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第一章
栄えし都と隕石と
しおりを挟む領地を馬車で出発し、着いたのは最寄りの鉄道駅だった。それでもここまで来るのに、日数を要してしまった。途中で町や村に寄りつつも、北上してきた。
この国の最北端にあるのが、私が目指すべき学園。王都を通過して、北へ北へと向かうことになる。
「……」
温暖だった港町とは違い、ちらほらと雪が積もっていた。学園はもう雪が積もっていくると聞くわ。どれだけ寒いのかしら……。
長く列車に揺られ、私もうとうとしていたところで――車内アナウンスが鳴った。
都にまもなく到着すると――。
「まあ……」
カーテンを開き、景色を見る。列車は今、都に続く橋の上を走っている。四方が水辺に囲まれている都に入るには、頑強な橋を渡る必要があった。
橋を渡った先、そこには。
「まあ……」
目の前に広がる大都会に感動する―――多くの人々が行き交う、栄えし都。圧巻だわ……!
新たな国『ノーヴァ』の中心地である、都に到着した。
ああ、人の数と熱気がすごいわ……寒さも忘れるほどに。
国の最北端にある学園までは、まだ距離がある。あらかじめ都で一泊する手筈となっていた。学園側からの配慮という事らしかった。これもコネ効果……?
「すっかり暗くなりましたね……」
とっくに日が落ちており、長旅の疲れもある。今夜は睡眠をしっかりととりましょう。
都の正門では観光客でにぎわっていた。近づいていくと、白い装束を着た人物が待ち構えていた。
「――ようこそ、生まれ変わった国へ!」
相手は杖を構えて円を描く。そこにあるのは魔法陣だ。
「ええっ!?」
ふわっと体が浮いたかと思うと、そのまま発生された風に巻き上げられていく。
「目的地を教えてくださいな。一瞬でお届けしますから」
あ、そういうこと。なるほどなるほど、そういうことでしたのね。私が宿の場所をお伝えすると、先方も『かしこまりー』と。そうだわ、料金をお支払いしなくては。
「ま、待ってください。無料ではありませんよね? お金いくらかまだ……」
「『女王陛下就任記念』に、現在無料となってまーす!」
「あ、そういうことですね。それではお願い――」
出した金貨袋を手にもったまま。私はそのまま風に乗って、空へと躍り出た。それから視界が一瞬白くなるも。
――それは束の間のこと、気がづけば目的地である宿屋に到着していた。
「魔術。書物で学んだ事はあったけれど……」
私の脳裏に浮かんだのは、神々しく輝くのは大樹だ。
この世界の力の源。数多の恩恵を授ける存在だ。今し方の魔術もそう。元素を自在に操る魔法も恩恵によるものである。
限られた存在のみかと思われたけれど、都は一般にも普及しているという。ちなみにペタイゴイツァ一家には縁がないわね。
「――あれが」
私はゆっくりと夜空を見上げた。落ち着いた今だからこそ、『それ』を目で確認する。
――隕石だった。ほぼ砕け散っているそれらが、そのまま都の上空に留まっている。
「……」
――かつて、この世界に隕石が襲来した。あろうことにも大樹に衝突しそうになった。隣接していた国々もそれに巻き込まれる形となってしまった。
各々が全力に事にあたった。この国においては、精鋭の魔術師達を招集した。彼らの尽力もあり最悪の事態は免れた。
飛び散った隕石の破片が降り注ぐ。小さな破片らは人体にぶつかっても、さほど害はなかった。外傷に至ってはそう……。
……その破片を飲み込んだ人は死に至る事が大半だった。けれでも一部は、一命をとりとめる事は出来た。
その代わりなのか、代償もあった。
「……『隕石症』の発端、ね」
――隕石症。降り注ぐ破片を飲み込む事により発症してしまう。それも児童のみだった。
主だった症状は幻覚だった。夢遊病ともいえるもの。軽症ならば頻度は多くないけれど、重度の発症者ともなると日常生活を送るのも困難だという。
とはいえ、年齢を重ねるごとに和らいでいくとも。それに、研究も進んでいるともいうわ。
「……お元気かしら」
浮かんだのは彼の顔。
そんな私の問いかけは、空へと消えていった。
『……お前がいなくなった。突然消えたんだ。さっきまで、ずっと一緒だったのに』
幼い姿をした私達が同じベッドで寝ていた。彼の泣き声が聞こえてきた気がして、真夜中に起きたのは私だった……実際は泣いてはいない。けれど、彼はうずくまっていた。
伯爵家の彼の家にお泊りをしていた。この頃は、一緒に眠るのが当たり前だった。
『捜しても、どれだけ捜しても……お前がいなくて。俺を置いて、どっか行ったんじゃないかって……』
小さな体を震わしている彼……放っておけるわけがなくて。体を起こした小さな私は、彼を抱きしめていた。
『わたしはずっといるよ。いなくなったりなんてしないよ。ここにいるよ……ずっとそばにいる』
『アマリア……』
彼も抱きしめ返していた。縋るように抱きついていた。不安を隠すこともなくだった。なら、私も何度だって安心させるように、言葉を繰り返していた。
わかっている、わかっているのよ。それはあなたにとって――単なる夢ではないって。
彼が怖がっていたこと。それは彼にとって――『現実』だったから。
「ん……」
よく眠れないまま私は朝を迎えた……懐かしい夢から目覚めて。
「……起きましょう」
身支度を終えた頃に、ノックの音がした。従業員の方から朝食が届けられた。私は礼を言って、相手を見送る。静かに閉じられた扉……ああ、静かね。
……本当に静かな朝だこと。こうして一人で朝食をとること、生まれ変わってからは初めてね……。
「……」
いつもなら騒々しい朝の食卓を送っていたのにね。
がっつく父を、呆れながらも諫める母。
たまに顔を出す兄達は、しかめ面と苦笑でその様子を見ている。
口元を汚す事に長けている弟妹達。よくフォローしてくれていたのは、すぐ下の弟だ。
食後には姉の淹れた美味しい紅茶で、ようやく落ち着く。
今は離れなければならない家族達。彼らの事を思い返しつつも、私は朝食をとることにした。
都から学園に向かうまで、馬車にお世話になることになる。こちらも伯爵婦人が手配してくださったの。通常は学園までも鉄道はあるのだけれど、運休しているのだとか。私一人の為にも動かせないでしょうね。
「――乗り心地はいかがですかな? 言ってくだされば、速度も落としますからね」
「お気遣い感謝いたします。快適ですからご心配なさらず」
「それは良かった良かった」
受話器越しで気さくに話しかけてくるのは、馬車の運転手だ。気の良さそうな中年男性だった。軽妙な語り口だったり、ラジオや音楽も聞かせてくださったり――思いに耽る時間もくれたりと。もてなしの巧みなこと。
話題は学園のことに。彼は名門校に編入する私を、しきりに感心していた。
「いやあ、本当にすごい事なんですよ、お嬢さん。よほど優秀なのですねぇ」
「いえ、たまたまです。運が良かったのだと思います……ふふふ?」
……正直な話、コネ入学の可能性が高いのよ。私は笑ってごまかすしかなく。
「最近即位された女王陛下! 出身校というではありませんかぁ!」
「ええ、そうですね。女王陛下もですわね」
「そうそう! かの文豪、ロックフィールド女史もそうですし――」
運転手さんは次々と名前をあげていく。それこそ有名な貴族の跡取りの名もだ。皆、あの学園の卒業者達だ。現役で活躍している著名人達ばかりだ。
優秀な人物を輩出している名門校、それには変わりないのよ。『当時』からどれだけの年月が経っていることか。
「……そうよ」
噂が先走っただけ。彼からの手紙が届かないのも、単なる行き違いの可能性もある。何も不安になる事などない。それなのに。
「……」
どうして、胸騒ぎが止まらないのかしら――。
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