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世界を滅ぼした日
しおりを挟む『――失礼します』
突然のノックと共に女性の声。朗らかな場だったのに、一気に空気が冷えるほどの。
『……』
『パスコードの権限解除、させていただきます。ご承知を』
無言で無視のセレステに構わず、女性はロックを解除したのか部屋に入ってきていた。
『……なに』
セレステもそう、笑顔が消えてしまっていた。パソコンを閉じると、またしまい込んだ。
『相変わらず旧時代のものを好みますね』
女性は無遠慮に部屋を見渡し、そして。
『推奨されていない――禁止令が発足されたばかりだというのに』
『……しょーもな。そんなくっだらない話をしにきたの?』
椅子から立ち上がり、ロボットを庇うかのように後ろにやっていて。
『いいえ、違います――再三のお願いに参りました』
『また?――エネルギー研究に加われと』
エネルギー研究? ……研究?
『ええ、そうです。あなたの御力が必要なのです――この幸福なる世界の存続の為に』
女性は語る、語り説得し続ける。セレステはとても有能だからこそ、そういった誘いがあるんだ。
セレステ自身は乗り気ではなかった。エネルギーって、そもそもなんの――。
『――大樹のエネルギーも限りがあります。どうか、御力を』
大樹……!? それはアリアンヌ様たちの時代も、狂王の時代だってそうだけど、そんな……こんな遠い未来まで? それにすごく使っているんじゃ……。
『あなたも恩恵に授かっているでしょうに』
『こっちは自分の魔力を使っている』
『極力といったところでしょうか。ただ在るだけでも、大樹の御力にあやかっているのでは?』
『……馬鹿馬鹿しい。自分たちがやりたい放題やる為に、そんなことの為にって』
『それは違います。私たちが生きる為です――これからの未来の為にも、どうか』
セレステの怒りも相手の言い分も平行線。私は固唾を飲んだ。
「セレステ……」
セレステは、この世界、この時代に疑問でも抱いていたのかな。私の想像でしかないけど、そんな気がしてならないんだ。
『――ふふ、未来を望めるとでも?』
……セレステ? いや、違う――別の誰かの気配。
『なんと堕落してしまったことか。ああ、嘆かわし――』
ここで言葉が途切れました。それは、セレステが頭をかぶり振ったから。
『うるさいうるさいうるさい!』
何かを強く否定しているかのよう。一人叫び、抗っていて……。
『本日はもう、会話の疎通は出来ないようですね。日を改めます。失礼致しました』
女性はこれが初めてではないよう。いつものことか、とも。平然とした態度で彼女は退室していった。
『違う、違う、違うってば!』
一人、苦しそうで……。
「……セレステ」
映像だってわかっているのに、それでも私はもどかしくて。どうして寄り添えないんだろう……。
『マスター……』
ロボットもそうだよ。セレステのことを心配している。慰めようと――。
『……触るなよ、作り物のくせに!』
振り払ったのはセレステ。なんて酷い言葉を投げかけて……。
『……』
ロボットは何も言わず、その場に立ったまま。反論もせず、そのまま。
『……そうだよ、反論するプログラムは作ってないし……この作り物が』
顔を歪ませながら、セレステはまだ止まらない。
『この時代こそがそうだ。作られた物じゃないか。こんな時代こそが』
頭を抱え、ふらつきながらも立ち上がるセレステ。
『――間違っている。間違ってしまったんだ』
その言葉と同時に、セレステを取り巻くは黒い霧。声はセレステなのに、セレステとは思えないもの。
セレステはよろめく体のまま、外へ出て行った。ロボットもついていく。うん、私も……!!
『セレステサマ、イケマセン、セレステサマ!』
『……うるさい!! こっちに来るな!』
『!』
主からの命令、ロボットはセレステに近づけなくなっていた。それはもう、プログラムで。
『くっ……』
セレステは頭を抱えながらも、魔法を発動させたのか高く浮上していく。それから眼下を見渡していた。
『――ああ、私が命を賭してまで守った世界が、このような世界に……ああ!』
嘆く声、これはもうセレステではない。だって、セレステは抗っていた。ずっと一人で抵抗して、戦っていたのに。それなのに……!!
この人は――賢者だ。思念か何かとなって、残っていたんだ。その存在がこうしてセレステを苦しめていて。
私の中で確信した。もう間違いない。
黒幕はこの人だったんだ――セレステじゃない。
『母なる大樹の力を、こんな、こんな私欲の為に……!』
セレステが纏っていた黒い力、膨大なる魔力。
「駄目だよ、セレステ!」
私は声を張り上げる。届かないのに、それでもそうもせずにはいられなくて。
「あ……」
雨のようだった。血反吐のような、赤みがかった黒い雨。それらが数多に降り注ぎ、止まない。雨は炎となって――やがて勢いも増していき。何もかもを破壊していって……。
尋常じゃない力はすぐに――発展しきっていた世界を滅ぼした。
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