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贖罪の路を往く――
しおりを挟む黒い霧の濃さは増していて。私はろくに視界を確保出来ないまま、もがくかのように歩み進めて行く。
ここはどこ? 今は何時? 私はいつから――いつまで。彷徨っているの?
「ああ……」
――走馬灯っていうのかな。私の頭の中にこれまでのことが浮かんできていて。
それはどれも。どれもそう。
「う……」
私がしてきたこと――してはいけなかったこと。
小川結衣としても、アリアンヌ・ボヌールとしても。
嘘をついたこと。規則を破ったこと。悪口を言ったこと。ズルをしたこと。相手を傷つけたこと。他にも……他にも、もっと。
これまでの私がしてきた、犯してきた罪。
「やだ……」
私の脳裏に焼きついては消えてくれない――醜い、汚い自分。
いつまで見せられているの? 私はどうしてこんな目に――。
「……贖罪の路」
そう、そうなんだ。私が通ってきているのは、きっとそう。
「ふふふ……」
笑えてきてしまった。なんて悪趣味なんだろうって。わざわざここを通ってきて、そういうことなんだって。
「――いいよ。あなたに辿り着けられるなら」
まとわりつく悪意に、私は進むのもままならないけれど。
「絶対にあなたの元へ」
覚悟は決まっているから。さあ、行こう。
『……どうして絶望しないの――堕ちてこないの』
「あなたは……」
上から姿を現わしたのは、人形姿の賢者。表情は無なれど、狼狽しているのは明らか。
「堕ちないよ」
『……っ』
私は断言する。怯んだのは賢者。
「私、私たちは屈しない。あなたの思うようにはさせない」
意志を貫いてみせる。これまでもそうやって、何度もあなたを退けてきたから。
『――』
賢者の気配は消えた……? 鉄の棒とかの武器はないから、拳で闘おうと思っていたのに。
「うん、負けない」
まだ先は見えないけれど、今はただ前へ。
進んで。進み続けて。
そして。
『――そこな凡人よ。おぬしの罪は以上だ』
ふっと体が軽くなった。声がした。幼い声? にしては、しっかりした話し方。古めかしいって例え方でいいのかな?
「あなたは……?」
声はする、でも姿は認識できない。私に対して、っていうのはわかるけれど。
『しがない番人よ。はて、おぬし――本来ならば招かれざる者ぞ』
「そうなんですか……?」
『ここは人としての道を外した者、その者らが訪れる路ぞ。おぬし程度では呼ばれることはあるまいに。迷い込んだのか、はて』
ああ、と声の主は言う。何かが思い当たった、というか思い出したというか。
『そうであった、おぬし、罪人に引きずり込まれるところであったな』
「引きずりって……ああ!」
私も思い出した。転生前、大樹のふもとで過ごしていた頃のこと。私はふらふらと、裂け目に入ろうとしていていた――この路に引きずり込まれるとも知らずに。
結局、正体はわからないまま。ユウ君だったのか、それとも別の誰かか。
ううん、いい。私は贖罪の路を抜けたんだ。
『――ふむ。おぬしが目指す先、そちらに望む者がいる』
「……はい」
ようやく、ようやくだ。セレステに会える。
『さあ、行くがよい』
「はい、ありがとうございました――」
私が一礼し顔を上げると。
「蝶……?」
黒い蝶が一匹、飛び回っていた。うん、一緒に行こう。
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