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番外編
グルメ狩猟ツアー②
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クーの「俺の童貞が欲しい」という爆弾発言から、数日が経った。
そして――約束の日。俺とクーは、二人きりで出かけることになった。
行き先はクー任せ。どこへ向かうのかも分からないまま、俺たちは王都近くの広大な森を、手をつないで歩いていた。
どこを見ても背の高い木々ばかりで、目印になるものなんて一つもない。方向感覚もすぐに狂いそうな深い森だ。
それなのにクーは、まるで自分の庭でも歩くように、確かな足取りで迷いなく進んでいく。
そんなとき、倒木の根元に群生する、見覚えのあるキノコを見つけた。
「……クー、あれヒラタケモドキじゃない? たぶん食えるやつだ!」
持って帰ってチビたちのお土産に……なんて考えながら俺が手を伸ばした瞬間――。
「待って、ユーマ!」
繋いでいた手をぎゅっと掴まれる。クーは屈み込み、鼻先をキノコに近づけて、くんくんと匂いを嗅いだ。
「これ、ヒラタケモドキにそっくりな毒キノコ♡」
笑顔のまま、恐ろしい事実を告げるクー。
「匂いでわかるのか!?」
「うん、わかる。――ほら、こっちは美味しいよ♡」
そう言って差し出されたのは、真っ赤に光るいかにも毒々しい見た目のキノコ。
どう見ても「食べたらゲームオーバー」な外見だった。
(……え、こっちが食えるの!?)
俺の常識は森の入口に置き忘れてきたらしい。
それからもクーの規格外なガイドは続いた。
次に案内されたのは、木の実が鈴なりに実る場所だった。
ベリーのように赤く小さな実、柿のように丸く大ぶりな実――この広い森のどこに、どんな果実が実っているのか、クーはすべて把握しているらしい。
俺は、クーが厳選して摘んだ果物を受け取り、ひとつ頬張る。
「ユーマ、おいしい?」
「……うまい!」
俺がそう答えると、クーは満足げに目を細めて笑った。
やがて、ふと何かを見つけたように顔を上げる。
「ユーマ、ハチミツ!」
言うが早いか、クーは地を蹴って木を登り、枝の高みにある巨大な蜂の巣を素手で割り崩した。
ボフン、と鈍い音が響く。次の瞬間、無数のミツバチを全身にまとったクーが、満面の笑みを浮かべて飛び降りてきた。
「ひぃぃぃ! クー!! めっちゃ刺されてるけど!?」
「うん、へーき♡」
何事もなかったように、彼は蜜の滴る巣のかけらを俺に手渡す。
「巣ごと食べられるよ♡」
「……いいのか?」
こくりと頷くクー。
――覚悟を決めて、俺はそのまま齧りついた。
「……あまっ、うま……っ!」
口いっぱいに広がる、濃厚で純粋な甘さ。思わず目を見開く。
(いやもうこれ、デートっていうより……“野生のグルメ狩猟ツアー”だろ!)
極めつけはそのあとだった。
クーはさっきの派手な見た目のキノコに、太い枝を削って作った串を刺し、焚き火の熾火にかざした。
さらに、拾った栗にナイフで十字の切り込みを入れ、パチパチと燃える火の中へ放り込む。
「ユーマ、キノコはちょっと遠火でね。水が飛んで、いい匂いになったら――塩! だよ♡」
じっくり焼かれていくキノコから水分が滴り落ち、炭に触れてジュウッと小さく弾けた。
香ばしい煙が鼻をくすぐり、さっきあれだけ果物を食べたというのに、腹の虫が我慢できずに鳴く。
「ほら、ユーマ焼けたよ♡」
クーがポーチから塩をひとつまみ振り、俺に串を渡す。
熱いのを我慢しながら齧りつくと、口いっぱいに濃い旨味が広がった。
「っ……なにこれ、うまっ! キノコの味、めちゃくちゃ濃いな!」
クーは満足げに笑い、今度は火の中から焼けた栗を木の棒で掬い上げる。
鬼皮と薄皮を器用に剥いて、湯気の立つ栗を俺に差し出した。
「あちっ……! あっつ! お前よくこれ触れたな!?」
「うん、手の皮が厚いからへーき♡」
火の粉が舞う焚き火の明かりの中、クーの笑顔は子どものように無邪気で――けれどどこか、野生の王のようにたくましかった。
クーの“野性のグルメツアー”を終え、日が傾き始めたころ。
クーは「秘密の場所がある」と言い、俺の手を引いて、さらに森の奥へと進んだ。
辿り着いたのは、苔むした石造りの暖炉と、崩れかけた木の扉を持つ、小さな山小屋。
長い年月に取り残されたその佇まいは、まるで森そのものに呑み込まれたようだった。
(まさか……ここがデートの終着点か? 最高の秋の味覚で油断させておいて、最後に“デザートは俺”ってオチか!?)
「クー、ここ……」
「うん、ここ。誰も来ないよ。オレとユーマだけの場所♡」
クーは柔らかく笑いながら、規格外の腕力で扉をミシミシと開いた。
中はひんやりとして、湿った木と埃の匂いが鼻を掠める。
中央には古びた暖炉と、藁で作られた簡素なベッドの残骸が見えた。
クーは慣れた様子で羽織っていた毛皮を広げ、手際よく薪を組み、火を灯した。
橙色の炎がぱちぱちと弾け、長い影が壁に揺らめく。
「ユーマ、夜は寒いからここにおいで。オレ、ユーマが凍えないように抱っこしててあげる」
その瞳には、純粋な気遣いと――どうしようもなく強い、独占欲の色。
(……ああ、逃げ場なしだ。
この山小屋は、優しさの皮を被った“檻”だ――!)
暖炉の火が小さく爆ぜる音を聞きながら、俺は悟った。
今まさに、誰も知らない森の奥で、“最終決戦”のゴングが鳴ろうとしている。
そして――約束の日。俺とクーは、二人きりで出かけることになった。
行き先はクー任せ。どこへ向かうのかも分からないまま、俺たちは王都近くの広大な森を、手をつないで歩いていた。
どこを見ても背の高い木々ばかりで、目印になるものなんて一つもない。方向感覚もすぐに狂いそうな深い森だ。
それなのにクーは、まるで自分の庭でも歩くように、確かな足取りで迷いなく進んでいく。
そんなとき、倒木の根元に群生する、見覚えのあるキノコを見つけた。
「……クー、あれヒラタケモドキじゃない? たぶん食えるやつだ!」
持って帰ってチビたちのお土産に……なんて考えながら俺が手を伸ばした瞬間――。
「待って、ユーマ!」
繋いでいた手をぎゅっと掴まれる。クーは屈み込み、鼻先をキノコに近づけて、くんくんと匂いを嗅いだ。
「これ、ヒラタケモドキにそっくりな毒キノコ♡」
笑顔のまま、恐ろしい事実を告げるクー。
「匂いでわかるのか!?」
「うん、わかる。――ほら、こっちは美味しいよ♡」
そう言って差し出されたのは、真っ赤に光るいかにも毒々しい見た目のキノコ。
どう見ても「食べたらゲームオーバー」な外見だった。
(……え、こっちが食えるの!?)
俺の常識は森の入口に置き忘れてきたらしい。
それからもクーの規格外なガイドは続いた。
次に案内されたのは、木の実が鈴なりに実る場所だった。
ベリーのように赤く小さな実、柿のように丸く大ぶりな実――この広い森のどこに、どんな果実が実っているのか、クーはすべて把握しているらしい。
俺は、クーが厳選して摘んだ果物を受け取り、ひとつ頬張る。
「ユーマ、おいしい?」
「……うまい!」
俺がそう答えると、クーは満足げに目を細めて笑った。
やがて、ふと何かを見つけたように顔を上げる。
「ユーマ、ハチミツ!」
言うが早いか、クーは地を蹴って木を登り、枝の高みにある巨大な蜂の巣を素手で割り崩した。
ボフン、と鈍い音が響く。次の瞬間、無数のミツバチを全身にまとったクーが、満面の笑みを浮かべて飛び降りてきた。
「ひぃぃぃ! クー!! めっちゃ刺されてるけど!?」
「うん、へーき♡」
何事もなかったように、彼は蜜の滴る巣のかけらを俺に手渡す。
「巣ごと食べられるよ♡」
「……いいのか?」
こくりと頷くクー。
――覚悟を決めて、俺はそのまま齧りついた。
「……あまっ、うま……っ!」
口いっぱいに広がる、濃厚で純粋な甘さ。思わず目を見開く。
(いやもうこれ、デートっていうより……“野生のグルメ狩猟ツアー”だろ!)
極めつけはそのあとだった。
クーはさっきの派手な見た目のキノコに、太い枝を削って作った串を刺し、焚き火の熾火にかざした。
さらに、拾った栗にナイフで十字の切り込みを入れ、パチパチと燃える火の中へ放り込む。
「ユーマ、キノコはちょっと遠火でね。水が飛んで、いい匂いになったら――塩! だよ♡」
じっくり焼かれていくキノコから水分が滴り落ち、炭に触れてジュウッと小さく弾けた。
香ばしい煙が鼻をくすぐり、さっきあれだけ果物を食べたというのに、腹の虫が我慢できずに鳴く。
「ほら、ユーマ焼けたよ♡」
クーがポーチから塩をひとつまみ振り、俺に串を渡す。
熱いのを我慢しながら齧りつくと、口いっぱいに濃い旨味が広がった。
「っ……なにこれ、うまっ! キノコの味、めちゃくちゃ濃いな!」
クーは満足げに笑い、今度は火の中から焼けた栗を木の棒で掬い上げる。
鬼皮と薄皮を器用に剥いて、湯気の立つ栗を俺に差し出した。
「あちっ……! あっつ! お前よくこれ触れたな!?」
「うん、手の皮が厚いからへーき♡」
火の粉が舞う焚き火の明かりの中、クーの笑顔は子どものように無邪気で――けれどどこか、野生の王のようにたくましかった。
クーの“野性のグルメツアー”を終え、日が傾き始めたころ。
クーは「秘密の場所がある」と言い、俺の手を引いて、さらに森の奥へと進んだ。
辿り着いたのは、苔むした石造りの暖炉と、崩れかけた木の扉を持つ、小さな山小屋。
長い年月に取り残されたその佇まいは、まるで森そのものに呑み込まれたようだった。
(まさか……ここがデートの終着点か? 最高の秋の味覚で油断させておいて、最後に“デザートは俺”ってオチか!?)
「クー、ここ……」
「うん、ここ。誰も来ないよ。オレとユーマだけの場所♡」
クーは柔らかく笑いながら、規格外の腕力で扉をミシミシと開いた。
中はひんやりとして、湿った木と埃の匂いが鼻を掠める。
中央には古びた暖炉と、藁で作られた簡素なベッドの残骸が見えた。
クーは慣れた様子で羽織っていた毛皮を広げ、手際よく薪を組み、火を灯した。
橙色の炎がぱちぱちと弾け、長い影が壁に揺らめく。
「ユーマ、夜は寒いからここにおいで。オレ、ユーマが凍えないように抱っこしててあげる」
その瞳には、純粋な気遣いと――どうしようもなく強い、独占欲の色。
(……ああ、逃げ場なしだ。
この山小屋は、優しさの皮を被った“檻”だ――!)
暖炉の火が小さく爆ぜる音を聞きながら、俺は悟った。
今まさに、誰も知らない森の奥で、“最終決戦”のゴングが鳴ろうとしている。
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