405 / 442
名無し殿のターン
しおりを挟むこうして日々が過ぎていく。ついには雨季も終わり、七月も迎えて。
「――名無し殿」
あなたと――セレステ。
「アリアンヌ様を取り戻せると、そう信じて」
私はベッドの中、瞳を閉じたのでした。
ああ、時間が巻き戻っていく――。
タイミングって大事。取り返せる、巻き返せることだってある。それでも、その時を逃したらってのも確かにあるのかな。だからこそ――。
「……」
さあ、肌寒い朝ですわ。三月の朝、間違いないでしょう。私はゆっくりと体を起こしてベッドから下りました。
「……ここまできましたのね」
残りは二名。未だ――手立てはありませんけれど。
「いえ、前進していると信じましょう」
不安に押しつぶされそうにもなるけれど、ここまで来たのだから。
「――名無し殿」
ハテナが強調された項目。その片方は――彼が一番確実なのでしょう。
「となると、昼下がりの君が……セレステの生まれ変わり?」
……うーん。混乱してきましたわ。
「動きましょうか。名無し殿ですもの。彼ならば――」
彼こそ――ダンジョンでしてよ!!
あら、ノックの音がしますわ。ええ、イヴでしょう。
今回は再び、協力してもらいましょうか。私は部屋に招き入れました――。
さあ、着きましてよ!! 冒険者ギルド!! 私たちはいつもの変装でおでましですわ! さあ、空を見上げて改めて確認しましょうか!!
今回のダンジョンはオーソドックス、洞窟タイプですわね。任せてくださいまし!!
「ふふふ」
張り切っていましてよ。今回は早朝からスタンバってみましたの。イヴ、お付き合いありがとう!!
頭をフル回転させた私、これまでのことを振り返っていました。そう!!
――名無し殿にお会いできた日を!!
手始めに本日ですわね。振り返ったからこそ、私思いましたの。確かにこの日、名無し殿をお見かけすることはあっても、ご一緒する機会には恵まれませんでしたの。ならば、早朝に赴くまでと!!
……ふむ、ヒューゴ殿とオスカー殿と、そしてシルヴァン殿のお三方。彼らとのコンタクトは出来ずとも、ここは名無し殿との出会いに賭けましょうか。
あら、ギルドのロビーが賑わってますわね……ん?
「……」
なんでしょう、この緊迫めいた雰囲気は。中央に座しているのは、歴戦の猛者たちではなくて? 名だたる方々とお見受けしますわ。
――そして、名無し殿。彼が中心となっていました。トップランカーですものね。
「もしかして、大型モンスターのレイド戦かな?」
「ま!」
イヴ情報ですわ!! 大型モンスター!! ……レイド戦!! そのような激熱展開が繰り広げられていたとは!!
「……」
それにしても。練りに練った作戦、選び抜かれた精鋭たち。この空間に割って入る必要がありますの? ……ありますのね、きっと。では、勇気を出しましょう!!
「――突然ですが、失礼いたしますわ!! 私、アリアンヌと申しますの!」
気合の入った大声でしてよ。一斉にこちらを向かれ、視線は私たちに集中してますこと。ええ、イヴ、あなたもでしてよ? 『僕までっ!?』と驚かれてますけれど。
「かの令嬢とは別人でしてよ」
と、便宜上の前置きした上で。
「お頼み申し上げますわ。私も参加させていただけませんこと? 必ずお役に立って見せましてよ!」
私は過剰なまでに自信を持った振る舞いをしていました。見定めるような彼らに圧されそうなりながらもです。弱気ならそれこそ門前払いであることだと信じ。
「さあ、ステータスオープンでしてよ!! とくとご覧あれ!」
畳みかけるように、ステータスを提示しましてよ!! さあ、やり込み勢のデータでしてよ!!
「おお……脳筋だ」
「脳筋……」
皆様、口々にでありました。もうね、否定はしませんことよ。
「――失礼、ご令嬢」
名無し殿は人の輪から抜け、こちらへ。ですが、名無し殿。令嬢ではないとしている以上、その呼び方は……ええ、私からも働きかけましょうか。
「いえ、令嬢では――」
と、もうこんなにも距離を詰めていて。私は大柄な彼を見上げる形になっていました。
「求めるものは強さもある。それだけではない。信頼に足るかどうかだ」
「仰る通りですわね……」
正論ではありました。新参者でもある私、勇み足だったのでしょう……。
「……だが」
名無し殿は続けられるようです。それは。
「――私個人として。彼女は信頼に足る人物だと思っている。皆、彼女を迎え入れてもらえないだろうか」
「名無し殿……!」
力強いお言葉ですこと。あなたにそう言っていただけたのが、本当に嬉しくもあって……。
「でもなぁ、脳筋……」
「そうよぉ、脳筋……」
今回の大型討伐にあたる皆様、不安そうにされてましたが。
「あとは、こちらの従者殿。彼が補佐してくれるだろう」
「え」
名無し殿、今度はイヴの隣に立ち――イヴのステータスをオープン。勝手にと思っていたところで、私も……おそらく皆様も、驚愕せずにはいられないスキル量。こ、こんなにありましたかしら?
「あ、あれ……?」
……イヴ? あなたまで困惑していますの?
「あ、いや……最近、なんか力が沸いてきたな、とか思っていたけど」
彼自身が首を傾げてますわね?
「では、しばし準備の時間を設けよう。お二方、説明をするからこちらへ」
「ええ、よろしくお願いしますわね」
名無し殿、作戦内容や支給アイテムの配布など。色々とお世話になりました。ありがとうございました。
さあ、皆々様準備も終えたところで――レイド戦でしてよ!!
0
あなたにおすすめの小説
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる