脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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側近からの願い、託されたこと。

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 帰りの馬車の時点でも察してはおりました。ボヌール邸は騒然としていたのです。ええ、私の婚約破棄の件かと――。

「――む。帰ったか、アリアンヌ!」
「お兄様」

 玄関先で待機していたのは我が兄でした。彼は実に落ち着きがなく、その場を歩き回っていたようです。日頃の軍人たる態度はどこへやらでした。

「……ああ、その、だな。此度の件だな、我としては複雑な胸中なのだ。まだ嫁に出さなくて良いとか、だが、こんなにも愛らしき娘を捨て置くかとか……むう、色々だ!」

 お兄様まで情緒が安定していませんのね……案ずる心はあるということでしょう。私の頭を撫でまわす行為からも伝わってきますわ。

「だが、我は……! 妹の大変な時というのに、さらなる――」

 兄はそれ以上は言いません。失礼する、と早々と立ち去っていきました。近くにきたのは公爵である父です。二人だけでなく、要人の方々もみえられてました。

 殿下のご容態を聞こうにも、そうは言えない雰囲気です。折を見て聞いてみましょうか……本当に大変そうではありますが。

「……これは」

 令嬢の婚約破棄以上の騒動――私の勘が告げていたのです。この胸騒ぎは私のことだけではないのだと。



 
「――お嬢様、よろしいでしょうか」

 自室をノックしていたのは、イヴでした。私……着替えもせず制服のままでしたわね。窓に寄りかかって考え事をしたままでしたの。

「開けますわ――って」

 私は気が急いていたのでしょうか、こちらから扉を開けておりました。自然とです。そして私は目を見開いたのです。

「……シルヴァン殿?」

 本日休まれていたという彼でした。彼の姿は制服でも私服でもなく、側近としてのお姿。ええ、こうして我が邸を訪れていたということも。

「ひとまず入られては? イヴは――」

 私はイヴを見ます。彼が同席していい話なのか。

「……僕、下がりますね。外で控えております」

 イヴは自分の立場を考えてのことだったのでしょう。あなたを蚊帳の外にするしかないのでしょうか……ですが、シルヴァン殿はこう仰っていて。

「……イヴ様も御同席ください。失礼致します」

 焦る彼はさっさと入室します。イヴも続きました。

「――お願い申し上げます、アリアンヌ様。どうか、エミリアン様をお止めください……! もう、あなたしか……!」

 扉が閉まると早々、シルヴァン殿は深々と頭を下げられました。言葉はかしこまっていても、必死さが伝わってくるのです。
 ただ、私は何を止めるのか……何が起こっているのかわからない身です。事情をお伺いしてもいいのかしら。

「……僕から話すよ。邸内で話題になっている。殿下が――」

 ――レヴァンタジアへの侵攻を決めたって。

「なっ……!」

 あまりにも衝撃が強すぎて。私は頭を強く殴られたかのような。

 殿下の行動が信じられない。それに……それに!

「ブリジット様、レヴァンタジアの方々に対して……」

 なんてことを……どうして、どうしてなのです、殿下……?

「……」 

 シルヴァン殿は辛そうに俯いたままです。顔色の悪い彼はこちらにお願いするのが限度、事情を口にするのは堪えているようでした。イヴが代わって説明してくれるのです。

「いくつもの疑惑がかけられていて……侵攻の理由にもなるからって。でも、そんなのでっち上げだ! あいつならいくらでもやりようが――!」

 イヴは激情するも、彼はハッとしました。深呼吸を繰り返して自身を落ち着かせようとしています。ええ、あなたにもゆかりのある国でもあります。それに――。

「……わかりましたわ、イヴ。ええ、殿下は間違っておられる」

 どうして突然。
 そんなでっち上げてまで、罪なき国を火の海に沈めようとしているのか。
 それに彼の権限はそこまであるのか。陛下はどうして止められないのか。

 私は頭の中で混乱したまま、それでも冷静でいようとする。

「……悪い。俺こそしっかりしなくちゃなのにな。一大事だっていうのに」

 素の姿を見せた後、シルヴァン殿は佇まいを正しました。

「御見苦しい姿をお見せしました。軍も政も掌握しておられるのは――エミリアン様です。現陛下ではございません」
「なんともまあ……」

 シルヴァン殿からの説明に、私は驚きつつも納得もしていました。イヴもそう、殿下なら有り得ると。そう、あの殿下ならば――本来ならばいくらでもねじ伏せられたでしょうに。どうして甘んじていたのでしょうか。

「そのような方相手でも……誰も止められない方であろうとも。アリアンヌ様、私はあなたに賭けたいのです」
「シルヴァン殿……」

 それほどまでの方なのです。私にだって……止められるかもわからないのに。

「……」

 そうだとしても。私は顔を上げ、前を見据えました。
 この局面を乗り越えないと――未来はないのだと。

「――参りましょう、イヴ、シルヴァン殿」

 何があるかはわかりません。着替える時間は惜しいのでそのままですが、リュックは持参することにしました。


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