【完結】ヒールで救った獣人ショタがマッチョに進化!? 癒しが招く筋肉のカタチ

たもゆ

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番外編

仔竜の贈り物② ※挿絵あり

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(※当話には作者自作の挿絵を含みます。
生ぬるい気持ちで流し見してください)





 夜で良かったと、心底思う。
 魔導光があるとはいえ、薄暗い寝室が今は救いだ。この顔の熱さをまともに見られたら、間違いなくクーとアヴィの餌食になる。

 「あれー? ガウルは?」

 寝室のベッドの上で一人寝転がり、完全にくつろぎモードのクーが、俺を見つけるなり顔を上げた。

 「明日、朝早く出るから。上で一人で寝るってさ」
 「へぇ~、そうなんだ! じゃあ今日は三人だね♡」

 嬉しそうな声とともに、クーはベッドの真ん中をポンポンと叩く。
 “ここ、来て♡”と全身で誘っている。

 「……俺も明日学校だし、今日は“無理”だからな」
 「分かってるよ♡」

 ケラッと笑うその声が、妙に柔らかく胸に触れて、逆にドキッとしてしまう。
 俺がおずおずと布団に潜り込むと、待ってましたとばかりにクーが横から抱きついてきた。

 「ん~♡ やっぱユーマあったかいね……♡ こうしてると、なんかムラムラしてきちゃう♡」
 「ばっ……! バカ、やめろっ! 思ってても言うな!」

 俺が抗議の声を上げても、クーは「えへへ」と笑うだけで、ますます楽しそうに頬をすり寄せてくる。
 そこへ、風呂上がりらしいアヴィが寝室のドアをそっと開けた。
 少しだけ湿った前髪に、ほんのり上気した頬。石鹸の清楚な香りがふわりと流れ込んでくる。

 「……ガウルさんは?」
 落ち着いた声で問うアヴィに、クーが「朝早いから上で寝るって」と答えた。

 アヴィは何も言わず、まるでそこが“指定席”だと言わんばかりに、迷いなく俺の背中側へ滑り込んできた。
 シーツの擦れる気配、すぐ後ろで沈むマット、そして背中全体に張り付く体温。
 耳の後ろ――敏感なところに、そっと鼻先が寄せられた。
 アヴィはひとつ、深く息を吸い込む。
 続けざまに、探るようにクンクンと鼻を鳴らし、低く愉しげな、しかし静かな独占欲を滲ませて笑った。

 「……ガウルさん、抜かりないですね」

 ゾワッと背筋が跳ねた瞬間、今度は前からクーが胸元に顔を埋めてくる。
 「え、ちょっ――」と抗議する暇すらなく、クーはくすぐったそうに鼻をひくつかせた。

 「あ、ほんとだ! ガウルの匂いするね♡」

 左右から挟まれ、逃げ場ゼロ。
 (そうだった……! 獣人種には、なにをどうしたって全部バレる!!)

 「お、お前らっ……! 俺はもう寝るんだから、変なことしてないでさっさと寝ろォ!!」

 必死に怒鳴ったつもりなのに、クーは「はぁい♡」と返事だけは良く、アヴィに至っては喉の奥でクツクツと笑い「では静かに寝ましょうか」と言いながら、どう考えても“静かじゃない密着度”で胸に腕を回してきた。

 背後からは、アヴィの規則正しい吐息――かと思いきや、時折いたずらめいて首筋や鎖骨をなぞる指先。
 正面では、クーが胸元にぎゅうっと頬を押しつけて、
 まるでお気に入りの毛布みたいに俺を抱きしめて離れない。

 完全に二方向からの包囲網。
 左右の腕は封印、脚も絡め取られ、寝返りの自由度はゼロ。
 しかも獣人種特有の高い体温に挟まれ、俺はサンドイッチの具みたいに蒸されていく。

 気づけば背中ではアヴィが静かに寝息を立て、正面ではクーがすっかり夢の中で俺にしがみついている。

 (おい、なんでいつも俺だけ安眠できねぇんだよ……!!)



 ……って文句言いながら、結局いつも朝まで気絶みたいに寝てる俺、逆にすごくね?
 こんだけ毎晩筋肉ベッドに挟まれて熟睡できる時点で、俺もう悟り開いた仙人かなんかなのでは……?

 布団の中で、俺の理性は半泣きになりながら現実逃避の妄想へ逃げ込んだ。

 (……いっそ、俺のセクシーショットをプリントした等身大抱き枕でも二人にプレゼントしてやるか!? そしたら俺、毎晩圧死のスリルから解放されるんじゃないのか……!?)

 一瞬だけ「天才か?」と思ったその妄想は、すぐに冷や汗とともに自壊した。

 (いやダメだ……絶対ダメだ……! 抱き枕カバーをチビたちが洗濯して外に干した瞬間、俺の社会的尊厳が死ぬ! ご近所さんに生温かい目で見られる!!)

 そんな地獄図を想像して勝手に震える俺をよそに――二人は幸せそうに、きゅうっと俺を抱きしめ続けるのだった。



 ***

 翌朝。
 目覚めた時には、もうガウルの姿はなかった。
 ――一声くらいかけていってくれてもいいのにな、なんて思ったけど。

 そもそもガウルは、俺たちを起こさないために“わざわざ別室で寝た”ような男で。
 だったら、朝も静かに出ていくのが、あいつなりの気遣いなんだって分かってる。

 ……分かってはいるけれど。
 それでも、胸の奥がほんの少しだけ冷えるみたいに、寂しさが残った。


 アルケイン王立魔法学院の三階教室。
 朝の光がステンドガラスを透かして、床に淡い幾何学模様を落としていた。

 俺はただ、窓の外をぼんやり見ていた。
 青く澄みきった空。そのはるか向こう、陽炎みたいに揺れて見える山脈の一角に――ガウルが向かったラザ鉱山がある。

 (今どの辺なんだろ……)

 想像しても答えは出ないのに、目が離せなかった。
 あいつなら平気だと分かってる。ルギド級の魔物なんて、そうそう出くわすものじゃない。

 それでも、一緒について行きたかった。いつものように、横で無駄口を叩きながら。
 でも――王命絡みとはいえ、“聖女騒動”で一週間も学院を休んだ俺が、これ以上個人的な理由で欠席なんてできるわけがない。

 小さくため息を洩らしながら、もう一度だけ遠い山脈を見つめた。
 ぼーっと眺めているだけなのに、胸の奥がひりつくようで――。

 「――ユーマ・クロード君」

 冷気をまとった声音に、肩がびくっと跳ねた。
 振り向けば、カーヴェル先生が腕を組んでこちらを見下ろしている。
 深い青のローブを翻し、いつも通り“怒ってはいないけど絶対零度”の顔。

 「窓の外に向かって魔力を放出する授業は――残念ながら、今日のカリキュラムにはありませんよ」

 その静かな声に、俺は慌てて背筋を伸ばした。
 「えっ、あっ、いや! 放出してないです! してないですって!」
 「でしょうね。君は治癒魔術士ですし」

 淡々とした言い回しなのに、クラスのあちこちでくすっと笑いが漏れる。
 うわ~~……耳があっつい。絶対真っ赤になってる。

 カーヴェル先生は少しだけ目元を緩めて、俺の机に手を置いた。
 涼しげな横顔のまま、しかし声色はどこかやわらかい。

 「……集中しなさい。君が何を考えているかまでは問いませんが、今は“魔力制御の基礎”を覚える時間です」
 「……はい」

 しょんぼり小声で返すと、先生は何事もなかったようにくるりと背を向け、講壇へ戻っていった。
 背筋の通ったその後ろ姿を見送りながら、俺はこっそり安堵の息をつく。

 (……ちょっと考えごとしただけなのに。いや、確かに授業中だったけど……)

 でも――
 カーヴェル先生は、リセル経由で俺の魔法の件も、ルギド討伐に関わったことも全部知っている。

 (……それでも“ふつうの生徒”として接してくれるの、ありがたいんだよな)

 特別扱いも、過度な詮索もしない。
 その距離感に救われながら、俺はようやく視線をノートへ戻した。
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