護衛たちへのフォローくらいでしょうか。どう言い訳しましょうか。まあ、道中に考えつくことでしょう! 

 あと、こちらも肝心ですわ。私が絡んでいることもご内密にしてもれませんと、まずいことになりますわ。といっても、ブリジット嬢は私の存在に気がついてないようですし。あとはオスカー殿あたりが気を回してくださると信じて。

「ええ、帰りましょう」

 すっかり日が落ちてますもの。暗闇に紛れられますわ。屋根を飛び乗って人目がないところで着地しましょうか。そうしましょう。

「本当にご無事で良かった……」

 私は囲まれている二人を見たました。囚われのブリジット嬢を救ったオスカー殿。ええ、それで良いのです。一安心ですし、もう留まることなど――。

「……!」

 私の気のせいだとは思えない。オスカー殿がこちらを見ている。飛び交う私の動きを目で追っていた。ここまでされたらもう、私を見ているとしか。

「……ごきげんよう」

 向こうもきっと、私が気づいているとわかっていることでしょう。ならばと私は会釈と口だけの挨拶をすることにしました。オスカー殿もごきげんよう、と口パクで返してくれました。

「……」

 あのアクアリウムでの出来事。今となっては幻のようです。オスカー殿にあのように迫られはしたものの、私達は友情という形でおさまった……そういうことなのでしょう。




 帰宅しますと、私は両親の抱擁に迎えられました。話が伝わってましたのね……。

「ご心配おかけしましたわ。私はなんともです。守られていましたもの」

 ね? と護衛たちに笑顔を向けました。ええ、笑顔の念押しですわ。これは互いの為ですもの。もちろん、そうそうないようにしますから。なので今回は、ね? ……ね? 

「そうか。よくぞ我が娘を守ってくれた!」

 父は感謝感激し、一人ひとりを労っていました。ああ、私も後ろの護衛たちもそうでしょう。胸が痛みますわね……。

 その後、イヴにも心配していたと話しかけられ、暴れたのではないかという疑惑をもたれつつ、私は就寝するのでした。


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