脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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セレステが生きた時代

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 黒い蝶と一緒に走り続けていた。ただひたすら、セレステを目指して。

 あの混沌とした場所とは違って、淡い光で満ち溢れていた。温かな光。

「――セレステ?」 
  
 セレステ、なのかな? なんだろ、幼い感じもするし……というか、少し若返ったとも? それにセレステだけではなくて、空間まで一緒に映し出されていた。

「ホログラム?」 
 
 そうなのかも。投影されているんだ。私の前を歩き回っているけれど、本人ではない。

「……!」  

 一気に目の前が変わった。私の目の前の世界、そこは想像を超えたものだった。

 高層の建物が連なっていて、人々は空を自由に飛び回っている。見慣れないデバイス、それを容易に扱う人たち。
 結衣が生きてきた世界も発展していたけれど、これはもう遥か先のものなんだと。そうだった、セレステの生きた時代は未来だって。

 そういった機械的なものだけじゃない。突然水を沸かせたり、火も起こしたりもする。それだって何てこともなく。

『今日のランチはっと』

 若い男女が建物に入っていく。食事処、なのかな。にしては、無機質な一室ともいうか。でも、タッチパネルに触れるとすぐに食べたいものが出てきていた。どういった技術かはわからない。

『――今日はっと、このスタイルでいこう』

 ある女性の一室。そう、女性だったのに――彼女は突然、『彼』になっていた。パッド的な何かで操作して、それからそれを自身に照合させ、そうしたら電子的な光に包まれて。それで体型や性別まで変わっていたから。

「未来の世界……」

 機械と魔法が混ざった世界、好きに生きられる世界、飢えも苦しみない世界。

「……セレステが生きていた世界」

 理想郷ともいえる世界、なのかな。 

「ねえ、セレステ? あなたはどうしてなの」

 こんな満ち足りた世界でどうして――罪を犯したというの。 


『そうだな、今日は男の気分。でもって――ふーん、四年後だとこんな感じなんだ』

 セレステの声。聞きなれた声に――大樹で目にした姿。私たちと同じ年頃の、すらりと長身の彼。

 か、かなりの変貌? その、つまり? 成長した姿が私たちが見てきたセレステ、ってなると本当のセレステは――。

『ん、しばらくはこれでいいか。さーて、今日は何をしようかな?』  

 ここはセレステの部屋、研究室? 本棚がいくつもあって、中央にある机にも本は山積みにされていた。
 私、安心したともいうか、不思議な気持ちともいうか。本という存在が残ってくれたこと。身近な存在が残っていたことがなんとも落ち着くもので。

『セレステサマ、オハヨウゴザイマス』
『おはよ。今日もチューニングするから』
『アリガタキシアワセ』

 セレステの近くにやってきたのは、これもまた見覚えのあるタイプのロボット。なんだろ、懐いている感じがして可愛い。メンテするセレステに、ロボットは大人しく待っている。微笑ましい空間だった。

『……やっぱ、この時代が気になるんだよね』

 セレステが手にとった本、私には読めない言語だったけれど。

『――狂王と賢者、か』
「!」 
 
 文献として残されていたの!? それを興味深そうに見ていたのは、セレステ。

『賢者……セレステ。偉大なる賢者。悪しき王を討った者だっけ』
「……?」  

 賢者の名がセレステ? ええと、セレステも賢者と繋がりがあるから、子孫だった的な? 名前はあやかったのかな? うん、混乱してきた。

『はは、どんだけ読んでるの――飽きないんだよ、自分』

 そう言ったセレステが手にしている本、かなり擦り切れていた。ページも一枚落ちたので、それを拾ってもいた。苦笑しつつも、愛しそうに眺めていた。

『……で、この円盤? ディスクっていうんだっけ? これも関連しているとみた!』  
「ななな……!」  

 空間から取り出したのは、パソコン!! 懐かしい!! でもって、ディスク!! そのラベル、すごく見覚えがあるものだった。

 ――脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯。それをセレステがプレイしていたというの? 日本のゲームが、どうしてこの世界の、それも遠い未来に行き渡ったんだろ……。

『あはは、脳筋脳筋』

 椅子に座って胡坐をかいているセレステ。すごい笑っているな……セレステ。

『学校、か……へえ』

 学校に入ってない? それか……学校自体がないとか。必要がなくなった、とか? 

『楽しそう……』

 と、眩しそうに見つめるセレステ。

『――って、独り言やば。どれだけなんだよ、自分』

 と、誤魔化すかのように笑うけれど。ううん、セレステ。私も聞いていたし。

『セレステサマ、ワタシ、キイテマス』

 ロボットもそうだよ。ずっと相槌打っていたんだ。

『はは、ありがとっ』

 セレステもわかってはいるんだと思う。嬉しそうに笑っていた。


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