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誰も好きにならないはずがどろどろに愛されて陥落させられる話

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 裕睦ひろむには一つ年下の妹がいる。地味で平凡な裕睦とは違い、華やかで愛らしい容姿をしている。兄妹だと知れば、誰もが血の繋がりを疑うほど似ていない。
 愛嬌があり可愛らしい実紘みひろは、裕睦よりも余程可愛がられ甘やかされて育ってきた。それが当たり前の環境で過ごす内に、彼女は自分が裕睦よりも構われなければ気が済まなくなっていた。
 そんなときだった。小学校低学年の頃、裕睦は実紘よりも成績がよかった。唯一、成績だけが実紘に勝っていた。
 ある日持って帰ったテストの結果を、実紘の前で両親に褒められた。実紘は結果がよくなく、褒められなかったのに。
 そのたった一度の出来事が、実紘は許せなかったようだ。
 その日から、実紘は裕睦から全てを奪うようになっていった。
 お菓子もオモチャも、裕睦が欲しがれば実紘がそれを横取りする。裕睦が青色の服を欲しがれば、実紘も青がいいと言う。お兄ちゃんと一緒は嫌だから、お兄ちゃんは別の色にしてとそう言うのだ。
 裕睦が欲しいと思ったものは手に入らず、全部実紘に奪われた。
 お兄ちゃんだから我慢しなさい。お兄ちゃんなんだから妹に譲りなさい。両親は妹だけを甘やかし、裕睦の意志を尊重してくれることはなかった。
 そんなことが続けば、やがて裕睦はなにかを欲しがることをしなくなった。欲しがったところで、奪われるだけだ。それなら、最初からなにも望まない方がいい。
 なににも興味を抱かない。つまらない生活を送っていた。
 逆に妹は、欲しいものはなんでも手に入れ、楽しそうに充実した日々を過ごしていた。
 高校に入学し、裕睦は後ろの席の川村かわむらという生徒と友達になった。明るく人懐こい川村の傍にいると楽しくて癒された。
 なににも興味を示さなくなってた裕睦だが、楽天的で朗らかな彼の人柄に惹かれた。ずっと一緒にいたいと思うようになっていった。だからこそ、このほのかな恋心はずっと胸に秘めていようと思っていたのだ。
 けれど高校に入学して一年の終わりに差し掛かった頃、「裕睦、俺達付き合わないか」なんて、照れたように頬を染めて川村が言ってきたのだ。

「なんで……。川村、彼女ほしいって言ってたのに……。なんで俺と……」
「いや、そーなんだけどさ! 彼女ほしいって思ってたんだけど! なんかさ、彼女できても裕睦と一緒にいる方が楽しいだろうなーって思ってさ。裕睦の傍が一番落ち着くっていうか……だったら、裕睦と付き合えばいいじゃん! って思って」

 そんなことを無邪気な笑顔で言われて。
 裕睦は、手を伸ばしてしまったのだ。
 欲しいと、思ってしまったのだ。
 それから、裕睦は彼と付き合うことになった。今までとあまり変わらないけれど、ふとした瞬間に手を繋いだり、抱き締められたり、少しずつ関係が進展していく。照れ臭くて、でも嬉しい。川村と一緒にいられる時間がなによりも楽しかった。
 付き合うようになってから、何度か川村を家へ招いた。彼を妹には会わせたくなかったから最初は断っていた。裕睦とは似ても似つかない可愛い実紘を見たら、川村も裕睦ではなく妹の方に惹かれてしまうのではないかと思った。そう正直に伝えれば、川村は「言っただろ、俺は裕睦と一緒にいるのが好きなんだって。顔とかじゃなくてさ。もちろん、裕睦の可愛い顔も好きだけど」なんてことを言ってきた。
 屈託のない彼の笑顔に絆されて、家に連れていったのだ。
 できるだけ実紘がいないときを狙ったが、それでもばったり遭遇してしまうことはあった。もちろん川村を恋人だなんて紹介はしなかった。挨拶を交わす程度で、川村は実紘を見ても特段興味を引かれた様子はなかった。実紘も川村の存在を特に気にかけることはなかった。
 それを見て、裕睦は心から安堵した。
 すっかり油断し、裕睦は何度も川村を家に入れた。実紘がいてももう気にならなかった。
 そんなある日のことだった。
 春休みに入り、学校は休みだった。ちょっとした用事があって裕睦は家を空けていた。用事を済ませて家に帰る。玄関のドアを開け、目を瞠った。
 川村の靴が置いてあった。彼が今日家に来るなんて、そんなことは言われていない。スマホを見ても、彼から家に遊びに来たなんて連絡はない。
 裕睦はそっと中に入った。無意識に足音を殺し、裕睦と実紘の部屋がある二階へ上がる。
 実紘の部屋のドアが少しだけ開けられていた。恐らく、というか、間違いなくわざとだろう。部屋から漏れてくる、ベッドの軋む音と甘ったるい喘ぎ声に頭がくらくらした。
 開いた隙間から中を覗けば、予想通りの展開がそこで繰り広げられていた。
 衣服を乱し、ベッドの上でセックスをしているのは裕睦の恋人と裕睦の妹だ。

「あっあんっ、気持ちいいっ、川村さんっ、好き、好きぃっ」
「っあ、実紘ちゃ、実紘ちゃん……っ」
「あぁんっ、あっあっ、川村さんも、気持ちいい……?」
「いいっ、すごく気持ちいいよ、実紘ちゃんっ」
「あんっ、嬉しいっ、川村さん、大好きぃっ、あっあっ、川村さんも、私のこと好き?」
「好きだよ、好きだ、実紘ちゃん……っ」
「あっあんっ、あぁんっ、お兄ちゃんよりも、私のこと好き?」
「っああ、好き、実紘ちゃんが好きだよっ」

 そのとき、こちらに顔を向けた実紘と目が合った。
 妹は艶然と、勝ち誇ったように微笑んだ。
 その笑顔を見て、裕睦は心に決めた。
 もう二度と誰も好きにならないと。
 妹は、兄からなにもかもを奪わなければ気が済まないのだ。
 それならば、自分はもう手を伸ばしたりしない。
 なにも手に入れようなんて思わない。
 実紘に対し恨みや怒りを抱くこともなかった。
 ただ全てを諦めていた。
 二年に進級し、川村とはクラスが離れてホッとした。彼とはもちろん別れた。もう友達にも戻れない。友達と恋人をいっぺんに失い、そして実紘が同じ高校に入学してきたことで裕睦の生活はまた無為なものになっていった。
 実紘が裕睦と兄妹だと吹聴して回るので、校内では常に妹と比較された。似ていないことを色々と陰で噂され、妹と比べあまりにも平凡な兄を周りは見下し嘲笑した。
 陰口を聞き流し、誰とも深くは関わらず、必要なことしかしない。そんな日々を送り続け、数年が過ぎた。
 裕睦は大学に入学し、そして一年後、実紘もまた同じ大学に入学した。
 裕睦に対する嫌がらせなのか、ここまでされると実紘の執念に感心すらしてしまう。
 実紘ではなく裕睦が褒められたのは、小学生の頃のあのたった一度きりだ。余程悔しかったのか、実紘は努力しあっという間に裕睦の成績を追い抜いた。
 今では裕睦が実紘に勝っていることなどなに一つないというのに。
 兄を見下し優越感に浸るのが彼女の日常になっているのかもしれない。
 裕睦はそれをただ受け入れた。
 大学を卒業したら遠くへ引っ越し、そっちで就職先を探すつもりでいる。そのために高校のときからバイトを続け資金を貯めているのだ。さすがにそれを阻止しようとはしないと思うが、実紘にも両親にも誰にも言わず、ひっそりと計画を練っていた。
 家族と離れ、一人で静かに暮らしたい。
 それが裕睦のささやかな願いだ。
 もうそれ以上はなにも望まない。
 スマホで引っ越し先のことや必要な資金などを調べながら、学食でうどんを啜っていたときだ。

「ここ座っていい?」

 空いている席は他にもあるのに、そう言って返事も聞かずに裕睦の前に誰かが座った。
 思わず顔を上げれば、正面に座る彼と目が合った。
 作り物のように綺麗に整った顔。ハーフだかクォーターだか、とにかく顔がよくて頭もいいと学内で噂になっている。裕睦と同学年で、確か名前は雲雀ひばりだとか。興味はなくても周りで噂されれば耳に入ってくる。
 恐らく、目の前のこの男が噂の雲雀だろう。
 訝しげに見据えれば、にっこりと微笑まれた。

「この前はありがとう」
「は……?」
「……スマホ、拾ってくれたよね?」
「あ、ああ……」

 言われて思い出す。数日前、校内で人とぶつかったのだ。互いに謝ってすぐに別れたが、ぶつかった相手のポケットからスマホが落ちて床を滑っていったのだろう。床に落ちているスマホを拾い、裕睦は慌てて持ち主を追いかけそれを渡した。顔なんて見ていなかった。そのときの相手が雲雀だったようだ。

「ホントにありがとう。助かったよ」
「はあ……」

 わざわざこうして礼を伝えに来るなんて。
 裕睦に声をかけてくる者の大半は、妹を紹介してほしいという輩だ。つまり、彼もそうなのだろう。
 彼ほどスペックの高い男なら別に裕睦に頼むまでもなく、声をかけられれば実紘は喜んで応じると思うのだが。
 反応の薄い裕睦に気分を害した様子もなく、彼はにこにこと楽しそうに微笑んで話しかけてくる。そんなに実紘との仲を取り持ってほしいのだろうか。
 うどんを啜りながら、裕睦は黙って彼の話を聞いていた。
 それから、雲雀はよく裕睦に声をかけてくるようになった。他愛ないことから、講義について。裕睦はほぼ相槌を打つだけだ。つまらないだろうに、そんなことはおくびにも出さず、極上の笑顔を向けてくる。
 彼の口から実紘の名前はまだ一度も出てきてはいない。
 第一声で「妹を紹介して」という失礼な者ばかりだが、雲雀はきちんと段階を踏んでからと考えているのだろう。裕睦にも丁寧に接し、実紘にいい印象を与えたいのかもしれない。
 別にそんなことする必要などないのに。
 しかしわざわざそれを指摘することもできず、雲雀に声をかけられるようになって一週間以上が過ぎた頃。
 裕睦は友人に頭を下げられていた。友人と言っても、それほど親しいわけではない。高校のときからの付き合いだが、顔を合わせれば挨拶を交わす程度。一緒に遊びに行くこともない。そんな浅い関係の裕睦に頼むということは、余程困っているということなのだろう。
 合コンのメンバーが一人足りない。手当たり次第声をかけたが全員断られ、そして最後の頼みの綱が裕睦というわけだ。
 自分が行っても場を盛り下げるだけだと断ったのだが、いてくれるだけでいいから。途中で抜けてもいいから、と必死に頼み込んでくる。あまりにも切羽詰まった様子に断りきれず、「本当にいるだけでいいなら……」と裕睦は承諾した。
 その夜。駅から近いお洒落なお店へと足を踏み入れ、驚いた。雲雀の姿がそこにあったのだ。彼も合コンに参加するメンバーだったのだ。
 てっきり彼は実紘に気があると思っていたのだが、勘違いだったのだろうか。でも、だとしたら裕睦に近づく意味がわからない。
 困惑したままメンバー全員が揃い、合コンがはじまった。
 いるだけでいいとは言われたが、さすがに自己紹介だけはした。とは言っても、ただ名前を言うだけだったが。こういう場に慣れていない裕睦はそれだけで緊張した。
 これで役目は果たしたとばかりに、その後はなにも発言しなかった。ただウーロン茶をチビチビ飲むだけだった。
 放っておいてほしいのに、何故か隣に座る雲雀がやたらと声をかけてくる。女性陣は雲雀と話したそうにしているのに、気づいていないのか無視しているのか、彼はずっと裕睦ばかり構っていた。
 もしかして彼も裕睦と同じで、頼まれて仕方なく参加しているだけなのかもしれない。実紘が好きだから、他の女性とは関わらないように裕睦にばかり声をかけてくるのかもしれない。
 そう考えると彼を無視することも、裕睦だけ抜け出すこともできず、仕方なく彼の相手をした。ただ彼の話に相槌を打つだけだが。

「ウーロン茶のお代わりきたよ。唐揚げも食べる?」
「う、うん。ありがと……」

 突き刺さる女性陣の視線にいたたまれない気持ちになりながら、差し出されたウーロン茶を受け取る。
 早く帰りたいと、それだけを切に願った。
 気まずさを誤魔化すように、裕睦はごくごくとウーロン茶を煽る。

「っあれ、これ、なんか味違う……」

 半分ほど飲んで、裕睦はグラスをテーブルに置いた。
 雲雀は「あ」と声を上げ、申し訳なさそうに謝る。

「ごめんね、それ僕のウーロンハイだった」
「ええっ……」
「大丈夫? 具合悪くなってない?」
「大丈夫……だけど……たぶん……」

 二十歳を過ぎても、人との付き合いが皆無の裕睦は今まで酒を口にすることがなかった。だから、これが裕睦にとってはじめての飲酒だ。自分が強いのか弱いのかもわからない。
 なんだか、頭がぼーっとするような気がする。頭がふわふわしているような。体がふわふわしているのだろうか。ふわふわではなくぽわぽわだろうか。顔が熱い。体がだるい。
 もしかして自分は酔っているのだろうか。グラス半分のウーロンハイを飲んだだけなのに、こんなにすぐ酔っ払うものなのだろうか。飲んだことがないからわからない。お酒を口にしたことで、頭が酔っていると勘違いしているのだろうか。
 ぐるぐると、わけのわからないことを頭の中で考える。
 黙り込む裕睦の顔を、雲雀が心配そうに覗き込んでくる。
 間近から見つめられ、裕睦は思わず見惚れた。いつも、話しかけられても彼の顔はあまり見なかった。こんな風に正面からじっくりと見るのははじめてで、彼の完璧な美貌にくらくらする。

「本当に大丈夫? 顔赤いよ?」
「うん……うーん……? わかんない……俺、どうなってる?」
「酔っ払っちゃった? ごめんね、お酒弱かったんだね」

 熱を持った頬に雲雀の掌が触れる。ひんやりとして気持ちいい。裕睦はとろりと目を細めた。

「……もう帰ろうか」
「ううん。大丈夫。平気」

 帰ると言えばよかったのに、酔って判断力が低下しているのか、何故か裕睦は強がって断った。
 心配そうにこちらを窺う雲雀に見守られながら居座っていたが、すぐに睡魔が襲ってきた。うとうとする裕睦の肩を、雲雀が掴んだ。

「大丈夫じゃなさそうだね。もう帰ろう」
「んん……」

 なにか言われているのはわかるが、まともに返事も返せない。
 ふらふらする体を雲雀に支えられて店を出て、タクシーに乗せられる。そこで裕睦の意識はプツリと途切れた。





 次に目を覚ますと、裕睦はふかふかで無駄に広いベッドの上にいた。
 仰向けに寝る裕睦の上に、雲雀が覆い被さっている。

「あ、裕睦。起きたの?」
「ん……? え……? ここ、どこ……?」
「僕の家の寝室だよ」

 雲雀の綺麗な笑顔をぼうっと見つめる。
 裕睦がタクシーの中で眠ってしまったから、仕方なく自宅へ運んだのだろう。

「ごめん、俺……」
「気にしなくていいんだよ。殆ど僕が仕組んだことだし」
「……?」

 しっかりと聞き取れたはずなのに、言われたことの意味がわからなかった。
 ぼんやりする裕睦を真上から見下ろし、雲雀はうっそりと微笑んだ。

「漸く裕睦をうちに連れてこれたね。嬉しいよ」
「う、ん……?」
「ぼうっとして、可愛いね。ほっぺも赤くて可愛い。こんなにお酒に弱いなんて、嬉しい誤算だったなぁ」
「は……ぁんっ、んっ?」

 顔が近づいてきたと思ったら、そのまま唇を重ねられた。雲雀の柔らかく形のいい唇が、しっとりと裕睦の唇を塞ぐ。

「んっ、んんっ? んっ、ぁっ、んっ」

 声を上げようとして開いた口の中に、ぬるりと舌が侵入してくる。ビックリして顔を背けようとするけど、顎をしっかり掴まれてできなかった。体に力が入らなくて、まともな抵抗もできない。
 それをいいことに、口腔内を好き勝手に嬲られる。
 舌先が口の中を動き回り、濡れた音を立てて舐め尽くしていく。

「んふっ、ふっ、ぅんんっ、はっ、ぁんっ、んっんっんんっ」

 抵抗しようともがいていた裕睦だが、口内を蹂躙される気持ちよさに徐々に思考が蕩けていく。
 口の中全部が性感帯になったかのように、彼の舌が触れると甘い快感が走り抜ける。気づけば抵抗など忘れ、されるがままうっとりと舌をちゅぱちゅぱと吸われていた。

「んぁっ、んっ、ふぁっんんっ」
「かぁわいいなぁ。顔、とろとろになっちゃって。キス、気持ちいい?」
「ん、うん……」
「あー、可愛い。好き、好きだよ、裕睦」
「す、き……?」
「うん。大好き。裕睦も言って? 僕のこと好きって」

 胸焼けしそうなほど甘い声音で囁かれ、裕睦は無意識に首を横に振る。裕睦の心に刷り込まれた決意からの反射的な言動だった。

「だめ、だめっ、好きに、なるのはだめ……っ」
「どうして? ダメなことじゃないよ?」
「だめっ……好きになったら、実紘に、取られる……っ」
「は? みひろって誰?」

 抜け落ちたように雲雀の顔から表情が消えて、裕睦はびくりと肩を竦ませる。

「え、い、妹……」
「ああ、そっか、そうだったね」

 雲雀はすぐに笑顔を浮かべ、納得したように頷いた。
 実紘の名前を口にして思い出した。雲雀は実紘が好きなのだ。

「雲雀が、好きなの、俺じゃなくて実紘だもん……」
「『だもん』って可愛いけど、それは聞き捨てならないなぁ。僕が好きなのは裕睦だよ?」
「違うもん……俺じゃない……実紘が好きなんだ……俺より、実紘が好きで……俺が好きになったら、実紘に取られて……俺じゃなくて、実紘と……っ」
「そんなわけないよ。僕が好きなのは裕睦だけ。裕睦だけが大好きだよ」
「やだっ、好きって言わないで、好きって言われたら、だめになるからっ……好きになるのやだ、もう取られるのやだぁ……っ」

 裕睦は子供のようにいやいやとかぶりを振る。もう自分でもなにを言っているのかわからない。ただ、彼を拒絶しなければまた傷つくことになる。そう考えて、裕睦は頑なに彼の言葉を受け入れようとはしなかった。

「取られたりしないよ。僕は裕睦だけのものなんだから」
「はんっ、んっんっんぅっ」

 再び唇を奪われ、甘い甘い口づけが施される。くちゅくちゅと絡め合う舌が気持ちよくて、体がぐずぐずに溶けていくような感覚がした。

「んはぁっ、んっ、ぁっ、んーっ」
「っ、はぁっ……可愛い、裕睦。キス、気持ちいいね?」
「んっ、んっ、きもち、ぃ……っ」
「可愛い、好き、好きだよ、裕睦」
「んゃっ、だ、めっ、好きって言うの、やめて……」
「そんなこと言わないで。こんなに裕睦のこと好きなのに」
「やだぁ……うそ、だも……俺より、実紘を好きになる、くせに……」
「嘘じゃない。僕は裕睦以外の人なんて好きにならないよ」

 愛を囁きながら、雲雀は裕睦の衣服を剥いていく。
 ろくな抵抗もしないくせに、裕睦は彼の言葉だけは信じようとはしなかった。手に入ったと思った後で、奪われる悲しみを味わうのはもう嫌だった。

「可愛い、裕睦。裕睦の体、すごく美味しそうだね。食べていい?」
「あんっ、だめぇっ、食べちゃやぁあっ」
「ダメなの? そんなに気持ちよさそうなのに?」
「あっあっ、だめ、だめ……っ」
「気持ちよくない?」
「んひゃぁあっ、だ、めっ、きもちいぃのだめぇっ」
「ダメじゃないよ。もっと気持ちよくなって。可愛い裕睦を見せて」
「やだっ、可愛く、ないっ、可愛いのは、実紘、だも……っ」
「僕が可愛いと思うのは、裕睦だけだよ。裕睦だけが好き、大好き」
「あっあぁんっ、だめ、だめぇっ、好きって言わないでぇっ」

 人に極力関わらないようにしてきた裕睦は、愛情に飢えている。手を伸ばし縋りたくなる気持ちをこらえ、雲雀から注がれる愛の言葉に必死に抗った。





 チャイムの音が聞こえ、衣服を整えた雲雀は寝室を出て玄関に向かった。
 ドアを開けると、そこに立っていたのは裕睦の妹の実紘だ。
 実紘の方から声をかけてきて、連絡先の交換をせがまれた。裕睦の妹なので役に立つこともあるかもしれないと考えそれに応じたが、交換していてよかったと思う。もう外は暗く時間も遅いのに、雲雀が頼みがあるから自宅まで来てほしいと頼めば、彼女はこうして躊躇いもなくやって来た。
 バッチリメイクして服もきっとしっかり選んできたのだろう。雲雀は彼女がどんな姿を見せようとなんの魅力も感じないというのに。
 期待を瞳に滲ませる彼女に、にっこりと微笑みかける。

「こんな時間に呼び出して、ごめんね」
「いいえ! 先輩からの頼みごとなんて、嬉しいです! 私にできることなら、なんだってしますよ!」
「助かるよ。君の協力が必要なんだ」

 浮かれた様子の実紘を部屋に上げる。彼女を連れ、寝室に戻った。
 ドアを開ければ、大きなベッドが目の前にある。その上には、全裸であられもない姿を晒す裕睦がいる。

「っは? あ、え……っ?」

 兄の姿を目にした実紘は硬直したようにその場で足を止めた。
 それを気にせず、雲雀はベッドに近づいた。

「そこで見ててね」

 と、頼んで。彼女にはもう目も向けず、ベッドの上の裕睦に声をかける。

「裕睦、待たせてごめんね」
「んゃぁあっ、あっ、抜いて、抜いてぇっ」

 裕睦は身をくねらせて縋りついてくる。涙と涎でぐちゃぐちゃの顔に堪らなくそそられた。

「ごめんごめん。裕睦はオモチャより、僕のちんぽがいいんだよね」

 そう言って、雲雀は裕睦の後孔に埋め込んだディルドをゆっくりと引き抜く。

「んあっぁあああーっ──~~~~っ」

 感じ入った声を上げ、裕睦はペニスから精を漏らす。ぎゅうぎゅうに締まるアナルから、ちゅぽんっとディルドが抜けた。
 全身を真っ赤に染め、荒い呼吸を繰り返す裕睦を舌舐めずりしつつ見下ろす。

「裕睦、こっち来て。ほら、君の妹に来てもらったんだよ」
「……は……? え……?」

 状況を全く理解できていない裕睦の体を引き起こす。
 ベッドに腰かけた雲雀の膝の上に乗せ、裕睦を後ろから抱き締めた。真正面に実紘の姿がある。彼女は蒼白な顔でこちらを見ていた。声も出せず、立ち尽くしている。
 気づいた裕睦は零れ落ちんばかりに目を見開いた。

「は? あ、なん、なんで……?」
「僕達のセックスを見てもらおうと思って」
「な、なに、言って……」

 ショックに固まる兄妹の心情など気にせず、雲雀は背面座位の体勢で裕睦の後孔に取り出した陰茎を埋め込んでいく。

「ひっ、んっ、にゃぁああああ~~っ」

 自分で体を支えることのできない裕睦は、自ら迎え入れるように剛直を胎内へ埋め込んでいく。
 ぬかるんだ肉筒がきつく締まり、雲雀は熱い息を吐いた。

「っは……裕睦、入れただけでまたイッちゃったの?」
「ひっはっあっあっ、やら、なんで、やらぁっ、やめっ、抜いてぇっ」
「だーめ。ほら、僕達が愛し合ってるところ、ちゃんと妹に見てもらおう?」
「ぃやっ、やぁあっ、だめっ、やらぁっ、見ないで、だめぇっ、あ、愛し、あってなんか、ないぃっ」
「なに言ってるの。もう裕睦のおまんこ僕の精液でいっぱいだよ? いっぱいキスして、裕睦もいっぱい気持ちよくなって何回も精液びゅーびゅーしたのに」
「ひっ、やだぁっ、おなか、ぐちゅぐちゅしないれぇっ」

 力なく暴れる裕睦を押さえつけ、下からとちゅっとちゅっとちゅっとちゅっと内奥を突き上げた。
 いやいやと首を振りながらも、裕睦の胎内は悦んで剛直にしゃぶりつき快楽に耽溺している。

「可愛いね、裕睦。僕達がこんなに愛し合ってるんだって、ちゃーんと見てもらおうね」
「んひっ、ひっ、あっあっあっあっ、おくっ、おくとんとんらめぇっ」
「僕達が愛し合ってるってわかってもらえれば、裕睦も安心できるよね? 僕がどれだけ裕睦を好きなのか見せつければ、誰も取ったりしないよ。だから、いっぱい見てもらおう」
「ひぁっ、ああぁっんひぁっ、らめぇっ、おちんち、しゃわらないでぇっ」
「可愛いよ、裕睦。大好き。裕睦が好きだよ、愛してる」
「あひっ、ひっ、うぅ~~~~っ」

 胎内を抉りペニスを擦り、耳元で甘く囁けば、裕睦はぶるぶると身を震わせてまた射精した。少量の精液がぴゅっと飛び散る。
 雲雀は射精を終えたペニスの先端を掌で包み、ぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅと擦り続けた。

「んひぃぃっ、やっ、やめへっ、んゃっぁああっ、やらっ、はなしてっ、ひはぁああああっ」

 敏感なペニスから生まれる鋭い刺激に、裕睦は甲高い悲鳴を上げ身悶える。
 腸壁がきつく収縮を繰り返し、剛直を扱かれるような快感を楽しみながら雲雀は手を動かし続けた。

「ひうぅっ、やめっ、らめぇっ、もれる、もれちゃうぅっ、おねが、はなひてっ、あっあっあっ、でる、でるぅっ」
「漏らすとこ見せて、裕睦。裕睦の恥ずかしいところ、全部見たいんだ。裕睦が好きだから、なにもかもが知りたい」
「あっひっ、で、る、でるぅっ、もれちゃ、あっあっあっあ──~~~~っ」

 ぷしゃぷしゃっと、ペニスから潮が噴き出す。
 羞恥に涙を流しながら排泄の快感に震える裕睦の姿を見つめ、雲雀は恍惚の笑みを浮かべた。

「ああ、可愛い、可愛いよ、裕睦」
「ぃやっ、見るなぁっ、やらっ、見ないでぇっ」
「もっと見せて、ほら、いっぱい漏らしてごらん」
「んひっ、ひっ、らめっ、とまらにゃっ、あっあっ、やああぁっ」

 ペニスをちゅこちゅこと擦りながら胎内をずんずんっと揺すれば、びゅっびゅっと潮が飛び散った。

「んぁああっ、らめっ、もぉしゃわるのやめてぇっ、おかひくなるぅっ、おちんち、へんになるからぁっ、あっあっあっ、らめぇっ、こわれちゃ、あっあっああぁっ、あーっ」
「変になっても大丈夫だよ。壊れても、僕が可愛がってあげるからね。どんなに壊れても、たっぷり愛してあげる」
「あっ、くっひぃんっ、んっ、あい、して……っ?」
「そうだよ。裕睦だけを見て、裕睦だけを愛し続けるよ。こうやって、毎日」
「おれ、だけ……っ」

 陥落しかけているのを見て取り、雲雀は唇に弧を描く。
 熱を持って赤くなった裕睦の耳を食み、散々弄って腫れたようにぽってりしている乳首を指に挟んで優しく捏ねる。

「あぁんっあっあっ、きもちぃっ」
「こうやって、裕睦の気持ちいいところ、いーっぱい弄ってあげる。裕睦の全部を僕だけのものにして、僕の全部も裕睦にあげる。僕を裕睦のものにしていいよ」
「おっ、おれの……っ」
「そう。僕は裕睦だけのものだよ」

 耳の中へ甘い囁きを流し込む。

「おれ、だけ……? 取られない……?」
「もちろん。ずーっと裕睦だけのものだよ。裕睦だけが好きで、裕睦だけを愛して、これからもずっと裕睦の傍にいるよ」
「ぁ、あっ……う、うれし……っ」

 裕睦の頬がだらしなく緩む。愉悦の笑みを浮かべる裕睦に、雲雀も同じように微笑んだ。漸く雲雀の気持ちを受け入れてくれたのだ。

「可愛い、好き、好きだよ、裕睦」

 背後から回した腕の中に閉じ込め、何度も何度も繰り返す。

「ふぁっあっ、うれしぃっ」
「裕睦も言って。僕が好きだって」
「す、き、すき、あっあっんぁあっ、ひばりぃっ、しゅき、しゅき、しゅき、だいしゅきっ」
「ああっ、可愛いっ、嬉しいよ、裕睦……っ」

 興奮し、衝動に突き動かされるまま激しく裕睦を犯す。
 裕睦は蕩けた目をして甘いよがり声を上げた。

「可愛い、好き、愛してるよ、裕睦っ、また中に出すよ、種付けするよ、赤ちゃん作ろうね、裕睦……っ」
「ひっやっ、そんな、ぁあっ、あかちゃ、こわいぃっ」
「怖くないよ、いっぱい作ろう、僕達結婚するんだから、僕の赤ちゃん孕んでくれるよね……っ」
「んっひっうぅっ、けっこんっ……?」
「そう。結婚して、ずっと一緒にいよう」

 最奥をぐりゅぐりゅと亀頭で擦り回しながら耳に吹き込めば、裕睦は爪先をぎゅっと丸めて絶頂を迎えた。

「──~~ぁひううぅっ、あっ、しゅる、けっこんっ、ずっと、いっしょ、ぉっあっあっあっあーっ」
「ああっ、嬉しいよ、裕睦っ、僕の子供孕んで……っ」
「ひっはっぁあっ、はらむっ、あかちゃ、ああっあっひぃんっ」
「かわい、裕睦、裕睦っ、中に出すよ、種付けするからね……っ」
「して、してぇっ、なからしてっ、たねちゅけしてぇっ、ああっあっあっひっ、しゅきっ、ひばり、しゅきぃっ」

 理性など剥ぎ取られ、はしたなく中出しをねだってくる裕睦に煽られ、雲雀は加減もできず内奥を穿つ。既に収まりきらないほどに注がれた精液が結合部から溢れ、ぶちゅんっぶちゅんっと卑猥な音が響いていた。
 きつく裕睦を抱き締め、奥深くまで捩じ込んだ肉棒から精液を吐き出す。胎内に射精される感覚にも感じるのか、裕睦はがくがくと震えながら陶然とした表情を浮かべていた。
 バタバタと足音を立て、なにも言わずに実紘が出ていく。もしかしたらなにか喚いていたかもしれないが、彼女の言葉など雲雀にはどうでもよかった。
 他のことなど意識の外で、裕睦が手に入った悦びに浸る。





「んっあっあっ、んちゅっ……ひ、ばり、んっんっ、は、んっ、ひばり、ふぅっ、んっ、すき……」
「はあっ……んっ……かわい……好きだよ、んっ……裕睦……」

 対面座位の体位で抱き合い、キスを交わす。
 思考も理性もどろどろに溶かされた裕睦は、陶酔した顔で雲雀にしがみつく。
 ずっと埋め込まれたままの剛直はすっかり体に馴染み、ちゅうちゅうと吸い付くように肉壁が蠢いていた。互いに全裸になって肌を触れ合わせる感触が気持ちいい。蕩けるようなキスも、甘ったるい彼の声も、なにもかもが裕睦に至福をもたらした。
 雲雀の存在だけが裕睦の心を占めていた。
 実紘のことなど、もう頭にはなかった。

「ひば、ぁんっんっ、ひばりぃ……っ」
「あー、可愛い……もう僕のものだよ、離さないからね」
「ん、うん……んっ、あっ」
「一緒に暮らそうね。ここじゃなくて、もっとセキュリティのしっかりしたところに引っ越そう。部屋ももっと広いところにしようか」
「っ、広くなくて、いいっ……狭くても、どこでも……雲雀が一緒なら、それでいい……」
「っ、っ、裕睦……!!」
「んひぁああっ……」

 がばりと押し倒され、剛直に最奥を貫かれる快感に裕睦は悲鳴を上げた。

「嬉しいっ、可愛い、可愛いっ、裕睦っ」
「んっおっ、ひっ、あっあっあっあっ」

 興奮した様子の雲雀に、ばちゅばちゅばちゅばちゅっと腰を打ち付けられる。

「好き、愛してるっ、裕睦っ、好きだよっ」
「ひっひうっ、んっ、しゅ、きぃっ、しゅきっ、しゅきっ、ひばり、しゅきぃっ」

 ペニスからはもうなにも出ず、後孔への刺激だけで裕睦は何度も絶頂を繰り返した。
 頭がおかしくなりそうなほどの快楽に襲われ、ただそれを享受する。
 愛おしむようにこちらを見下ろす雲雀に、へにゃりと微笑み返した。




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