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続いていく日々ED④
しおりを挟むお二人は所用があるとのこと。見舞いの品を渡した後、早々と退室されました。時間を作って見舞いに来てくださったよう……有難いですわ。
ヒューゴ殿はご家族との用事があるのだとか。関係も修復されていっているのだとか。ええ、それは何よりですわ。
ブリジット様もそう、出発前に立ち寄ったのだと。一時帰国されるのだと……彼女も色々あると、それ以上は伏せられていましたわね。大丈夫かしら……?
ただ、七月になったら戻ってくると。ええ、それを楽しみにしていましょう。
そんなお二方と入れ替わるかのように訪れたのは――。
「――良かったぁ、急に倒れたからさ! ……って、ごめん。声でかかったか。ほら、まだ安静にしててって」
と、オスカー殿。私をベッドに寝かしつけてくれていました。
「な? びびったよな。でもそこはさすがアリアンヌ様、タフだわー」
髪を上げられ、きっちりとした身なりのシルヴァン殿が――だらりと椅子にもたれかかってました。なんたるダルダルっぷりよ。
彼、ダンジョンでもご一緒してましたものね。素を隠したりはしませんわね、ええ。
「そうです、オスカー様。お気遣い感謝致します。ですが、アリアンヌ様はまだ本調子ではありませんので。本日のところはこのへんで」
控えていたのはイヴ、ええと、お二人を帰そうと?
「いいえ、イヴ。私は元気でしてよ。オスカー殿もお気遣い感謝しますわ」
「そうそう、元気だろ。どう見ても」
「……」
この人は本当に……ああ、イヴも呆れ果てた表情だこと。
「まあ、オスカー様は百歩譲るとして。シルヴァン様はお土産もたせるから、早く帰って」
「はあ!? なんでだよ!」
シルヴァン殿は納得がいかないと、抗議をしていました。
「ほら、アリアンヌ様だって元気になられたということで。もう解散、解散しましょう。ほら」
イヴ、仕切りましてよ。早く二人を追い出そうと……結局はオスカー様までも?
「いや、元気だけど……また無理してるかもだろ」
と、真剣な表情になったシルヴァン殿、彼はそう言って。
「まあ、イヴ様の仰る通り? 帰るとしますか。本当にさ……戻ってきてくれて安心した」
「シルヴァン殿……」
彼はどこまでも優しい声音でした。オスカー殿も『うん』と頷いていて。
――戻ってきてくれて、と。それを口にしたのがシルヴァン殿。
そうですわね、お二人は事情を御存知ではありませんでした。さすがにと思ったのでしょうか、彼らは話を聞き出したようです。
『……そういうことだったんだ。頑張ったんだね』
『にわか信じ難いけど、でも信じる。つか、もっと早く言ってくれてもだったけど?』
話は聞いた、そして労いと信じてくれたと。ブリジット様がほとんど説明してくれたと。ええ、殿下は話したがらなかったと。ヒューゴ殿もまた背景は複雑ですものね。
イヴはといいますと、彼が覚えているのは――。
「――ユイちゃん、ユイ、だっけ」
「!」
オスカー殿がそう呟いていて。その、妙に照れながらというのも……。
「荒唐無稽な話だったけど、でもさ、信じられたよ。俺たちが接してきたのは――ユイだったんだって」
そうやって微笑むオスカー殿に、シルヴァン殿も頷いていました。彼もそう、目を細めていて。
「ああ、そうだな……ユイ」
「……」
そんな……そんなに艶やかな声で呼ぶことあります? シルヴァン殿……?
「……なんでそんな声で呼ぶんですか?」
疑問を口にしてくれたのは、オスカー様。代弁してくださったかのよう。
「そんな声て。普通に呼んだだけだし。そう呼びたかった……本当の名前なんだろ?」
もう一度――ユイ、と。追加できましたか……より濃密に。
「――いやだなぁ、皆様! 彼女はアリアンヌ様、アリアンヌ・ボヌール様ですって!! ほらほら!」
手を大きく叩いたのはイヴ、彼はもうあからさまに帰りを促していました。雰囲気を壊したというか、戻したともいうべきか。助かったといえばそう。
「……イヴ君さ。そういえばなんだけど、なんで彼女の姿、知ってる風だったの?」
「そうそう、イヴ様? どんな手を使ったのかなぁ?」
お二人からの疑惑の眼差し。ええ、そうなのですわ!
「イヴ? 私、容姿の特徴までは伝えてなくてよ? あなた、迷いなくユイであると確信もってましたわね?」
「うう……アリアンヌ様まで……」
「う……」
打ちひしがれるイヴ、こちらまで心が痛くなってくるようですわ……。
「そういうのよくないよー、イヴ君?」
「吐いてすっきりしちまえー」
と、お二方。イヴは二人を苛々そうに見るも、話す気にはなったようです。
「……申し訳ありませんでした。良心の呵責に耐えられないので、お話します……」
イヴ、白状する気になったと。いえ、白状するようなことなのです?
「……前世のお話を聞いてから、どんなお姿だったのかなって。それで、その……術を用いて、見てしまいまして」
「そうでしたの……盗み見は感心しませんが、別に言ってくれれば」
アリアンヌ様という美の化身からの中身が……ってなるけど。でも、イヴとかは態度を変えたりはしないって思ってたし。現に私の本当の姿を知っていても、そうだったから。
「本当にその通りです。どうしてもあなたを知りたかったから……ごめんなさい」
もしかしたらですが、ずっと……だったのかしら。最初の頃なんて特にあなたは必死でしたから。その思いは申し訳もなくなり、嬉しくもあります。ですが、なんともまあ……そんな前からともなりますと。
「ええ、そうですわね。ですが、打ち明けてくれましたし、これ以上は問いませんわ。あなた、本来の私の姿を見たわけでしょう、もうお控えくださいまし?」
といっても、やっぱり恥ずかしいですし。美形集団の中に庶民が放り込まれたようなものですから。私がこうして振る舞っていられるのも、彼女の生来の美貌にも乗っかっていられるから。
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