426 / 442
世界は続いていた
しおりを挟むしばらく抱きしめ合っていたけれど、体を離したのはセレステの方から。
「あんたのことだから……全部知っている気がして」
「……うん」
それはその通りだったから。私も素直に頷いた。セレステは小さく『そっか』とだけ。
「そう、だね。あんたはもう……受け入れてくれていたから」
「うん、そうだよ。セレステ」
贖罪の路の話、あなたからだった。セレステが教えてくれたし、私は受け入れていたんだ。
「……ごめん、本当はまだドキドキしている。それでも、私はセレステを受け止めたいから」
映像とはいっても、実際に立ち会ったような感覚だった。今でもまだ、その感覚は残っている。
「……ユイってさ、妙に正直者」
「……うん」
セレステは苦笑していたし、私も認めるしかなく。
「そうだよ……私はそれだけのことをした。だからまた、この滅びた世界に生まれ変わった。私の罪滅ぼろしは消えたりはしない」
セレステは深刻そうに打ち明けてくれた。償いの路を経たとしても、残り続けるんだね。罪の意識、消えたりはしないもの。
――ましてや、暮らしてきた世界、大切な存在を自らともなると。
「――ねえ、セレステ」
私はセレステの手をとった。より大きな瞳をぱちくりとさせているセレステ。
「外、出よう?」
「え――」
強引だったね、それでも私はその手を引っ張り上げるかのように。逡巡するセレステお構いなしに、扉の先へ。
「え、いやだ、いやだよ……!! 見たくないよ、いやだ……!」
泣きそうな顔で、セレステはその場で踏ん張ろうとしている。それから訴えてもいて。
「……そのまんまだよ!! 突きつけられるんだよ、この世界はお前が滅ぼしたって!! わかってるよ、わかってるんだよ!」
そっか、セレステはそれからずっと……。
「セレステ……」
――自分が滅ぼしてしまったからと? だから目を背けたい、その気持ちはわかるよ。
「……お願い、セレステ。あなたに見てほしいんだ」
「ユイ……」
本当にお願い。セレステ、あなたの目で確かめてほしいの――この世界を。
「……手、このままでいて」
「うん、もちろん」
私は手を繋ぎ直した。セレステの表情も少し緩んだ。
行こう、セレステ。
「――ここも、春を迎えていたんだね」
外の世界に触れる私たち。春風が心地良いのは、時代も変わらずだね。
瓦礫の合間から雑草が生えていて、少し遠くに花畑もあった。あ、鳥たちのさえずり。上空を気持ち良さそうに飛び回っていた。
うん、春だねぇ。私は息を吸い込んだ。
「なんで……」
セレステは茫然としてた。立ち尽くしたまま――未だに受け入れられないようで。
「終わりじゃなかったんだよ。まだ続いていたんだ」
世界は滅びてしまったのかも。それでも再生もしていって。生き残った存在だって。
「ガーピピー……」
そう、生き残った存在だっていたんだよ。その、欠損はしてしまっているけれど、セレステのロボットだって一命をとりとめていたんだ。
ロボットは辺りを巡回をしていた。私が声を掛けても『ジュウカイチュウ、ケイビチュウ』ってつれなかったけれど。でもね、セレステなら。
「……アーク?」
名前、そうだったんだ。セレステがロボット、アークのことを呼ぶと。
「セレステサマ……」
セレステには反応した。その場で動こうとはしない。そうだ、命令があった。セレステもそれ以上は動けずにいた、だけど。
「……プログラムニ、ソムキマス」
って、主人の命令に背くように動き、アークは近づいてきた。そして、触れられる距離へ。
アークはやっと主人と対面できた。嬉しいと思うんだ。
「はは、ははは……」
セレステだってそうでしょう? だって、早速体を屈ませて。そんな屈託のない笑顔でアークに触れているのだから。
「蝶……」
私の目の前を漂う二匹の蝶。黒い蝶たちがほどよい距離を保っていた。うん、そうだね――私は友愛エンディングを迎えたんだ。
ついに――セレステと。書は置いてきてしまったけど、セレステのページも記されているって、そう思えるんだ。
「そっか……この世界が」
立ち上がったセレステが目に映す世界。
セレステはその光景を愛おしそうに見つめていた――。
0
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
「婚約破棄します」その一言で悪役令嬢の人生はバラ色に
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約破棄。それは悪役令嬢にとって、終わりではなく始まりだった。名を奪われ、社会から断罪された彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな学び舎だった。そこには“名前を持たなかった子どもたち”が集い、自らの声と名を選び直していた。
かつて断罪された少女は、やがて王都の改革論争に巻き込まれ、制度の壁と信仰の矛盾に静かに切り込んでいく。語ることを許されなかった者たちの声が、国を揺らし始める時、悪役令嬢の“再生”と“逆襲”が静かに幕を開ける――。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
悪役令嬢だけど、私としては推しが見れたら十分なんですが?
榎夜
恋愛
私は『花の王子様』という乙女ゲームに転生した
しかも、悪役令嬢に。
いや、私の推しってさ、隠しキャラなのよね。
だから勝手にイチャついてて欲しいんだけど......
※題名変えました。なんか話と合ってないよねってずっと思ってて
『 私、悪役令嬢にはなりません! 』っていう悪役令嬢が主人公の小説の中のヒロインに転生してしまいました。
さらさ
恋愛
これはゲームの中の世界だと気が付き、自分がヒロインを貶め、断罪され落ちぶれる悪役令嬢だと気がついた時、悪役令嬢にならないよう生きていこうと決める悪役令嬢が主人公の物語・・・の中のゲームで言うヒロイン(ギャフンされる側)に転生してしまった女の子のお話し。悪役令嬢とは関わらず平凡に暮らしたいだけなのに、何故か王子様が私を狙っています?
※更新について
不定期となります。
暖かく見守って頂ければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる