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試されし冒険者たち
しおりを挟む「あ……」
こちらに来てぴたり、と。怪しき気配は消えていきました。よ、ようやく最終地点ですの?
……新たなる気配。複数の人々がこちらにやってきます。ただ、危険を及ぼすような悪意はなさそうですわ。彼らは息を切らしながらやってきていて、疲労困憊ということもありました。我々と一緒ですわね……。
「……あれ、あんたら」
シルヴァン殿のお知り合いのようでした。同じ冒険者方でしたのね。敵の増援でなくて何より……。
続々と集う冒険者たち。つまり、こちらが共通の最終地点であったと?
「ほら、アリアンヌ様の選択は間違ってなかったんだ」
「……ありがとう」
イヴ、そう言ってくれるのですね……。
今は、今は現状を考えましょう。
これで私たちは帰還できるというのでしょうか。いえ、退路が塞がれた身、こちらからしか――。
「ぜえぜえ……」
「はあはあ……」
冒険者方は限界がきているようです。それは私たちにもいえること。皆がそう――。
「……!?」
私たちの前に、またしても――浮遊する魔物? が現れたのです! それも単独でした。いえ、私たちは数の有利でもあります。全員で叩けばと構えますが――。
『怖い、怖いって』
「……この声」
セレステの声……というのは、私に通じるくらいでしょう。あとは――秘められた間で聞いた声。
――賢者にゆかりある声、かと。あの人形の声がまさしく。それにしても緊張感のない声ですこと。
『そんな構えないでって。お客さんら、強いんだね。こっちは戦う気なんてないからさ?』
その声に敵意も殺気もないと、誰しもが思ったことでしょう。私もそうでした。私は……戸惑うくらいですわね。人形の時もでしたが、そう、セレステを相手にしているようで。
『――私は賢者。古代を生きた賢者……の代替品といったところかな』
賢者。その言葉に場はざわついたのです。しかも古代、とまできましたから。
『お客さんらを試させてもらったんだ。こちらの時代のあんたたち――どれだけの強さを持っているのか』
――狂王に打ち勝てるのか。
「……」
一気に顔色が悪くなったのはシルヴァン殿。ええ、あなたには聞かせたくなかった言葉。ですが……シルヴァン殿。
「……失礼しますわ」
「アリアンヌ様……?」
本当に失礼、彼の背にそっと触れながら、私は賢者と名乗る相手に告げたのです。
「――狂王はもう、いませんわよ」
ええ、もういないのです。
現世にいらっしゃるのは、おとぼけ腹黒、それでいて――優しき未来の王だけでしてよ?
『……』
「……」
実体、ないはずでしょうに。なんでしょう、視線を感じるのは。緊迫する雰囲気に、私の額に汗が伝う。
『……だよねぇ! 相当時が経っているみたいだし!』
表情はわかりませんが、声があまりにも明るくて。わ、笑っているのかしら?
『ま、どっちみち? あんたらに恨みなんてないからさ? ほら、試したって言ったっしょ?』
ええと、あくまで力試しだったと。どこまでも友好的な態度に、私たちは戸惑うままですわ。
『こっちは安心したよ。脅威は狂王に限ったことじゃない。それでもこの時代にも強き者たちは残っていたんだ』
労うような言葉まで。優しい声色であって。
『お疲れ様。もう力試しは――おしまい。通常のダンジョンに戻しておくからさ? ほら、お帰りはあちらだよ』
私たちは戯れに付き合わせられていたと。この者の言葉通りなら、いつものように最終地点の部屋に入り、そして帰還すれば――跡形もなくなると。
「……」
「……」
「……」
冒険者たちも、私たちも。その場に留まったままです。判断に躊躇したこともあって。
『……あれ、帰らないの? こっちが優しくしてあげてるのに?』
優しく? そう私たちが思っている間に――地面が激しく揺れたのです! そのまま、崩れていき、私たちの足場はどんどん消えていき……!
『ばいばーい』
浮遊できる賢者殿は飛び回るように、そして――奈落の底へ。
「早く、早く戻るんだ!」
「こっちだ、みんな!」
倒壊していく洞窟。冒険者たちは助け合って最終地点の部屋へと駆けこんでいく。そう、このままここに留まっていては――。
「あなたは……」
通常のダンジョンに戻る、それが真だとしても。あなたは――それからのあなたは何処へ?
セレステを彷彿させる、それもあります。ですが、それだけではなく。
ええ、私は申しました――野放しにしておけないと。
「……お付き合いしましてよ、賢者殿?」
私の足元が崩れていく。どこまでの深さかわからない、闇へと落下していく。
やはり……なのです。私は責任を感じてしまっていて。あなたをそのままにしていけないと。
ああ、単純ですこと。私は深く、深く落ちていき――。
「……」
落ちていく中、私が目にしたのは――『彼ら』の姿。共に落ちていく彼ら――。
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