脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
407 / 442

謎の男、名無し殿

しおりを挟む


 夕日の帰り道、私はイヴと並んで馬を走らせていました。邸までの森林道、人気もありませんわね。

「……名無し殿、ですか」

 イヴがいわんとしていることがは承知、攻略対象なのかということでしょう。というか、イヴ、あなたも気を遣ってくださってましたね。先程のやりとりの間、見事なまでに気配を消してましたこと。

「プレゼントです。相当な専門書だとお見受けしました。学が深い方なのか、というか、あの方――」

 イヴはしっかりと確認していたようです。そして。

「アルブルモンド語の発音からして――外国の方なんですよね、名無し殿」
「……!」
  
 イヴ、知ってましたのね。彼は『いや、ネイティヴばりの方もいますけど』とフォローもしてますわね? 

「一部の発音、難しいらしいです。僕もある人に愚痴られたことがありまして」

 ここでもイヴ、『でもね、名無し殿の違いは本当に僅か。相当努力されたんでしょうね』とも。追いフォローでしてよ。
 ある人。イヴの親しみのある呼び方。ええ、マジェスティ卿のことでしょうね。微笑ましいエピソードのお披露目と同時に、イヴの鋭さも再認識ですわ。

 ……名無し殿、外国の方でしたか。私、勝手にアルブルモンド人と思ってましたから。そうなると、色々と違って――。

「……あら?」 
 
 私、どうしたのかしら。ここで思い浮かべたのが――昼下がりの君。彼も、外国の方。とある大国の王族で……あれ? あの書物も彼の国にまつわるものでして……? 
 いえ、そんな、まさか……ねえ? いえ、纏う雰囲気とか、似ていたりもしますし? 
 彼の落ち着いた声もそう……無関係ではないと? なんらかの繋がりがある方なのかしら。ご親族の方とか? 

「僕の方でも色々と探ってみますね?」  
「ええ、お願いしますわ――」




「もうっ!! 本当に寂しかったんだから!」  

 翌日となり、やって来られたのはブリジット様。私は彼女を自室に招き入れ、お茶会を開いてますのよ。ふふ、紅茶だけではなく、ケーキスタンドまで!! ああー、幸せ。

「……と、その節は申し訳なかったですわ」
「ううん、いいんだけどね。仕方なくだろうし?」 
 
 ブリジット様がよくない気分なのもそうでしょう。意図的に彼女とも距離をとってしまってましたから。彼女は笑って許してくれましたわ。

 ああ、のどかな昼下がり。私たちは取り戻すかのように会話に花を咲かせていたのでした。昼時は過ごしやすい気温、風もやさしきこと。

「いい季節だよねー。今度、ピクニックとか行こうね?」  
「ええ、是非とも」

 喜ばしいお誘い、私は快諾したのでした。外の景色を二人して眺めていると、目に入ったのは空中に浮かぶダンジョン。ま、今はジャングルタイプですの? 遠目からもわかる、蠢く森林よ。

「それにしても、ブリジット様? あなた方――」

 そう、ダンジョン。私は疑問が芽生えていたのです。その内容と申しますと。
 ループ開始直後から、あなたはいらっしゃるでしょう? それもダンジョンを介しての移動ともなると、中には困難なるものがあると。それにです、未踏なるダンジョンの時もありましたでしょう? 

「――あ、そうだね。確かにね。でも、なんてことないの。ループ開始前に現地入りしてたんだね!」  
「なるほど!」  

 合点。答えは明快でした。ループ前のダンジョンはオーソドックス洞窟でしたものね。そうでなくても、列車を使って来られる所存だったのでしょう。解決解決。

「今回、ダンジョンコロコロ変わるんだね。今までそうじゃなかったから」
「確かに!! そうですわね」

 ブリジット様のご指摘。そう、これまでは繰り返しの日々によってはダンジョンは(殿下の時は除いて)固定、ですが今回は変貌してますわね。
 思えば、ですわね。こちらのゲームプレイ時も、変わっていたではありませんか。そういうことですのね、そういうこと。私、フォローめいてますわね。この満足感、補足しきった感もありましてよ。

「――あとはセレステ。こっちでも色々調べてみるから」
「ブリジット……ありがとう」

 彼女の方でも動いてくださっている。私がお礼を告げると、彼女は微笑んでくれました。

 ああ、本当に平和なる昼下がり――。

「――アリアンヌ!! いるかー?」  
「おっふ……」

 扉をも余裕で貫通する殿下のデカボイス。いつもはメイドと共にようですが、単独で参られて?いえ――。

「――大変失礼致しました、アリアンヌ様。エミリアン殿下並びにヒューゴ・クラージュでございます」

 丁重にノックするはヒューゴ殿。彼とご一緒とは、なんと申しますか、珍しい組み合わせと? ええ、お招きしましょう。

「二人は仲良しさんなんだー」
「ええ、そうですわね」

 ええブリジット様、そうですわね?  私たちは呑気にそう評していましたわ。

「え、たまたまだよ? そこでバッタリ会っただけだよ? ……いや、俺としては仲良くしたいけどな? マジレスの鬼じゃないか、ヒューゴ殿って!」  
「ま、殿下……」

 感心しませんわね、ディスりは。

「……ひゅっ」

 殿下……喉を鳴らしてどうなさったの? 顔まで青くされて。

「マジレスばかりで申し訳ありません」

 対するヒューゴ殿は淡々とした反応。殿下、またしても『ぐぬぬ』と。

 殿下、ごほんと咳払いと共に、こうとも。

「……堪えるものだな。こうも距離をとられるのは。俺はいささか焦り過ぎていたのかもな。それで君に避けられては……」

 ……ええと、殿下? あなた、誤解なさってらして? 私があなたを避けていたと? ……あなたの言動に思うところがあって、と? 

「……やらかしてばかりではないか。俺という者は学習しないときた。アリアンヌ、すまなかった」
「殿下……」

 ええ、正直思うところはありますけれど……あなたを避けていたのは、そういった意味では。

「……」

 説明に困りますわね。どう説明したらと――。

「へえ……やらかし、ですか。淑女相手にですか……」
「やらかし……だって。この子相手に何をしでかしたのかなぁ?」 
 
 おお……殺気立つお二方よ。

「うう……」

 追いやられるは殿下、涙ぐんでおられて……こちらを縋るような目でも。そんな、子犬のような目を向けられては……。

「ま、まあ、皆様方? こうしたご歓談も久しいではありませんか? ささ、別室に移動しましょうか? 茶など用意させますわ?」  
「きゅーん、アリアンヌぅ!」  
「はっ!」 
 
 感涙した殿下が迫りきますけれど、私、神回避でしてよ!! さらりと躱してみせましてよ!! 

「くーん……」

 さらに泣きそうになっていますの? そのようなこと、ありませんわね? 

「イヴも用事から帰ってきますわ。誘ってもいいかしら?」 
 
 せっかくですもの、皆で楽しく。


 わからないことだらけの名無し殿のこと。セレステのこと。まだ対処しきれてないことは多々ありますわね。
 今だけはどうか、楽しい一時を過ごさせてくださいまし――。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

処理中です...