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青薔薇のご令嬢
しおりを挟むそして、週末。私は今、アルブルモンド城にお呼ばれしています――夜会の装いで。
殿下、突然の招集でございました。思い立ったのか、夜会を開くのだと。各国からの要人も招かれるのだと。
「……要人」
思い浮かぶはサミュエル様。いえ、今までもこうした場にて、お会いしたことはありませんでしたから。
さあ、参りましょうか。城ともなりますと、煌びやかさも各段と違いますから。
「――今宵はようこそお越しくださいました」
よく通るお声。この華やかなる場、一層と光っておいでなのが我らが殿下。堂々としていらっしゃいますわ。挨拶とて淀みなく。夫人たちも眩そうに見つめていて。
挨拶を終えた殿下はこちらへ。私にも視線が集っていますわ。羨望や値踏みするようなもの、いけない、しっかりしなくては。私の喉はごくりと鳴ってしまいますけれど、ここはしっかりと――。
「さあ、我が妻よ――」
しっかりと……って、殿下?
「いっけない、間違ったぁ。婚約者、婚約者だった。まだ、な?」
……殿下? 公衆の面前で、舌ペロですの?
「そうそう、その顔」
「……あ」
私の緊張は解きほぐされていたのでしょうか。目の前の殿下は優しく笑んでらして。
「一曲お相手願えますか? ――アリアンヌ嬢?」
「ええ、喜んで。お願いしますわ」
殿下の差し出された手を、私もとって。会場に鳴り響くは楽団の演奏。軽妙なるリズムに乗って、私たちは踊っていく――。
一曲を終えた今でも――殿下の手は繋がれたまま。
「さあ、続けていくぞ? 連続だコンボだ!」
「いえ、殿下……」
私、視線が痛くてよ? あなたと踊りたい夫人は多いでしょうし、国交ということに関しましても……殿下、まだ離してくださいませんわね。こちらから――。
突如、沸く会場。
「――遅れまして申し訳ありません」
遅れてやってきた殿方、艶やかな黒髪に見事なまでの体躯。以前拝見した時は目にかかるような長めの前髪、今は上げられているからこそ。その美貌は際立っていたのです。
突然の美丈夫にこぞって夫人たちは目を奪われていたのです。それは私も例外ではなく――。
「――国、サミュエル・シエル・フィエルでございます。今宵はお招きに預かりまして、光栄にございます」
凛とした佇まい――サミュエル様のご来訪でした。
「……え、なにこれ。主役は遅れて登場みたいな」
私の隣で不満をたれていた殿下でしたが、そこは殿下、何もなかったかのように笑顔で受け入れていたのでした。見事な切り替え。
「いやいや、ようこそ!! 歓迎いたしますよ!! ――是非とも楽しんでいっていただきたい」
「それは僥倖でございます」
美しき殿方のご対面、乙女は沸き立つもの……ただ、その、なんでしょう? 牽制しあっているというか、火花が散っているというか? 近くにいるからこそでしょうか、感じ取れるのは。
……国の中枢たる方々、色々とあるのでしょうか?
「――さて、ご令嬢」
「私、ですの?」
婚約者である私も交えての歓談中、私たちの視線が合いました。不思議な感覚、あなたと目が合うだなんて。
「一曲いかがでしょうか」
「まあ……」
これも交流の一つ、でしょう? 失礼のないようにせねば。
「え、なんで。踊る必要なくないか?」
失礼のないように……殿下!!
「……む、鬼嫁の気配。ほら、名無し殿……違った、サミュエル様はなぁ? 他に踊りたいご婦人もいらっしゃるようだしぃ?」
「それはあなたにこそ言えたことかと」
お二方、素の状態ではありませんか。配慮あってのひそひそ声でありますけれど。それにサミュエル様のご指摘通り、殿下に向けられし熱い眼差し。貴婦人たちは待ちわびてましてよ。
「くう……」
殿下、これもまた大事なお務めですものね。私は笑顔で送り出すことにしました。
「くう……!」
殿下、唇を噛み締めておいで。ですが私……存じてましてよ。
「――これはこれは貴婦人方!! 花々が咲き誇っておいでだ!」
このノリノリっぷり。実に興に乗っているではありませんの。ええ、殿下。あなたが女性好きなのはもう、そうなのでしょうね。
「なんともまあ、読めない方だ……ああ、気を取り直して」
「ええ、踊りましょうか?」
ふふ、あなたと踊ることになるとは。思ってもみなかったことですわ。彼の巧みなリードに、私は身を任せられてもいて。
視線が集まっていても、堂々としていられる。ああ、なんて楽しきこと。
本日の私のドレスは青色。奇遇ですこと。踊ると翻ってもいて――。
「青い薔薇のようだ」
「……ま。そのように例えてくださりますの?」
照れもしますわ。それでも素敵な例え。私は笑顔で受け取ろうと。
「ああ。一番美しい花だ」
「ま、まあ……」
「ふっ」
臆面もなく。もう赤面も隠せなくなってしまいました。そうなると、ますます彼は愉快にしておりますわ……!!
「うう……」
踊る為だから、体も密着せざるを得なくて。こんなにも反応しているのは私だけ、サミュエル様はさぞかし余裕だと。
「……!」
顔を見上げた先にあったのは――真剣なる眼差し。それでいて、微かに染まった頬。
こんな、こんなあなたの顔を私は知らなくて。
「あっ……」
いけない、彼の足を踏んで――。
「……?」
見事でした。サミュエル様は華麗に避けて、何事もなかったかのように私をリードしているのです。
「本当に愛らしい方だ。目が離せない」
「助かりましたわ……とはいえ」
やはりどこまでも。余裕でした――。
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