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思い出作りの花祭り
しおりを挟む「……人混み、無理。疲れた」
「お疲れ様でございました……」
私たちは人混みから逃れる為、時計台に避難していました。こちらの高所からみても、人でごった返しなれど、楽しそうな雰囲気は伝わってきますわね。
ちょうど昼下がり、昼食も持ち込んでますのよ。屋台で調達しましたの。こちらで腹ごしらえして、もう一回りとするには――。
「人、多い、疲れた……」
ヤニク殿がギブ寸前です。そうですわね……。
「ヤニク殿さえよろしければ、こちらでまったりしてましょうか」
「え……」
花の蜜ジュースで水分補給中の彼、驚き顔です。
「そんなに驚かれますの?」
「いや、だって……思い出もなにもないかな、と」
「いいえ、ヤニク殿? こうしているのも、尊き時間でしてよ? こうやって――」
二人並んで景色を見ている。空の雲がゆっくり流れてもいますわね。
「思い出として充分――かけがえのない時間ですから」
私の心からの言葉、それを彼に向けたのでした。
「……変な感じ」
と、ヤニク殿? 彼、胸に手をあてていますわね。
「……ほんの少し。意識しなければ気づかないくらい……でも、不思議な感じでもあって」
「……?」
彼はどうなさったの? こんなにも……私を見つめるだなんて。
「君のことは知らないことばかり……でも、知っていったら」
――なにか、変わるのかな。そう、彼は言ったのです。
「そうしたら――僕と君との関係は」
私たちの関係。『私』とあなたの関係。
「……」
そう、もしもの話。私とあなたが恋愛を紡ぐとしたら、きっと大変でしたでしょうね。多くを乗り越え、切り捨てることもたくさんあったりして。もしも、もしもの話ですわ。
「友愛……友人でよろしくて?」
ええ、それで充分。あなたと友人になれるなら、それは素晴らしきこと。
「……うん」
しばらく考え込まれていたけれど、確かに――ヤニク殿は頷いてくださったのです。
「では、乗じましてよ? やはり、これきりは寂しいですわ。私、あなたと出掛けたいところがありましてよ」
「……想像つくなぁ」
「ええ、ご想像通りでしてよ!」
ダンジョン!! あなただって悪い気がしないでしょう?
ああ、本当でしたら……いつもの皆様方もお誘いしたいところです。ワイワイ行きたいところです。ですが!!
『結衣ちゃんや、帰るまでが遠足だよ? 油断せず、最後まで、最後までだよ?』
従姉からのアドバイス。これは最後まで気を抜かずに徹せよと……一途プレイでいくべきと!!
「……ま、いいか」
「ふふ」
当初よりは打ち解けてはくれたと、そう信じてよいのなら。
「ええ、これで……」
辺りを漂うのは、つかず離れずの二匹の蝶たち。私は――友愛エンディングを迎えたのでしょう。
「……ふう」
帰る際に見計らったかのように迎えがきました。イヴを筆頭にです。彼は『用が済んだからいいでしょ、いいよね?』 と目が雄弁に語っているようで。私の勘違いでしょうか?
ただ、辺境伯領に赴いていたことは秘めておいてくれたのです。よいのかしら、いえ、ここも甘えておきましょう。
本日も邸に殿下からの文が。ええ……まともに話してませんから。前に学園の廊下でお会いした時、殿下は『くーん……』と瞳を潤ませていましたわね。さながら子犬のよう……ああ。
殿下だけではなく、他の方々からも。やむを得ず距離をとってますもの、心苦しくもありますわね……。
ブリジットなら、と思っても。誕生日会の話もありましたが――。
『もう!! 最近つれないよね……だから来月の誕生日会!! 皆で過ごそうね? 今回も盛り上がろ、ね?』
ちょっと怖くなりましたの。うっかり参加して、なし崩しになってしまう自分が。本当に心苦しくもありましたが、丁重にお断りしました……ああ。
「さて」
自室にてこれまでを振り返っていました。もう月夜の時間、私は好感度のページをめくったのです。
「まあ」
仏頂面のヤニク殿、でも彼の器は満たされていて――真紅な薔薇をお持ちでした。
私たち、二人でのダンジョンへ。ヤニク殿、正規ライセンスをお持ちでしたとは!! では、相乗りさせていただけるかと思いきや――。
『悪いけどこれ、一人乗り用なんだ』
と、あっさりとしたものでした。ヤニク殿はお金が足りなければと、気にはしてくれました。そこはもちろん、自腹を切りますからと。
私たちはダンジョンの入口で落ち合い、内部へと突入!! ああ、脳筋プレイの見事なる競演でしたこと……なんともギリギリな。
『あははっ!』
ヤニク殿、なんたる悠長な笑い。本当にギリギリでしたのよ? とはいえ、なんとも楽しそうな顔、私まで絆されてしまったのでした――。
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