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名無し殿と迎えたエンディング
しおりを挟む火照る身体を冷ますかのように、私はバルコニーへ。満天の星空の下、夜風が心地良いこと。
「まあ、殿下は本当にまあ……」
あれからも女性に囲まれたままですわ。いつもの彼、安心もしますわね。
「――こちらにおいでだったか」
「……!」
サミュエル様もそう、囲まれていましたわね。夫人にも誘われていましたが、彼は踊ることはせず、いなしていたのでした。他国の要人たちとの話に重きを置いてましたわね。そのような彼が今この場に。
――青い色の蝶と共に。ああ、私からも蝶が。番うかのように飛んでますわ。
「殿下、どこまで芝居かわからないが。あなたは今後も苦労しそうだ」
「それはまあ……いえ、お気遣いは感謝しますわ」
殿下、そのような方ですものね。
「……今後も、ですわね」
名無し殿、サミュエル様。蝶が来たということは――あなたとエンディングを迎えるのでしょう。そうなるとあと一人、もう、もう答えを出さないと――。
「……。私達は『これから』があるんだ」
「……」
私の迷いを見抜いてらして? それにそれは私が申したことでもあって――。
「そう、あなたが教えてくれたことだ。私は諦めない。だから、あなたも諦めないで欲しい」
「ええ……ええ、名無し殿。そしてサミュエル様」
『あなたたち』からのお言葉、しかと受け取りました。
「そうだ、諦めない。まずは障害となるは殿下か――」
ええ、しかと……え? なんて?
「私の聞き間違えでして? 障害だなんてそんな、物騒な?」
「いや、聞き間違えではない。安心していただきたい」
「いえ、安心できまして!?」
あなた、きょとんとしている場合ではなくてよ!! なんでしょう、こう不安に駆られるのは!!
「あなたとの未来を望むには、殿下の存在が強大だ。となると、排除をせねばなるまい」
「いえ、サミュエル様……」
「といっても、老練でいて手練れだ。容易ではないだろう――」
「失礼、名無し殿!」
「!」
私の問いかけはどこへやら、あなた、完全に御自分の世界でしたから。
「……ああ、すまない。こちらだとどうしても、気持ちを隠しきれなくて」
「おっふ……」
私はどう反応したら……ああ、蝶たちも仲良く連なってますわ。ええ……そうですわ。
「私たち、友人になったばかりではありませんか」
友人。それも語弊があるかもですが、私は押し通しましてよ?
「!!」
サミュエル様、すごく衝撃を受けてらっしゃるわ……失礼ながらも新鮮ですこと。
「ああ……そうか、私たちはまだそうだった。彼女の心もまだまだ……」
彼は落胆しきっていました。言い過ぎたかしら……?
「いや、何にせよ。殿下が障害には変わりない――」
「失礼、名無し殿!! 何事も穏便なのが一番かと!」
「……おお、確かに」
割り込みごめんあそばせ。ですが、冷静になってくださって何よりですわ。お前が言うな、というお言葉は存じませんわね。
「承知した、ご令嬢。穏便に婚約関係をどうにかしてみせよう」
「いえ、それは……」
冷静になってくださったの……?
ああ、どっちつかずの距離で飛ぶ蝶たちよ。
一抹の不安を残しつつも迎えたのですね――友愛エンディングを。
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