【完結】ヒールで救った獣人ショタがマッチョに進化!? 癒しが招く筋肉のカタチ

たもゆ

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番外編

仔竜の贈り物①

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(※ガウル×ユーマ回。前半まったり、後半がっつり(?)予定……?)






 「――しばらく、留守にする」

 それは、寝る前のまったりとした空気を真っ二つに断ち切るような声だった。
 夜も更け、アヴィのギルド任務からの帰宅を待って4人そろった自宅の食堂。
 俺が、まだ食事を済ませていないアヴィのためにスープをテーブルへ置いた、その瞬間だった。

 立ちのぼる湯気がゆらりと揺れ、柔らかな魔導光まどうこうの灯りがテーブルを照らす――その中で。
 ガウルはおもむろに、いつも狩りで使っているミディアムソードを取り出し、静かに鞘を少しだけ引いた。

 俺は思わず固唾をのんだ。
 のぞいた刃をじっと見つめる。

 本来なら、彩虹のように煌めくはずのその刃――
 だが今は、素人の俺でもわかるほどの大きな刃毀はこぼれが刻まれていた。

 「……もしかして、ルギドと戦った時?」

 俺がぽつりと尋ねると、ガウルは僅かに頷いた。
 そして、とんでもない事実を――まるで今日の天気でも話すみたいに、さらりと続けた。

 「王都の鍛冶屋に修理を頼んだが、ミスリルを切らしてると言われてな」

 (……み、ミスリルぅ!?!?)

 「ガウルのその剣、ミスリル製だったのか!?」
 「ああ。……言ってなかったか?」

 ――ミスリル。
 異世界ではお馴染みの「ミスリル鉱石」。
 それは超がつくほど貴重で、その鉱石から作られるミスリルソードやアーマーは、ファンタジー世界の最強装備と名高い。

 ――そのミスリルを、ガウルが“普段使い”していたなんて。

 アヴィが、スープに浸したパンをゆっくり口へ運びながら問いかけた。
 「――それが、留守にする理由わけですか」

 ガウルは短く「ああ」と答え、剣を鞘に納めた。
 「剣を打ち直すにはミスリルが必要だ。だが王都では、手に入らなかった」

 「……それで、他の街に?」と俺が口を挟むと、ガウルは無言で頷いた。
 「鉱山の街――“ラザ鉱山麓”なら手に入る可能性がある。この剣も、あそこの鍛冶師に打ってもらったものだからな」

 「ラザ鉱山……?」
 テーブルに頬杖をついて黙って聞いていたクーが、ちょこんと首を傾げた。

 「ほら、前に俺たちが住んでたボロ家、覚えてるだろ? あの街の、さらにその先を――もうちょっと北へ、ずーっと行ったところにあるんだよ」
 俺が補足してやると、クーはぱぁっと顔を明るくしてガウルに向き直る。
 「そーなんだ! そんな遠いのにガウル一人で大丈夫? オレもついて行こうか?」

 クーが申し出ると、ガウルは短く「いいや」と答え、次にクーとアヴィを交互に見据えた。
 「……俺の留守中、ユーマを頼む」

 ガウルの低く揺るぎない声に、クーはにっこり笑い、胸を張って答える。
 「うん、分かった♡ ユーマのことなら任せてよ♡」

 アヴィも静かに頷き、当然のことだと言わんばかりに口を添えた。
 「……頼まれる筋合いはありませんが、まあ事情は把握しました」
 
 「明日立つ。リィノとチビたちには、もう言ってある」

 (……ちょ、待って。なんか俺、要人レベル――いや、幼稚園児レベルで用意周到に“保護”されてない!?)
 武骨なくせに抜かりないガウルの気遣いに、胸の奥がきゅっとざわつく。

 「……そっか。気をつけて、な」

 ようやく絞り出した俺の言葉に、ガウルはいつも通り言葉少なに「ああ」と頷くだけ。
 それなのに、その一言が妙に重くて、これ以上なにも言わせないような、そんな気迫があった。


 食堂を解散したあと、俺はそそくさと書斎に戻り、机の引き出しをがさごそと漁っていた。
 探しているのは――治癒魔術士団の作業所で、試作品として作った時に「記念にどうぞ」と押しつけられた“治癒グミ”。

 掌にすっぽり収まる小さな布袋の中には、ころんとした欠片のようなグミがいくつも入っている。
 エクストラヒールほどの爆発的な回復力はないものの、俺の小回復《ヒール》よりはずっと効き目がある。
 それをガウルに渡そうと、俺は荷造りをしている彼の部屋へ向かった。

 二階は、チビたちがすでに寝静まっているせいか、息を潜めたように静かだ。俺は足音を立てないよう、そっと歩を進める。

 ドアの前に立ち、ノックしようと手を上げた――その瞬間。
 キィ、と控えめな音を立てて扉が開いた。
 俺の気配に気づいていたのだろう。ガウルが淡々とした表情で顔を覗かせた。

 俺は治癒グミの入った巾着を差し出しながら、小声で口を開いた。
 「……ガウル、これ。城で作った回復グミ。……まあ、必要ないかもしれないけど……その、念のため? っていうか……」

 「…………」

 ガウルは受け取るでもなく、ただ無言で俺の顔をじっと見つめてきた。
 その視線に耐えきれず、胸の奥がざわざわする。

 (……やっぱり、余計なお世話だったか? ガウルぐらい規格外に強かったら、こんなグミなんて邪魔なだけかもしれない……)

 「……ごめん。荷物になるだけだよな」

 そう言って、恥ずかしさを誤魔化すように巾着を引っ込めようとした時、ガウルの大きな手が俺の手首をがしっと掴み、ぐい、と引き寄せられた。

 「……わっ!」

 気づけば、俺はそのまま部屋の中へ引きずり込まれていた。背中が扉にぶつかる。
 逃げる隙はなく、腕で囲まれた距離は近すぎた。

 問いかける間もなく、唇が重なる。
 浅いキスではなく、息まで混ざるような深い口づけ。
 唇が、舌が、互いの呼吸を探り合うように絡み合う。

 手は後頭部に回され、逃げ場のない力で引き寄せられる。かすかに唾液が触れ合う感覚に、身体中の神経が敏感に反応する。

 「……っ、ん……」
 途切れたと思った瞬間、また唇が重なり、互いの呼吸と心臓の音が混ざり合った。
 口の中に熱が流れ込み、微かな舌の感触に意識が振り回される。

 身体が近すぎて、心臓の音と呼吸が混ざり合い、世界の境目が消える。
 ガウルの額が自分の額に触れ、熱と鼓動が伝わるたび、息が止まりそうになる。

 「……ガウル……」

 名を呼ぶと、唇がさらに重く、深く絡みつく。
 震える膝と引き寄せられる体温に、俺はもう抗えなかった。

 「……んぅ……はぁっ……」
 甘く鋭い痛みが指先から全身へと広がる。薄いシャツ越しに感じる胸筋の弾力、腹筋の盛り上がりが、手のひらに吸い付くように伝わる。
 息遣いが耳元まで届き、微かに震える体が、今だけ――ただ一人の人間として自分に縋りついている現実を強く刻みつけた。

 唇が離れ、二人の間に艶めいた糸を引く。
 ガウルの瞳は熱を帯び、いつもよりずっと真剣で、でもどこか柔らかい光を宿していた。

 「……これ以上はダメだ。抑えきれなくなる」

 低く震える声が耳をかすめ、背筋にぞくりとした感覚が走る。
 手のひらや指先で伝わる温もりは逃げ場を与えず、互いの距離はまだ近い。言葉では表せない想いだけが、無言のままぶつかり合う。

 ガウルは巾着を俺の手から取り上げると、わずかに目を細めた。

 「……これは貰っておく。あんたはもう寝ろ」

 ガウルに解放されてからも、俺は唇の感覚と胸の鼓動が止まらないことを、静かに理解した。
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