脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
438 / 442

続いていく日々ED③

しおりを挟む
 しとしとと雨の降る音。快適な室温、ふかふかの上質な寝具。

「ん……」

 見慣れた天蓋付きのベッド。ここはそう――アリアンヌ・ボヌールの私室。
 まずはカレンダーを確認。今は六月に入ったところ――運命の日を越えましたのね。

「戻ってきましたのね、私は……」

 遥か未来ではなく、今まで生きてきた時代に――。

「……そっか」

 もうセレステとは容易には会えない。

「……」

 今はただ、この時代を懸命に生きよう。いつかはセレステに届く為に……うん。

「気持ち、上げていこう!! あーああー」

 起き上がっての発声、なんて美声なのでしょう。今になって実感ですわ、私の姿はまさにアリアンヌ・ボヌール!! ああー、力が漲って参りまして、よっ!! 

 さあ、窓際に立って、目覚めの体操を――。

「――目覚めの感動、よくも吹き飛ばしてくれましたね」

 心底呆れきった声の――ヒューゴ殿? 窓際の席に着いて、お茶を嗜みながらですの? 

 ……いえ、ユウ君みがありますわ。おそらくユウ君の方でしょう。ええ、そうですわ。ユウ君でなければ、乙女の寝室を断りなく訪れたりはしませんでしょう。ましてや、茶をしばいて寛ぐなど……。

「……あのね、ユウ君? こっちの世界だとね、私は令嬢、あなたは令息なの。家族みたくってわけには――」

 しばしご容赦を。結衣として語りかけてみました。今、ユウ君と私だけのようですし。

「って、ユウ君?」  
「……」

 ティーカップを置いて、立った私を見上げたまま。

「……嘘、感動しています。だって、姉さんがこうして――ここにいる」
「ユウ君……」

 私の腰に抱きついてきた。ヒューゴ殿の姿だけれど、私にとってはユウ君。背中の上あたりを撫でてみた。安心するって、言ってくれたよね。

「姉さん……おかえりなさい……」

 瞳を閉じて、私に委ねて。そうだね、私からも。

「ただいま――」
「――ちょっと、ヒューゴ様!? まさか、アリアンヌ様の部屋に乱入――」

 乱暴な連続ノックのあとの突入、この愛らしき声、姿は――ブリジット!! 

「……してるし!! もう、なんでヒューゴ様がぁ」

 殿下じゃなるまいし、と。ええ、ありましたわね……。

「しかもなんで、なんで、抱きついてるの!?」

 大興奮の彼女、ずかずかと部屋に入ってきます。

「……こちらが聞きたいです」

 ここで、青褪める彼。ああ、このタイミングでヒューゴ殿に戻られましたのね……振り回されていて? わざとではないと思いたいところですわ。

 それにしても、ヒューゴ殿……? あなた、未だに抱きつかれたままで。紳士たるあなたが……? 

「……離れがたい、です」

 と。

「ヒューゴ殿……!?」

 あまりにも衝撃的。私は驚かずにはいられなくて。

「失礼、自制します。突然の訪問、大変失礼致しました」

 ヒューゴ殿は離れていきました。それからかなりの距離をとって。あなた、ついには入口のところまで。隣のブリジットはもう、と肩を竦めてますわね。殿下じゃないんだから、とも。

「……とにかく。目覚めてくれて良かった。私は信じていたけどね?」 
 
 と、勝気に笑うブリジット様。自分はこうなるとわかっていたと、そう言いたげで。

「……」
「……」

 私も、いえ、私だけではなく。ヒューゴ殿もですわね。ブリジット様のことをじっと見ているのは。

「……な、なに」

 目を腫らしていたので、つい。ずっと、泣いていたのだと……ブリジット。

「ただいま戻りましたわ」

 どれだけ心配をかけたことでしょう。私も泣きそうにはなるけれど、今は。

「……うん! おかえり、ユイちゃん!」  
「ただいま、ブリジット」

 ブリジット様が飛びつくように抱きついてきたのです。私もしかと受け止めましてよ。

「――ええ、おかえりなさいませ。お待ちしておりました」
「ありがとう、ヒューゴ殿……」

 穏やかに微笑んでくださったヒューゴ殿。ああ、そうですのね……私は戻ってきたのですね。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。 その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!

白雨 音
恋愛
公爵令嬢アラベラは、階段から転落した際、前世を思い出し、 この世界が、前世で好きだった乙女ゲームの世界に似ている事に気付いた。 自分に与えられた役は《悪役令嬢》、このままでは破滅だが、避ける事は出来ない。 ゲームのヒロインは、聖女となり世界を救う《予言》をするのだが、 それは、白竜への生贄として《アラベラ》を捧げる事だった___ 「この世界を救う為、悪役令嬢に徹するわ!」と決めたアラベラは、 トゥルーエンドを目指し、ゲーム通りに進めようと、日々奮闘! そんな彼女を見つめるのは…? 異世界転生:恋愛 (※婚約者の王子とは結ばれません) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

『 私、悪役令嬢にはなりません! 』っていう悪役令嬢が主人公の小説の中のヒロインに転生してしまいました。

さらさ
恋愛
これはゲームの中の世界だと気が付き、自分がヒロインを貶め、断罪され落ちぶれる悪役令嬢だと気がついた時、悪役令嬢にならないよう生きていこうと決める悪役令嬢が主人公の物語・・・の中のゲームで言うヒロイン(ギャフンされる側)に転生してしまった女の子のお話し。悪役令嬢とは関わらず平凡に暮らしたいだけなのに、何故か王子様が私を狙っています? ※更新について 不定期となります。 暖かく見守って頂ければ幸いです。

処理中です...