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続いていく日々ED⑦
しおりを挟む教室は出たので、どこで話すのか。殿下は例の個室を提案しかけて、それは御自身でキャンセル。いつものテラスになりそうかと――。
「――エミリアン様!」
突如、現れた愛らしきご夫人。彼女は殿下目がけて――腕を組まれたのです。かなりの密着ぶりですわ……!!
当学園の制服のようですが見慣れぬ方……いえ。
「あなたは……」
かつての夜会でお見かけしましてよ。殿下とも踊られていましたわね。異国のご夫人、あの夜会にお呼ばれするくらいだから、お立場のある方かと。
――もしや姫君? それって。
「ああ、ごめんなさい……!! 私、気が急いてしまいました!」
彼女は腕を離したものの、殿下を見つめたまま――うっとりとした眼差しで。
「いいや? お気になさらず。光栄なものですよ、美しき夫人に頼られるのも」
と、キリっとされてますけれども。私、見てしまいましてよ。あなた、抱きつかれた時、締まりのない顔をしておいででしたわ。離れた時の残念そうな顔もでしてよ。
「――妹が失礼した」
「!」
と、突然のサミュエル様。さすがに半裸でも魔物頭でもなく、礼装姿ではあります。そして妹と――やはり彼女は姫君と。
「転入には早いというのに、会いに行くと聞かなくて。改めて紹介させていただこう。妹の――」
彼女の紹介はしていただきました。ですが、私も殿下だってそう、何が何やらで。
「……いやぁ、サミュエル様? 話が見えないぞ?」
「ああ、そうか。まだ伝わっていなかったのか」
あっさりと彼はそう言う。そんなあっさりと。とにかく、彼は説明はしてくださるようで。
「妹はあなたを見初めた」
「「!!」」
殿下と私は衝撃を受けてました。み、見初めましたの……?
「ファーストダンスも務めてくださった相手だ。運命を感じたともな」
「む、昔から素敵だなって思ってました!! でも、実際お会いしますと……きゃっ」
との事でした……というか、ファーストダンス? 殿下、知らない知らなかったと首を振ってますわね。
「もう、私にはあなたしか……」
のぼせきった彼女、ああ、この展開は――。
「国王陛下も前向きに考えてくださっている――婚約関係にと」
「へ、へえ……?」
殿下、平静を装ってますが内心はいかに。それにまあ、前例もありますものね……前例が。
「……アリアンヌ様。どうか気落ちしないでほしい。あなたにはなんの咎もない」
「まあ……」
妹君は殿下に。サミュエル様は私に近づいてきていて。気にしてくださっているのね……それに。
「婚約破棄。私も願ったり、企みもあったが――斜め上の方向でやってきた。私が仕向けたわけではない」
「そうなのですか……ええ、ご事情は把握しましたわ」
ええ、嘘ではないことでしょう。
「ただ……」
私は目を伏せました。公爵家、家族たちが悲しむだろうと。悲しむ顔はさせたくないもの。
「ああ、公爵様のことだが――お怒りだった」
「ええ、そうでしょうね。父はさぞ怒りに……怒り?」
怒り? 殿下に? 王族に?
「……意識下で積もりに積もっていたのか。堪忍袋の緒が切れた、いくらでも破棄をしろと。一夫多妻など知るかと。凄まじい怒気だった」
さすがのサミュエル様も思い出して、震え上がっていたようでした。ええと、つまり……悲しむことはないと? ええ、悲しむよりはですが……? これまでも散々、怒ってはいましたものね。
「い、嫌だ!! 婚約破棄は嫌だ!!」
「ああ。今回ばかりは殿下を気の毒に思う」
「同情も嫌だ! でも、味方になってくれるならぎりぎり許す!」
殿下、喚いてますわね。やだやだと連呼しています。でもって、サミュエル様をも味方に引き入れようとも。
「すまないが味方にはならない。殿下、これで平等な立場になった。同等なる立場で――争える」
サミュエル様、まるで挑戦状を叩きつけているかのよう。殿下はというと。
「いんや!? 俺、不利になってるよな!? 婚約破棄されてるんだけど!?」
納得がいかないと、喚き続けていましたが……彼は気を取り直したのか、ふっと笑ったのです。
「……いや、面白い。それでも俺が勝てばいい――そうだな、君の言葉を借りるなら」
遊戯――華麗なる恋愛遊戯に、と。
「いや、殿下。遊戯ではない。こちらは真剣だ」
「くっ……マジレス族め! こっちだって真剣だ! 遊戯だろうとなんだろうと、彼女のことならなっ!!」
火花が上がるかのよう――殿方のにらみ合いは続いていて。
「……私だって何が何でも、です!」
ああ、姫君までも私に対して闘争心を……!!
ああ、私は平和なる日常を取り戻したはずなのです。
それなのにまたしても、騒動が。しかもまだ波乱も含んでいるかのようで……シルヴァン殿、予想をあててくれたではありませんの。
騒々しくも大変でありながらも、それでも愛しき日々よ。
もう繰り返されることもなく、続いていく日々よ。
私はアリアンヌ・ボヌールとして、精一杯生きて参りましょう――。
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