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新たなる日々ED⑥
しおりを挟む揺蕩うように、水の中を進んでいく。光となった私はその身を流れに委ねていた。母なる海、って番人さんが教えてくれたっけ。うん、だから安心してればいいって。私は瞳を閉じようとして――。
「……」
いくつもの淡い光たち。同じ転生者たちだ。行く先は次第に分かれていく。どうぞご無事で。
ふふ、なんか懐かしい感じがした。もしかしたら、どこかで会っていたかもね――。
ああ、眠い。起きて、朝食を食べて、支度をして。私はまだ起ききってないというのに。
「――よくやった!! よくぞ合格してくれたな!」
年季が入った邸の書斎にて、私は今、父にあたる貴族に肩を揺さぶられていた。すごい力任せにしてくる。地味に痛い。
「ええ、おめでとう!! さあ、良縁に繋いでちょうだいな!」
着古したドレスの貴婦人、私の母。少女のようにはしゃいでいた。
今朝になって配達物が届いていた。その便りに――我が邸は大騒動だった。特にこの二人、私の両親。
「いやいや、上りつめてくれ!! この領地を盛り立ててくれ!! 取り戻せ、栄光よ、栄光!」
「いえいえ、玉の輿よ玉の輿!! 取り戻してちょうだい、かつての暮らしを!」
両親のテンションの高さに圧される圧される……! 迫る二人、壁に追いやられる私。いいえ、ここは!
「父上、母上!! 私は学業に励んで、数多の学友も得て参ります!」
私は高らかに宣言した!! 両親は感涙していた……ということで!!
「入学前の準備してきますので、それでは!」
時には逃げることも大事だから!! 父上、母上、失礼っ! 私はそそくさと退室していった。
ふう……私はひとまず手持ちのお金を持って玄関へ。入学前の準備は本当のこと、色々買い揃えていかないと。知り合いで格安で制服を譲ってくれるっていうから、これはもう、行きませんと。
「――あ、姉様。お出かけですか?」
丁度玄関のところで、帰ってきた弟が。朝早くから買い出しに行ってたみたい。買い物袋を下げていたから。ああ、私の愛しき弟よ!! 丸眼鏡の利発な少年なのです!!
「お買い物? だったら、香草買ってきてください」
「え」
はい、メモ。はい、お金って。弟、淡々と渡してきた。で、スタスタと用が済んだとばかりに行ってしまいそう?
あの子のつれなさ、反抗期だからとかじゃなく、生来のものなんだよね……いや、本当は優しい子なんだけど。私の受験にもすごく協力してくれたし、草花も愛する良い子。でも基本はドライ、つれない。
「――そうだ、合格おめでとうございます。それ、お祝い料理の大事な材料なんで、早く帰ってきてくださいね?」
振り向きざまに微笑。もう、もう……この子はもう!!
「ありがとうっ! 全速力で帰ってくるからねっ!」
馬車? 無理無理、保持してられない。でもそうだね、稼ぎ頭になったらだね。昔のように両親、弟にも乗せてあげたいな。私が運転するし。
「今日、結構遠くまで行くけどよろしくね?」
厨舎にやってきた私は、愛馬の頭を撫でた。彼は気持ちよさそうに鳴いていた。いい子だね。
「さて、香草は帰りかな。私、ちゃんと夕方までには帰ってくるからね?」
近所で買える香草は帰りに忘れずに。辺鄙といっても、無駄なく動けば時間は守れる。うん、弟との約束、守りませんと。
馬に乗って、私は領地を駆けていた。道すがらに領民たち、お祝いの言葉をくれた。ありがとう、ありがとう!! 私は笑顔で返した。
私は全領民の期待を背負っていた――没落してしまった貴族、再興を望まれて。
そう、ここはアルブルモンドの辺鄙なる地、とある貴族領。かつては栄えていたのに、今は衰退の一途を辿るばかり。かといって、とある男爵領ではなく。
――ええ、ここで。私は小川結衣です。
この度無事転生を果たし、貴族に生まれ変わりました。十五年が経ちました。
「……だいぶ、あったかくなってきたね」
この前までは凍えるような寒さだったのに、過ごしやすくなったね。雪もすっかり溶けていた。今の私は寒がりでもないから、元気に雪の中走り回っていたけど。
この春、私は名門学園に通うことになります――アリエス学園に。この世界では珍しい、春入学。あのゲームの世界と一緒。
猛勉強の末、晴れて合格しました。特待生枠も死ぬ気で勝ち取った!! 他にも名門はあったし、近場でも良い学校はあった。
色々な選択肢はあったけれど、私はどうしてもアリエスに通いたかった。その為に猛努力をしたんだ。思えば幼少期から、物心ついた時からかな。
「……」
そこに『彼ら』が通っているとか、それはないと思う。私がそう思うにもいくつかの理由があった。まずは。
「うん、無いんだよね……」
空に浮かぶはダンジョン――とはならず。この世界のダンジョンは滅ぼされたまま。
――かつての悪しき暴君、狂王に。討ち滅ぼすは賢者、伝説として学んだこと。
ここはアルブルモンド――遊戯の世界ではなく、実在する方。
私が新たに転生した世界。
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100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
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