276 / 442
お嬢さん。
しおりを挟む今は……アリアンヌ・ボヌールとしてお答えしましょう。私は最期まで彼女として在り続けるのですから。
「殿下……『かつての私』がそのようなことをしていたこと、お詫び申し上げますわ。その時なりに思い悩んでのこと、とはいえ殿下のご信頼を損ねるのもごもっともです」
アリアンヌ様にも思いがあったことでしょう。彼女の代わりと烏滸がましいでしょうが、それでも申し上げませんと。
「ですが、今の私は違いますわ」
嘘だけれど嘘ではないのです。私があなたと絆を紡ごうとしていること、偽りなどありませんわ。私は勇気を出して殿下のお顔を覗き込むのです。強き瞳に圧されようと――。
「え……」
どうしてなのでしょう……こんなにも優しく。勘違いとしか思えないほど、熱くもある眼差し。どうして私に向けているのでしょうか……?
だって私は『アリアンヌ・ボヌール』、あなたにとっては国を支えるパートナーであり、一度は裏切ったものであるとも……それなのに。
「殿下……?」
私の髪にそっと手が添えられ、慈しむように撫でられる。その手はやがて私の頬へ。どこまでも愛情が伝わってくるかのような――。
「……はは」
殿下は微かに笑っていました。目を細めて笑う彼を見て、これは勘違いではないと思い始めてきたのです。彼の瞳はどこまでも私を見てきているのだから。
「……やっぱりな。君は――アリアンヌじゃないんだな」
――前から気づいていたけどな、と笑う彼。
「……」
私の血の気が冷めた。一瞬にして。
「……はは、『アリアンヌ』だったらな、手を払いのけるんだ。前に粋がってやってみたら、勢いよく払いのけられたよ。婦人相手というのもだけど、段階も踏めってな」
殿下の言葉が遠い。遠いことのように感じて。
「アリアンヌの振りをしていたお嬢さん? ――君は誰なんだ?」
「私、私は……」
殿下のことだから――何もかも確信した上で言っている。
『――君が知らない『アリアンヌ』の話をしようか』
当初からそう仰っていた。私が別人という前提の上、殿下は語っていたんだって。
誤魔化せる? まだ誤魔化せる……? セレステの生まれ変わり、だからでイヴにようやく話せたこと。それを殿下に打ち明けていいの……?
でもそれって、私、今まで殿下を騙していたことになって? アリアンヌ様に何かしたのかって疑わることにもなって……。
どうしよう。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう――。
「……困らせたいわけじゃない。俺は『君』と話がしてみたかったんだ」
「あ……」
殿下はどこまでも優しかった。私、あなたを騙していたのに。それは紛れもない事実なのに。それでも殿下は許してくださるというの……?
「……」
すとんと落ちた私の思い。私は目の前の人を信じたくなった。今更だけれど、打ち明けていいのかな。ううん――いいえ、打ち明けましょう。それがせめてもの誠意として。
0
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
いじめられっ子、朝起きたら異世界に転移していました。~理不尽な命令をされてしまいましたがそれによって良い出会いを得られました!?~
四季
恋愛
いじめられっ子のメグミは朝起きたら異世界に転移していました。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる