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ヒーラー(弱)と筋肉(圧)の夜 ※微Rあり
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夜。
買ってきた寸胴鍋で、具沢山のスープを作った。
だが――見事にカラになった。
家にあった野菜と干し肉が、全部なくなった。
全部、だ。根こそぎ、だ。
頭数はたったの4人のはずなのに、どう見ても10人家族並みの消費量!!
……待って。これ、毎日続くの!?
絶対に無理だ。破産する。
食費だけで死ぬ未来しか見えねぇ……!!
――もう、こうなったらヤケだ。
明日からは、またギルドに入り浸って狩り三昧の日々に戻ってやる!!
食費も、装備代も、その他もろもろ全部!
筋肉の力でどうにかしてやる!!!
その進化の真価、見せてもらおうじゃねえか!!!
とりあえず、今の俺に必要なのは――
休息だ。
体も財布もボロボロだし、思考力はとうに底を尽きた。
……ああ、明日になったら、またショタに戻ってないかな……?
ほんの少しだけ、そんな都合のいい奇跡を願いながら――
俺は床に寝袋を敷いていた。
「ユーマ、床で寝るの?」
クーが、ベッドの上からひょいっと身を乗り出してのぞき込んでくる。
「だって無理だろ?お前ら3人でベッド埋まってんだから、俺の寝る場所ねぇよ」
「ご主人様、僕が下で寝ます。ベッド、使ってください」
アヴィがベッドの傍らに立ったまま、申し出てくれる。
「いや、いいって。てかその体で寝袋入ったら、ミイラみたいになんだろ。ギュウギュウのやつ」
寝袋どころか、下手すりゃ床抜けるっての。
それより問題は――
ベッドだ。
今あるこのベッド、たぶんそのうち死ぬ。
なんせ一人あたりの重さ、どう見ても100kg前後ある。
マッチョ3人分の圧を受け止めてる今この瞬間にも、ミシミシと小さな悲鳴が聞こえてくる気がする。
……ベッド、買い足すべきか?
でも、この寝室に三台も置ける気がしねぇ。
壊れたら買い替え? いや、そもそも大家さんの善意で貸してもらってるやつだし、弁償コースか……?
ヤバい、出費がかさむ。てかもう、雑魚寝でいいだろ。な?
……永遠に寝れねぇ。考えるのやめよう。
「……おやすみ」
気の抜けた声でそう呟き、俺は寝袋に潜り込もうとした――その瞬間、
ふわっと体が宙に浮いた。
「は?」
横から伸びてきたクーの腕が、俺の脇をガシッと抱えてそのままヒョイッと持ち上げる。
え、なんで?俺いま抱っこされてる?ていうか、軽々すぎない!?
気づけば、俺の着地ポイントはクーの胸板の上だった。
「ユーマ、ここ。オレの上で寝ていいよ♡」
やけに嬉しそうな顔で、クーがにこにこ見上げてくる。
いやいやいやいや!!
こんな高反発すぎる筋肉ベッドで、どうやって安眠しろってんだ!?
ふかふかの枕でも柔らかい布団でもない、バッキバキの腹筋と分厚い胸板に包まれて、なぜか包容力は異常にあるという謎の状況。
いや、寝られるかーーーーーッ!!!
「ねぇユーマ、こっち見て?」
甘ったるい声で囁かれ、顔を背けようとしたけど、
俺の頬を大きな手が優しく包んで、向かい合わせに固定される。
「や、やめろ……っ、距離! 近っ、ちけぇよ!!」
「だってユーマの顔、好き」
「ふあっ……ちょ、なに言ってんだバカ!」
クーの瞳は相変わらず無垢で、でもどこか熱を帯びていた。
その癖、声は甘いバリトン。低くて響く。耳に残る。脳がバグる。
「ユーマのこと、ずっと好きだったよ?」
「…………っ!!」
声が、呼吸が、変になる。
クーの手が背中をゆっくり撫でるたび、俺の体が勝手にビクッと震える。
筋肉の上に乗せられたまま、腰をがっしりホールドされて、俺は完全にクーの上から逃げられなくなった。
まるで、捕食される寸前の獲物みたいだ。
「ちょっ……ちょっとクー!? なんでそんなに力強っ……ひィィィ!?
ちょ、なんか今、下のほう……なにか……当たってるんですけど!?」
震える声で言うと、クーはにこっと無邪気な笑顔でこう答えた。
「うん、ごめん。生理現象♡」
「生理現象ってレベルじゃねぇよ!?!?」
いやいやいや、待て待て。
おかしいだろ!? そもそもおまえ、一番小柄だった甘えん坊末っ子ポジじゃなかったか!?
それが、進化してみたら――
身体はバルク全開の超級筋肉、そしてその“アソコ”まで規格外ってどんなバグだよ!?!?
「うん、なんかね……ユーマの匂いとか、声とか聞いてるだけで、勝手に……こう、なっちゃうんだよね……♡」
「言い方ァァァ!!! もっとこう……オブラートとか、あんだろ!?」
「え? オブラートって、おいしいの?」
「食べ物じゃねぇよ!! いや、食べられるけども!?」
それなのに、クーはあくまで無垢な笑顔で、むしろ愛しげに俺の頬に指をすべらせる。
「オレ、昔のちっちゃい体だと、ユーマのことぎゅーってしても届かなかったけど……
今なら、ちゃんと全部包めるよ?」
「包まなくていいッッ!! むしろ距離を保って!!」
俺は叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
「おまえの腕力、今、月刊漫画雑誌どころか、
分厚い電話帳も引きちぎれるレベルだろ!?
アバラが、アバラが悲鳴あげてる!! マジで命が危ないって!!」
クーはそんな俺の訴えにもめげず、分厚い胸板を張ったまま嬉しそうに笑う。
「大丈夫、力加減してるよ。ちゃんと“ユーマ用”でぎゅーってしてる♡」
「その“ユーマ用”の基準が間違ってんだよおおおお!!!」
包容力(物理)に殺される……!!
もはや、理性もプライドもズタボロである。
なのに、腰を押さえてるその手は緩まないし、下から当たってるソレは確実に主張を増してる気がする。
うわあああ、神よ!!
俺、筋肉乙女ゲームの主人公に転生した覚えはないんですがーーーッ!!
「ユーマ、じゃあさ――
ギューしないから、チューだけしていい?」
無垢な声で、真顔で言うんじゃねぇ!!
なにその“ちょっと我慢したから許されるよね?”みたいなテンション!
甘えん坊の皮をかぶった肉体兵器のくせに、
その顔と声でそんなセリフ言われたら、こっちの脳みそがバグる!!
「いや、ちょ、ムリ、無理だから……っ!」
ひぃぃ、クーの目が完全に“拒否権は存在しない”モードに入ってる!!
左腕で俺の腰をがっしりホールドしたまま、
右手が、そっと――けれど確実に、俺の首筋へとまわされる。
ふいにぐいっと引き寄せられたかと思った次の瞬間、あたたかくて柔らかなものが、肌に触れた。
「――っ……!」
そこにあるのは、クーの唇。
首筋に、しっかりと、確かに押し当てられていて――
その瞬間、息が止まり、思考が一瞬で吹き飛んだ。
あかん。
心臓が、うるさい。というか爆発しそう。
「……ユーマ、大好き。いっぱい抱っこしてくれたでしょ? おんぶも、なでなでも。
だから今度は、オレが――ユーマのこと、包んであげたい」
「い、いや、いいからッ!! てか、耳元で囁かないで、お願いだから!!!」
お願い、やめて。甘やかす声でそんなこと言うの、ほんとにダメ!!
おい心臓、落ち着け!! ここはラブコメじゃない、戦場でもねえ、なんかもう、別ジャンルのバグステージだ!!
「クーさん、チューはまだ禁止ですよ」
――その声に、ビクッと体が跳ねた。
……え、いまの……アヴィ!?
「だって……ユーマが可愛すぎるから、我慢できないよ」
甘えたような声で言いながらも、クーの腕の力は緩まない。
腰はがっしりホールドされたまま、俺は今もなお分厚い胸板の上。視界、完全に筋肉。
「でも、ご主人様はまだ混乱してるんです。
僕たちがこうなったばかりで、気持ちが追いついてない。……あんまり急いだら、可哀想ですよ」
「……そっか。じゃあ、我慢する」
一拍置いて、クーは素直に頷いた。
っていうか――
おい、待て。
ちょっと冷静になれ俺。
今、俺は進化したクーの上に寝かされて、そのまま馬乗りみたいな体勢でホールドされてるわけだけど――
その真横で、アヴィが普通に寝てるって、どんな状況だよ!?!
「え、ちょっ、おまっ、見てたの!?」
「はい。ずっと見てました。ご主人様、顔が真っ赤で可愛いなって」
おおおおおちつけ俺!?!?
こちとら今、理性と羞恥のダブルブレイクで瀕死なんですけど!?!?
なんでそんな涼しい顔で実況してんの!?!?!?
「アヴィィィ……っ、見てないで助けて……ッ!!」
「じゃあ、僕の上来ますか? いつでもどうぞ」
「なんでそうなるんだよおおおおーーーーー!!」
助けてって言ったよね!? 今! 俺は確かに! 助けてって言ったよね!?
なんで選択肢が“クーの上”から“アヴィの上”に変わるだけなんだよ!!
選ばせろよ!!俺に!!“床”とか“逃走”とか、もっと安全なルートを!!!
「ご主人様。柔らかさなら、僕の方が自信あります」
「アピールポイントそこなの!?」
こいつら、なんでそんなに“俺を抱く気”満々なんだ!?
いやもう、ベッドの上の筋肉たちが順番待ちしてる図とか、なんのバッドエンドだよ!!
乙女ゲームじゃなくて筋肉地獄のマルチエンディングだろこれ!!!
……ていうか、待てよ。
よく見たら――アヴィの向こう側で、ガウルが普通に寝てる!!
横向きで、こっちに背中を向けて。無言で、静かに。
一見ただの“就寝中”なんだけど――その背中から伝わってくる圧がすごい。
「……なんかもう、逆に普通に見えるのが一番怖いんだけど……」
そんな俺の呟きを拾うように、アヴィがふっと微笑む。
「ガウルさん、背中から滲み出る殺気がすごいですね」
「えっ!? 寝てるんじゃないの!?」
「……いいえ。たぶん、ご主人様に手を出したら――ここ、戦場になりますよ」
空気がピシィッと張り詰めた気がした。
え、笑顔だったよね今!?笑顔でそんな穏やかに“戦場”って単語使う!?
「な、なんでそんな物騒なことを……!」
俺が声を上ずらせると、アヴィはそっと俺に目を向けた。
そのまま、ふわりとした声で言う。
「だって……みんな、ご主人様が大好きですから。……僕だって、本当は……今すぐ、ぎゅってしたいくらいなんですよ?」
耳元で囁く声は、やわらかくて、甘くて、少しだけ震えてて。
それが逆に、心臓にずしんと響いた。
「でも……今はまだ、なにもしません。ご主人様が、望まないなら。
……ただ、“隣にいさせて”くださいね?」
――なにその、爆弾みたいに優しいセリフ。
この状況でそんな甘さを投げられたら、もう俺の理性が限界突破なんですけど!?
甘い。こわい。やさしい。こわい。
なんかもう全部こわいくらいにやさしくて、俺の情緒が無事じゃない!!!
気づいたときには、クーはもうすっかり夢の中だった。
いつもの無防備な寝顔で、すぅすぅと穏やかな寝息を立てている。
……でも、そのままそっと腕の中から抜け出そうとした瞬間――
「ギュッ」と、逃げ道を塞ぐように腰をホールドされて、俺の動きはピタリと止まった。
うそだろ、寝てるのに反応すんなよ!?
どこの筋肉センサーだよ!?反応速度がもはや兵器なんだけど!??
おかげで、俺はまたしても、クーの上から身動きひとつ取れなくなった。
「……なんでだよ……」
情けなくも小声で呟きながら、俺は深くため息をついた。
こうなったらもう、腹をくくるしかない。
潔く、クーの胸板の上で一晩明かすしかないってことか。
……はたして、こんな超高反発な筋肉ベッドで、俺は眠れるのか。
いや、でも……あったかいし、なんか妙に落ち着くし……案外、悪くない、かも?
うつ伏せのまま、横に投げ出していた右手が――ふいに、誰かの手にそっと絡め取られた。
……アヴィだ。
「……ちょっ、アヴィ……」
呼びかけても、アヴィは何も言わず、ただ静かに微笑むだけ。
その微笑みが、やけに深くて、底が見えなくて……背筋に冷たいものが這う。
そして、長く細い指先が、俺の手の輪郭をなぞるようにゆっくりと滑っていく。
優しすぎるその動きが逆に怖い――いや、“怖い”んじゃない、“怖気がするほど甘い”んだ。
爪が、俺の手のひらの柔らかいところを軽く撫でる。
ツ……と音がしそうなほど、かすかに引っ掻かれた瞬間――ビクリ、と背中が跳ねた。
まるで、手の中を愛撫されてるみたいだ。
ただ触れてるだけなのに。
それだけで、俺の呼吸は乱れて、心臓はどくどくと音を立て始める。
「や……アヴィ、それ……やめてっ……」
「どうして?」
囁くように低く、アヴィは俺の手の甲へそっと唇を寄せた。
その熱がじわりと肌に伝わって、痺れるような感覚が走る。
手を引こうとしても、手首はあり得ないほどの力で捉えられていて、まったく動かない。
「……すみません、ご主人様の反応が、あまりにも……可愛らしくて」
「……ちょっと、もう……俺で遊ばないでくれよ」
情けなく掠れた声を返す俺に、アヴィは微笑むように――何も言わず、唇で俺の指の付け根を、するりと撫でた。
「……っ……」
ぞくりと背筋が震える。
くすぐったさとは違う、もっと深いところを擦られたような感覚。
「……声、抑えてるんですね。 クーさんの寝顔を起こしたくないから……? それとも――“この声を他の誰にも聞かせたくない”って。 そう思ってくれてるんですか?」
くすり、と囁くような声に、返す言葉が見つからなかった。
アヴィの指が、俺の手の甲から、手のひらへ――
そして、指と指の隙間へと、じわじわ忍び込んでいく。
ゆっくりと、確実に。
まるで俺の“中”に入り込もうとするかのように。
なにかが、俺の奥底でほどけていく。
ずるずると、抗えない侵食が広がっていく感覚。
俺の右手は、アヴィの掌に包まれたまま――
やがて、そっと唇に触れた。
「アヴィ……な、に……っ」
返事はなくて、代わりに――
指先の関節に、じっとりと熱を帯びた感触が落ちた。
「――ひっ……!?」
舌だ。
舌が、俺の指の第一関節をなぞってる。
まるで恋人の唇に口づけるみたいに、丁寧に、濃密に、指を愛撫してる。
指の腹を、くちゅ、と吸われた瞬間、背筋がビクンと跳ねた。
爪の輪郭をなぞるように、舌が優しく這う。
一本ずつ、慈しむように舐められて。
まるで、俺の“心”ごと食べられてるみたいだった。
しかも――音を立てて、じゅっ、と。
くちゅくちゅと、いやらしく舐めている。
唇が、関節を喰むように吸い付いて、舌が、指の間を舐めあげて――
「ちょ、アヴィ、や、やめ、てっ……! そ、そこ……手ぇ、だから……っ!!」
情けない声がこぼれる。
でもアヴィはどこまでも冷静で、熱を孕んだ瞳で俺を見つめながら、囁いた。
「……ご主人様の手、可愛いですね。
こうしてると、ずっと触れていたくなる」
その声だけで、全身がびりびりと震える。
やさしい、けれど逃がさない声音。
そして、また――
俺の指先を、そっと口に含んだ。
ぬるりと舌が絡まり、じゅぷ、じゅる、と艶めかしい音を立てながら、まるで“そこ”を責めるように舐めてくる。
「や、やばい……って、……アヴィ、それはほんとに無理……!」
指の腹を、くちゅ、と吸われた瞬間、背筋がビクンと跳ねた。
爪の輪郭をなぞるように、舌が優しく這う。
手のひらを、爪先でくすぐるように撫でられ、次いで、指の根元をねっとりと舌でえぐられるように這われた瞬間――
「ひ……ッ……!」
喉から、情けない声が漏れる。
そんな自分にぞっとして、息を呑む暇もなく――
アヴィの唇が、そっと指先に落ちた。
そしてそのまま、指の付け根を――やわらかく、甘く噛んだ。
カチリ、と浅く歯が触れた音がして、背中が跳ね上がる。
甘噛みだとわかっていても、本能が反応してしまう。
「……や、やだ……、俺もう、頭おかしくなる……っ」
なんでだよ。手しか触られてないのに。
全身が熱い。
感覚が、皮膚が、全部溶けそうで。
――限界だ。
理性が、情緒が、完全にキャパオーバーだ。
手しか触られてないはずなのに、
全身の感覚が溶けていくみたいで、どこが熱くてどこが冷たいかも分からない。
そのときだった。
「……アヴィ。その辺にしておけ」
静かに放たれた声――低く、鋭く。
まるで刃のように場の空気を裂いた。
俺はビクリと肩を跳ねさせ、思わずそちらを振り返る。
ベッドの向こう側、ガウルが横向きに寝たまま、こちらに背を向けていた。
だがその背中からは、明らかにただならぬ気配が滲み出ている。
それは、無言の警告。
“これ以上は、許さない”と――言葉などなくても伝わってくる。
アヴィは、くすりと微笑んだ。
まったく怯えた様子もなく、俺の指先に最後の口づけを落とす。
「怒られちゃいましたね」
その目がすっと細まり、まるで口づけを終えた貴族のように、優雅に手を握ったまま言う。
「でも……手は、離しませんよ。だってこれは――ご主人様の、大切な右手ですから」
ぴたりと指を重ねて、指先から指の股まで、密着するほど絡みつく。
熱い。手ひとつに、こんなにも感覚を持っていかれるなんて。
「……おやすみなさい、ご主人様」
甘やかな声で囁かれ、俺の鼓動は完全に破裂寸前。
(……寝れるかーーーーーーーッッ!!!!)
叫びたい衝動を必死で飲み込む。
無理。ほんとに無理。
精神力のHPがゼロを突破した。
……だれか、明日の朝、俺の意識がこのカオスから戻ってくる保証だけくれ……。
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