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華麗なる代表挨拶。
しおりを挟む晴れやかな日、ついに迎えたは入学式です。ああ美しき学び舎よ、私もアリエス学園の一員として過ごすことになります。
「――新入生代表、アリアンヌ・ボヌール」
講堂での代表挨拶も今、終えました。私を含めた新入生たちに送られた祝福と歓迎の意思。多大なる拍手が起こっています。いつになっても緊張するものですが、この光景は感慨深いものですわね。
「……!」
特段と強い視線、殿下からでした。彼は見守ってくださったのですね。その、かなり見られてはいましたが。
それでも安心した気持ちはあったのです。好感度のこともあり、妙な意識を抱いてはいても――彼の存在は心強いのだと。それは真なのです。
無事、終えました。終えたのです。
教室に戻り、私は同級生たちと挨拶を交わします。オスカー殿は席を外されているようですが、ヒューゴ殿がいらっしゃいますわ。すっかり顔なじみとなった彼の存在の心強いこと。
「――アリアンヌ様、失礼致します。こちら先日の件のものです」
「まあ……」
私に近づいてきたヒューゴ殿は、包みに入ったものを渡してきました。一瞬考えましたが、私は気づいたのです。こちらはおそらく――閉じられた部屋を開く鍵であると。
「あなた、お見事ですのね!」
「いえ、お褒めに預かるほどでも」
私、かなり興奮してましてよ。だってすごいではありませんか。見事に作り上げたのですから。本当は褒め倒したいところですけれど、ヒューゴ殿がそこまでのテンションでもなさそうですわね。押し売りはいけませんわね、ええ。
「改めましてありがとうございました」
私は丁重に受け取りました。しばらくは用事が立て込んでおりますが、極力早目にダンジョンに向かうとしましょう。
「……あー、人の婚約者に贈り物している人がいるぅ。いけないんだぁ」
「!」
な、なんですの。この悪いことをした生徒を言いつけるかのような言い草は。このお声は……殿下? 殿下でしょうね。
「これは大変失礼致しました。アリアンヌ様、一度お返しいただけますか? イヴ殿に渡して参ります。それなら問題ないでしょう?」
「え、ええ……」
あなたからイヴになら問題ない、そういうことでしょうけれど。こう、事務的というか、なんというか。まあ、お返ししましたけれど。
「むぅ……」
ああ、殿下も薄い反応であると不満げですわ。ここでヒューゴ殿が対抗心を燃やしてきたとしても、それはそれで拗ねるでしょうに……。
「――殿下? 本来の目的をお忘れでしょうか?」
シルヴァン殿も見ていられないと進言していました。いつまでたっても本題に入らなさそうですものね……ずっとヒューゴ殿を見ていますもの。あ、ヒューゴ殿、自分はこれでと去っていきましたわ。
「おっとそうだった。アリアンヌ―、格好良かったぞ? 俺も鼻高々だったぞ! ガン見して見守っていた甲斐はあったな!」
「え、ええ……お心強い視線でしてよ? 無事やり遂げましたわ」
「うむ!」
殿下は実に満足そうです。それならば私もやり遂げた甲斐があったというもの。私も微笑みました。
……ええ、いつもの殿下ですわね。特に意識することはない。こちらも普通にしていれば良いのです。これまで通りで――。
「――アリアンヌ」
「えっ」
私は殿下に腕をとられ、彼の方へと引き寄せられます。近い、近いのですが……!
「――ご褒美だ。今日は午前までだろう? 美味しいものを食べに行こう」
「はい……」
耳元で囁く殿下に、教室の、主に婦人たちから黄色い声が上がったのです。顔を真っ赤にした私を見て、どれだけ甘い言葉を囁かれたのかと。
……ち、違いますわ! 普通のお誘いでしてよ、昼食の!
「……皆様、誤解なさらないでくださいまし。殿下はただ――」
と、私が告げようとすると――。
「……こら。二人だけの秘密だぞ?」
「!?」
私の唇に……で、殿下の人差し指が。ええ、ぎりぎりで触れてはいませんけれども。ますます黄色い悲鳴が上がるではありませんか。
「おっと、そろそろ予鈴が鳴るかな。二階上がらんといけないからな。なっ、シルヴァン?」
「さようでございますね。では――皆様方、ご入学おめでとうございます」
「ああ、おめでとう! 我々は歓迎するぞ!」
私はようやく解放されたと、そういった気分でした。殿下とシルヴァン殿は挨拶すると颯爽と去っていかれました。残された新入生たちはそれはもう大興奮です。憧れの存在ともあって、熱に浮かされているようです。
私も質問責めという名目で囲まれているのですが……ええと、収拾がつかなくなってきましたわね。いえ、ここはまとめませんと。
「――皆様? もうじき先生が参られましてよ? 私たちはこれからがありますもの。一旦、席に着きませんこと?」
ほっ。皆様、私の提案を受け入れてくださいましたわ。彼らは続々と席に着いてくださったのです。ヒューゴ殿もいつの間に戻ってきましたのね。
ええ、全員着席――オスカー殿……オスカー殿? 彼だけがまだ教室に戻ってきていなくてよ?
「――ぎりぎりセーフ! セーフだよねっ?」
勢いよく扉を開けて滑り込んできたのは、オスカー殿。いえ、遅刻とかではないようですが……登校時にお見かけしましたもの。ご家庭の事情でということは……あ、丁度、御友人から尋ねられていますわね。
「いやぁ、隣のクラスにも知り合い多くてさぁ。つい話が長引いちゃって」
オスカー殿は明るく笑いながら席に着いてました。
「あ、アリアンヌ様だ! 挨拶お疲れ様ー。これからもよろしくね?」
「ええ、よろしくお願いしますわね」
オスカー殿は普通に接してくださいますが、私たちのやりとりを見て顔を青くしているのはクラスメイトたち。ああ、覚えがありますわ……公爵家相手の態度としてという。質問責めにあった時も敬語でありましたものね。
「なんだよ、みんなさー? 俺たちクラスメイトじゃん? 普通に接した方がよくない? ね、アリアンヌ様?」
「オスカー殿……ええ、そうしてくださった方が嬉しいですわ」
私はこっそりと彼にお礼を言いました。オスカー殿も笑顔で返してくれて。ええ、あなたのさりげない優しさが嬉しいのです。このことをきっかけに皆様も普通に話しかけてくれるようになることでしょう。
よき学園生活になることでしょう。私は期待に満ちていたのです。
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