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ブリジットの目的。
しおりを挟む「ほんとにねぇ……ヒューゴ様の時もオスカー様の時もシルヴァン様の時だって! いつも、いっつもそう! 男狙いがあからさま過ぎ、嫌になっちゃう!」
「……ええ」
ブリジット様が嫌悪を隠さずに私にぶつけてくる。ええ――私たちは『恋のライバル関係』。彼女の目からはそう映っても致し方ないこと。私が口では友愛とお伝えしていても――。
「――友愛、だっけ? ……まあ、結局どの人もそれで終わったみたいだけど?」
「ええ、そうですわね――私の望む形です」
「……」
荒ぶっていたブリジット様が静まって……私を見つめてくる。彼女は何を考えているの。その茶色の瞳からは窺い知れなくて。
「……あなたがそうだとしても、殿下が」
小声で呟くのはブリジット様。
「あの人はあなたの手に負える相手じゃない」
「……ブリジット様?」
彼女の声音は憎悪や敵対心ではなく……心配も含まれているような。そう思えたのでした。私がおめでたいだけなのでしょうか……未だに『前世の彼女』と重ね合わせようとする、私が。
「……誤解しないでくれる? 私が言いたいのは、あなたに殿下は相応しくないってこと。相応しいのは私。国にとって有益なのも、あれだけ骨抜きになっていたのも――この私だってこと」
「……それは」
「……ねえ、見てきたよね? 殿下がさんざん夢中になっていたこと。あなたを放っておいて、いつでも私の元へやってきたこと。今なんて単なる気紛れなんだよ? たまたまあなたに夢中になっているだけ。だから――鵜呑みにしないようにね?」
「……あなたは」
聞こえによっては牽制、悪態をついていると。それなのに私は――どうしても私は。
「……心配、してくれているの?」
どこまでおめでたいのか。私はそう思えてならなくて。
「……!」
ブリジット様の表情が曇る。
「……」
彼女は何かを言おうとしては、口を噤む。言葉を詰まらせているかのよう。それを繰り返して彼女は――。
「……うん、そうだ。言わなくちゃ……言わないと、だから」
「ブリジット様……?」
彼女は何か言葉を絞り出そうとしている。私は……私は期待してしまう。彼女が伝えられなかったこと、それが……彼女の真実だとしたら。
――大樹で過ごしたブリジットだとしたら。私はどれだけ満たされることか。
「――あなたのしていることが気にくわない。気にくわないから……妨害してきたの」
「……」
迷いが消えた彼女はただ――私にそう告げた。言葉を失ったのは私の方。
私のことが気にくわなかった。だから……だからだったの? 妨害という言葉もそう。あなたが狙いをことごと被らせてきたのも……私に対する思いがあったから?
あなたは……相手が好きだからではなかったというの? そうやって惑う私をよそに彼女は続けていく。
「殿下はね? 結局、私に夢中になるの。彼の本命は私。前もね、私と殿下の婚約成立、祝福してくれたでしょ? ね、――アリアンヌ様?」
アリアンヌ様、しっかりと私をそう呼ぶ。そう、彼女にとってはライバル――悪役令嬢に過ぎないのだと。
「……いいえ、ブリジット様」
私の甘い期待は打ち砕かれた……そうだとしても。私は私で譲れないから。やっと、やっとここまできたのだから。
「――私は引き下がりませんわ。殿下との未来を勝ち取るのは、この私です」
「……まだ言うんだ。勝ち目が薄いのに」
「ええ。それにいつものことでしたもの。あなたという強大なライバルを乗り越えてきましたのよ?」
「……ふん」
面白くなさそうなブリジット様は、くるりと背中を見せました。もうお帰りになるということでしょう。
「――こっちも本気でいかせてもらうから。いくらあなたでも、手だしができないくらいにね」
こちらがお見送りするまでもなく、さっと扉を開いて部屋を出て行かれました。私は本気の彼女の背中を見送ったのでした――。
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