脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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たったの一日なのに

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 富裕層が住まう街へ、私たちは馬車に揺られながら向かっていました。

「それにしても卿――危険ではありませんでしたか? 御身に何かありましたら」

 わりと人のことが言えない殿下が尋ねられていました。

「こうみえて腕が立ちますから。ふふ?」
「それはそれは」

 互いに笑みを交わしていますわね……緊張感を伴わせながら。
 冷え冷えとした空気の中での談笑、私の表情筋も引きつるばかりでした。



 豪華ながらも品がある邸宅。原色ばりばりの街並みとは一線を画していました。使用人の皆さまが主人である卿を迎え入れていました。突然の招待客である私たちも丁重なもてなしを受けていたのです。

「おかえりなさい、おじ様! ……また一人で勝手に出歩いて! 皆様に怒られますよ?」
「……!」

 奥からやってきた、その声。私は瞬時にその方を見たのです。

「アリアンヌ様……」
「……イヴ」

 イヴが私を呼ぶ。
 私も、私もそうでした。私はただ、彼の名を呼びました。呼んで、そしてその姿を目にしたのです。

 イヴの姿はこの国特有の民族衣装、上等そうなものを纏っていました。公爵家に仕えていた彼とは違ったのです――その姿はまるで。


「……貴族気どりか」

 冷淡に言い捨てたのは殿下、言葉は過ぎれど彼の発言通り。イヴの姿はまさに――この国の貴族そのものでしたから。

「……」

 イヴは何も言わない。私から声を掛けようとするも。

「あはは、来てしまいましたね? ね、イヴ?」

 緊迫した空気の中、卿の朗らかな声がしました。彼はイヴの近くまで寄っては親しげに肩をい抱いたのです。

「……」

 不躾かしら。それでもどうしても、でした。私はこう思えてならなかったのです。同じ茶色の瞳を持つ同士――親子のようにも見えてしまって。

「あはは……じゃないですって」

 肩を抱かれたイヴもまた、呆れはするも嫌がってもいないようでした。親しみの心があるともとれます。

「……来る、来てくれる予感もしていたんだ」

 イヴはやんわりと卿から離れると、私の方へ一歩、一歩と近づいてきたのです。イヴ、来てくれると……嫌ではありませんでしたの?

「待ってて……そうは言ったけど。だけど、逢いに来てくれたのは嬉しくて。僕も寂しかったから」

 ――たったの一日なのに。
 イヴは感慨深そうに言うと――私の両手をとっては握りしめたのです。

「なっ!」

 その様を見た殿下は憤慨なさっていて、引きはがそうとしました。ですが。

「……そっちまで来るのも、そんな気もしてたけど」
「ななっ!?」

 邪魔、と。イヴは口早に詠唱すると、殿下の動きを止めました。見えない力で拘束されているかのような……?

「なんのこれしき――」

 殿下の怒りは表情からみてとれて。彼もまた、術をもって振り切ろうとしていましたが。

「これこれイヴ、いけませんよ? ――それに、王太子殿下も」

 やんわりと裁定しようとするのは卿でした。イヴだけではなく、他国の王族相手だろうと彼は悠然たる態度を崩しません。

「愛らしいものではありますがね……若いとは素晴らしきこと」

 微笑ましと和やかであられます……この状況ですのよ?

「おじ様は本当にもう……」

 イヴは嫌そうにしながらも、殿下の拘束は解きました。

「……」
「……」

 解かれた殿下は睨みを利かせますが、イヴとて負けてはおらず。膠着状態でした……。

「……イヴ、私は話があって参ったのです。あなたが何も言わず発ったこともそうですわ」

 私から話させてもらいましょう。私もあなたに会えて嬉しいですが、それでも思うところもあるのですよ?

「うん……それもそうだね。おじ様、お招きしても良いでしょうか? 部屋も空いてますよね?」
「ああ、もちろん。長旅お疲れ様でした。ごゆるりとお寛ぎくださいな」

 イヴがそう提案すると、卿は快諾してくださいました。突然の訪問であったでしょうに、迷惑な顔も一つもなさらずでした。

「ありがとうございます、卿。誠に有り難く存じます。私たちを招きいれてくださいまして」

 私たちは深々とお辞儀をしました。深く感謝しておりましたけれど――。

「――ああ、お招きするのはアリアンヌ様だけですよ? 私はイヴに甘くてね? そうしてあげたくて」
「!?」

 卿は眉尻を下げてすまなそうにするも、そう言ってのけたのです。

「ああ……俺こそそんな気もしていたが。それでしたら、彼女は泊まることもないのでは?」

 殿下は口元をひくひくさせながらも、泊まるのを反対していました。

「あの、うちの商会にも話を通しておきますので。ね、アリアンヌ様?お世話にならなくても大丈夫だよ?」

 ブリジット様もそう。ええ……確かにそうですわね。大商会ではありますが、彼女の生家でもありますから。というか、突然の訪問でしたものね、やはり。卿が承諾してくださったのは有り難くもありつつ、恐縮でもありましたから。
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