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新たなる日々ED⑤
しおりを挟む「にしてもさぁ、結構違ったりもしてたけどね?」
「違ってたって?」
どういうこと? 真麻さん、うーんと唸っているよ?
「ゲーム本編と違ったりしてたってこと!」
「!?」
なんて衝撃!! 私、ゲームまんまの世界を進めていたと思っていたのに!! ……ううん、例えばエミリアン殿下。ここではないアルブルモンドとか仰ってたし、よそからの転生ってことだし。
「ヒューゴは優人君みあるし?」
うん、あるね。ユウ君み。ちゃんと事情もあるし、真麻さんもわかってるっぽいけど。
「オスカーはあんな闇深かったっけってなったし?」
うん、闇深い……闇深いて。それも生い立ちがあってのことも……あれ、生い立ちは元々の設定通りだよね……あれ?
「シルヴァン、あんな銭ゲバで煽り野郎だったかな……」
うん、大人な彼って宣伝してたもんね? まあ、銭ゲバにもちゃんとした理由が、うん。
「エミリアンは割愛!」
うん、殿下は割愛だね。
「イヴはまあ、暴走しているし……」
うん、暴走だったんだね……。
「ヤニクはねぇ……なんか、ごめんね? ヒロインに甘々な子だったんだけど。一途だし。うん……なんか、ごめんね? ほんと、ごめんね?」
うん、それはある意味遵守しているから大丈夫。彼、アリアンヌ様ラブは守っていたから。そんな何回も謝れると……かえって居たたまれないというか。
「……名無し殿ってなに。名無し殿ってなに! 確かにダンジョン絡みの隠しにしてたけど! 名無し殿って名前、設定してないし! もうちょっと、本名に関連づけてたし! サミーって!」
うん、名無し殿はもう色々と……真麻さん? 真麻さん? なんかすごく語りたそうにしているよ? というか、仮名『サミー』だったんだ……って考えている間にも、話は続く続く。
「しかも、なんで半裸なんっ!? ますます設定が……ああ!」
真麻さんは頭を抱えて絶叫していた。うん、これも名無し殿が勝手にだね。ちゃんと尊敬する人に倣ってって、あったけど。それも真麻さんの預かり知らぬことだったのかな?
「それからペラペラペラペラ――」
ああー、語る語る……。私は彼女の早口についていくのが精一杯。こんなにも麗しき女神様の姿なのに、もうね? 完全に真麻さんにしか見えない。
本当に語るなぁ、何でも知ってるんだなぁ。私と彼らのこと、まるで見てきたように――。
「……」
私の顔は一瞬にして青くなり、即のぼせ上がった。
気づかなければよかったことに、気づいてしまった。
「な、なななな」
これはもう、真麻さんに見られていたんだって……!! アリアンヌ様の姿ではあっても、私が彼らと過ごしてきたこと……中には人に見られたらなことまで!?
「ニヤニヤニヤニヤニヤ」
真麻さん、私の顔を覗き込んでいたの? いつの間に? しかもそんなにニヤついて?
「いやぁ、眼福眼福。『アリアンヌ様』は可愛かったし、あんなにも大切にされてねぇ? はあ、恋模様……尊い」
真麻さんはうっとりしていた。これはもう、確定事項。
「あああああ……」
私が、私の方こそ叫びだしたかった!! 大樹の近くだから、こう、抑えてもいるけど!!
「転生待機生活の潤いでしたぁ……はぁ」
「うん、そうだね! めっちゃ肌艶いいもんね!?」
あ、大声出してしまった。真麻さん、まだにやついてるなぁ……。
「……って、ごめんごめんて。結衣ちゃん、頑張ったのにねぇ?」
「もう、真麻さん……」
ブリジットの口癖移っちゃったよ、もう。ヨシヨシって頭撫でてくれたけど。
「――セレステ」
「!」
突然出てきた、セレステの名前。真麻さんは神妙な顔になっていた。
「賢者セレステの存在は知っていても、『あの』セレステはゲームに存在はしていなかった」
――セレステはイレギュラーだったと、そういうことみたい。元々は攻略対象ではなかったと。
「どうなることか、見守ってきた私にも予測できなかったこと。でも、結衣ちゃん。君は見事に未来を紡いでくれたんだ」
「真麻さん……」
「お疲れ様、結衣ちゃん。アリアンヌ・ボヌールとしても。頑張ったね」
「うん、ありがとう……」
私は甘えるように真麻さんにひっついた。彼女は私の頭を撫で続けてくれている。
それからも、私たちは語り合っていたけれど――。
「――待たせた。ああ、マーサ神か。あなたの転生はまだだ。離れていただきたい」
とても事務的な口調で新番人さんがやってきた。すぐに真麻さんに注意していたので、彼女は口を尖らせながらも私から離れていった。
「真麻さんって……」
「そ、結構長いの。神クラスだとね、そういうもんらしいっす。たまに人間になれたりするけど、ほんとたまーに、ごくまれーに」
私の親族、一般人に転生って相当レアだったんだ……?
「そっか……」
真麻さん、ずっと待っているんだ。新番人さんや、たまに滞在する魂はいても。それでもずっとここで。
「あーあ、せっかくだし? 結衣ちゃんと一緒に転生したーい!」
「うん、それいいね!」
難しい話だとはわかっていても、私は賛成した。私たちは顔を合わせて、だよねーって。
「……戯れは遠慮願いたい」
「ごめんごめん、戯言戯言だって」
淡々とした新番人さんにしては、怒っている声? 真麻さんは軽く謝っているけど。いや、私もふざけちゃって――。
「ただでさえ――小川結衣の転生でも干渉してたのだろう?」
「え」
私の転生? 絡んでいたの……?
「いや……言うかな。なんで言っちゃうかな?」
真麻さん、気まずそうに目をそらしているけど。
「結衣ちゃん……?」
「あ……」
私の体が発光しているのを見て、彼女はこちらを見た。
この感覚、覚えている。そうだ、この光に包まれて――私は転生したんだ。そうなんだ、もう……。
「……君の転生先が、悪しき者の元へ。君が呼ばれている気がしてならなくて。だから私が割り込んだんだと思う」
――いつかは覚えてないけど、と。真麻の頃に無意識だったのか、それとも大樹に光となって滞在していた時だったか。彼女の記憶は曖昧のようだった。
「悪しき者……?」
セレステ、というか賢者……? それとも別の存在?
「――私の目が届く世界、場所。あのゲームの中ならって」
そうだったんだ……うん、真麻さんは見守ってくれて、守ってくれていたんだ。
「本当にありがとう、真麻さ――」
私の声は途切れた。言い切れたかどうかのところで――私は光に包まれて消えたから。
もっとお別れの言葉をって、文句を言いたくもなったけど。
真麻さん、笑顔だったから。
それにね、声も聞こえた――『また会えるよ、見守ってるからね』って。
うん、その言葉を胸に。私は新しい世界に飛び込もう!!
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