脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
401 / 442

彼にとっての特別は

しおりを挟む

 妃教育。予習。辺境伯の領地へ。領地。教育。学び。ダンジョン。領地。教育。教育――。

 ええ、全休日全ツッパでしてよ。私は人目を忍んで、辺境伯の領地へと。
 かなりの距離ですから、移動だけでも時間を費やしてしまいますわ。となりますと、どうしても滞在は限られた時間になってしまいますの。

「ふふふ」

 花の地、と名高いこちら。舗装された路を彩るは花壇。心が浮かれますわねぇ。私は道中お裾分けしていただいた花を手に、街を散策していました。
 さあ、ヤニク殿? 本日はどちらにいらっしゃるのかしら? 

「――これはアリアンヌ様!! 坊ちゃま、時計台にいらっしゃるそうですよ!」  
「まあ、ありがとうございます」

 今日は喫茶店の店主殿より情報を。有難きことですわ。

 出没するようになった公爵令嬢を、最初は不思議そうにしていた領民の皆様。ここは通い詰め、次第に交流をするようになってきましたの。ご報告もいただいてますわね。
 私が公爵令嬢であることは着いて早々、バレてしまいました。ですがお忍びとお伝えすると、黙ってくれてくださっています。大助かりでしてよ。

 ふむ、時計台ですわね。ここからすぐですわ、急ぎましょう。




「――ごきげんよう、ヤニク殿」

 長き階段を上っていき、頂上へ。街を見渡せる絶景ですこと!! 風もとても心地良いですわ。

「……また来たの」
「ええ!」  

 私が元気よく返事すると、『そう』とだけ。彼は街の景色に目をよこしたまま。

 ……ええ、こちらがヤニク殿です。

 長い銀髪を下に束ねており、儚げな殿方。ええ、初期シルヴァン殿もそうでしたが、こちらの方は憂いを帯びた目もされていますわね。思えばシルヴァン殿、何気に手荒かったですわね……。

 繊細そうな方。それでいて大胆でもありましょうか。アリアンヌ様と駆け落ちをしたり、謎カットインの時は情熱的だったり。

 彼の宝箱は真っ赤、真紅な薔薇の方とは……失礼ながら意外とも。
 おかしいなと思いつつも、当然とも思ったり。そうです、彼は――『アリアンヌ様』だからこそ、あれだけ情熱的だったと思うから。

『うちらの坊ちゃま、お優しい素晴らしい方ではあるけれど……ちょいと女性が苦手というか』

 ――気の強い姉妹に囲まれていてねぇ、と。領民談ですわ。

「何をお考えなのか。面白いこと、何もないでしょう」

 彼自身がつまらなさそうにしていました。私はいいえ、と首を振ります。

「そのようなことありませんわ」

 もちろん攻略のこともありますけれど、私。

「あなたのことを知りたいと思いましたの」
「……どうして」

 彼、こちらを見ましたわね。信じ難い、と粘りつくような視線ですわ。


「父から聞いていたのです――幼少の頃、公爵邸に訪れていたことがあったと」
「……!」  

 ヤニク殿、驚かれてますわね。それは私にも言えたこと。

 私、すがる思いで両親にあなたのこと尋ねてみましたの。何らかの接点はないか、ないものかと。そうしたら、このような返答でしてよ!! 
 ヤニク殿は本当に訪れていらしたのです。ですが、それは僅かな滞在。先方の都合ですぐに帰らなくてはならなかったと。しかもその日は。

 ――イヴを父君から引き離した日でした。長くイヴと共にいましたわね。

 ……縁というもの。タイミングというものでしょうか。私はイヴと共にいて、ですがアリアンヌ様は、ヤニク殿と逢っていたのでしょう。それから二人は年月を重ねてきたのでしょう。

「……うん」

 それに……実感することもあった。こうして目の前にいて、接していて。それは――。

「……アリアンヌ様」

 ヤニク殿は私の目を覗き込んできた。決して呼び捨てることなどなく。

 ――彼にとっての特別は『アリアンヌ様』。日々もあっても、一番のところ、アリアンヌ様自身だからこそ惹かれたのでしょう。
 あなたは彼女を愛し、彼女もあなたを愛した。あのアリアンヌ様を普通の少女にさせてくれた、幸せにしてくれた殿方。結果、悲しい結末になってしまっても。
 純粋に……単純に、どのような方か会ってみたかったの。

 私からヤニク殿を見ているだけでなく、彼からの視線もあった。それは重なってもいて。

「……綺麗な瞳」

 彼は私? ……それともやっぱりアリアンヌ様? どちらにせよ、そう形容してきたのです。

「裏があるかと思ってたけれど……今でもそう思ってもいるけど」
「まあ、おほほ……」

 攻略という目的があるのは否めませんわ。怪しまれようとも、私は笑います。

「でもいいか――僕は夢を見ていた。幼い頃からの夢。金髪の巻き毛の可愛い女の子、その子と遊び回っている夢。彼女は面倒くさがる僕を連れ出してくれていた」
「まあ……」

 そうでしたのね。夢であれど、それは実際にあったことなのでしょう。
 彼にとってはなんて幸せで――悲しい夢。今は夢の中でしか、その彼女と逢えないのだから。

「顔はぼやけているけど……君に似ていると思った」
「!」 
 
 彼の表情が少しだけ和らぎました。似ていると……? 

「僕は夢の中の彼女の恋をしている――ずっと」

 そうですのね、あなたは変わらず。

「素敵だと思いますわ」

 私は心から伝えます。でも彼は複雑そうにしておいで。

「奇妙がられると思ったのに」
「いいえ?」  
「……そっか」
「ヤニク殿……」

 本当に……柔らかな笑みですこと。そうですわね、きっと――アリアンヌ様が結びつけてくださったご縁ですわね。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...