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名無し殿とダンジョン
しおりを挟むダンジョンとは奥深きこと。大型モンスターのレイド戦、存じませんでした。私たちは地中深くへと潜っていきます。潜って潜って――大きな扉の前へ。
皆様、アイテムで増強を図ったり、最終確認したりと。ええ、準備は整ったようです。
「皆――必ず打ち討ろう」
名無し殿の言葉を合図に、私たちは突入!! ――待ち構えるは、岩の大魔人!! 強固なる守りで身を固めていましてよ!!
私たちは力を合わせて削っていくのです!! 私とて、大打撃でしてよ!! 私の相棒、鉄の棒を足部めがけて振りかぶり――ああ、魔人が怯みましたわ!!
「名無し殿!」
「助かった――ご令嬢」
もう突っ込みませんわ。名無し殿は颯爽と斬りかかっていき、トドメを刺したのです。勝どきの声が上がりましたわ!!
強大なる強敵、かなり疲労してしまいましたわ。それは皆様方もそう。そんな疲れている中でも――出現した報酬により、一気にテンションが上がったのです。
「おお、たくさん落としてくれたなぁ」
「山分け、山分け――」
彼らの仰る通り、さすがはレイドボス。盛りだくさんの報酬でありました。金銀財宝、ああ、高速でレベルアップもしている感覚ですわー。
「……で、これ。出たよ、『ミニ宝箱』。今回誰がもらい受ける?」
……ああ!! た、宝箱でしてよ!! しかも……青!! 初めての……色!! 輝いている……レア!!
「はいはい!! 私、宝箱の収拾が趣味ですの!! いただけませんこと!? なんでしたら、他の報酬は結構でございますわ!」
私は勢いよく挙手したのでした。かなりの気合の入れっぷり、皆様はそれならと譲ってくださいました。しかも山分け分も渡してくださって……?
「脳筋だけど、よくやってくれたね」
「さすが脳筋。また機会があったら、組みましょう?」
ええと、褒められてますわね? それに嬉しいではありませんの。
「ええ、喜んで――」
さすがに疲れたと、レイド戦のあとはゆっくりするのが通説のようでした。皆々様、祝勝会をするようですわね。私たちも誘われましたが。
「――私はまだ潜らせてもらう。皆、お疲れ様」
名無し殿は参加する気はなさそうでしたので、私たちもならうことに。名無し殿は『いいのか』といった目を向けてきましたが、よろしくてよ。
「私もまだダンジョンに浸っていたいのです。名無し殿、ご一緒しませんこと?」
「……そうか。そうだな」
名無し殿も断ることはありませんでした。イヴも『僕も!』と。といっても、レイド戦のあと。無理はしないようにとのことでした。ええ、そうですわね。
手練れたる名無し殿。スキルは無いと仰ってましたが、なんのそのですわね。
私は本当に感心してますの。強さもそうですし、研究にも励んできたのでしょうね。そうした努力があったからこそ、彼は上りつめていったのだと。
名無し殿、あなたはダンジョンを愛してらっしゃるのね。私も相当のものですが、あなたののめり込みっぷり、敬意に値しましてよ。
最終地点に到達し、ダンジョンの入口へ。日暮れ前ですものね、私たちの本日の冒険、ここまでですわ。
ああ、楽しかった!! 本日はダンジョン三昧でしたわね!! 私の肌は紅潮しており、さぞ肌も潤っていることでしょう!!
それにしても。私はリュックの中にありしプレゼントのことを考えていました。なんとも出現率が低く……それでいて取得しづらかったことか。本当にレアを譲っていただいて良かったですわね。
「名無し殿、本日はお世話になりましたわ。こちら、お礼ともいいましょうか。受け取ってくださいます?」
見切り発車だったかもしれませんが、私は試みました。この段階でも受け取ってくださるかしら? あなたの好感度は不明ですから、一か八かともいうか。包装も無しですわね。
「……私に」
「ええ、あなたに」
「……そうか」
名無し殿? あなた考え込んでらして? 中々に受け取らず。尚早でしたか?
「……いや、ありがとう。頂戴する」
「まあ!」
私は笑顔になりました。三個、ありましてよ。まずは一個目をお渡ししましょうか。私はいそいそとリュックから取り出したのです。
「さあ、どうぞ!」
「……」
私、あまりにもにこにこし過ぎたかしら。名無し殿、こちらをじっと見てますわね? 失礼、淑女として品の振る舞いを。それにしても――。
――とある大国の歴史書。辞書かというくらい分厚きもの。こちらが彼へのプレゼント。
名無し殿、知性ありし振る舞いでもありますもの。こういったものも好まれますのね。私は微笑ましく思ってましたが――。
「……」
名無しとのは沈黙したまま……受け取りはしませんでした。え……?
私が無邪気する笑顔だったと時も無言でしたが、こうも……こうも、冷めたものでは。
「そうか……『やはり』、そうなのか」
「あ……」
冷ややかな声なまま……私は、彼を傷つけてしまったのでしょうか。
「名無し殿、その、申し訳ないことを」
「……いや、違う。違うんだ、ご令嬢」
こんなにも戸惑う彼の声、私が耳にしたことがなかったもの。私は彼を嫌な気分にさせてしまったのに。
「あなたの気持ちが嬉しい。嬉しそうにしているのが……嬉しい」
彼は私を気遣ってくれるようでした。書物はそのまま受け取ってくださったのです。
「……私は何を言っているんだ」
言葉選びが良くないと困惑している彼、私は小さく笑うのでした。
「……」
一方で、私は考えていたのです。私はそう――彼のことを知らない。残りのプレゼントを安易にも渡せなくなったのです。ええ、あなたともっと関わっていきませんと、ですわね?
「名無し殿、またご一緒しましょうね?」
今回のプレゼントの件もあり、私は不安ではあります。それでも笑顔で彼に願ったのです。
「ああ、そうだな」
「……まあ」
迷いなく答えてくださいました。私はもう嬉しくて……。
「……ふ」
名無し殿はこちらを見て……笑っているのでしょうか? 作り物の魔物頭では表情はわかりませんわね?
そう――私は素顔のあなたも知らないのですから。
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