呪われた婚約者と結婚した話

よしゆき

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 しかしクロエの考えとは裏腹に、サイラスはずっと落ち込んだままだった。呪いが解けたというのに、彼は呪われていた時よりもよほど暗澹とした空気を纏っていた。
 そこでクロエは考えた。また何か、彼にプレゼントすればいいのではないかと。あの眼帯がクロエからの唯一のプレゼントだからあんなに固執してしまうのだ。新しく何かを贈れば、眼帯への執着も薄まるだろう。
 そんなわけで、クロエは彼への贈り物を探しに一人で街に出た。プレゼントによさそうな物が売っている店を見て回る。
 置物などの飾るようなものではなく、身に付けられるものの方がいいのだろう。無難なのはハンカチやネクタイだろうか。しかしそういうものは既に充分に持っている。わざわざ新たに買ってプレゼントするのはどうなのだろう。シャツなどの衣類も同様だ。
 だとしたら仕事で使えるペンはどうだろう。
 服屋を散々回ったクロエは、今度は雑貨屋を回りはじめる。
 だがペンの種類が多すぎて何が良いのかわからない。握り心地や書き心地など、実際にサイラスに使って確かめてもらわなければわからない。クロエの基準で選べば、彼にとって使いにくいものを贈ってしまう可能性もある。
 だったら手帳の方がいいのか。しかし手帳も今使っている物があるだろう。それに手帳も種類が多い。彼が使いやすいのはどのタイプの手帳なのかわからない。
 他にもブックカバーや栞など色々見てみるがクロエは何も買わずに店を出た。
 次にアクセサリー店を見て回る。指輪やピアスにネックレスなど、シンプルで普段使いできるものがたくさんある。
 何か良いものはないか店をはしごし探していたクロエだが、ふと気づいた。
 そういえばサイラスがアクセサリーを身に付けているのを見た事がない。それはアクセサリーに興味がないか、好きではないからではないか。
 だとしたら、アクセサリーを贈っても迷惑になる。
 クロエは再び何も買わずに店を出た。
 店内を見ていれば何か見つかるかもしれない。そう考えて手当たり次第、色んな店に足を運ぶ事にした。
 伊達眼鏡、スカーフ、帽子、時計、手袋。プレゼントに良さそうなものはたくさんあるのだが、だからこそ何が最適なのか判断がつかない。プレゼントする事に慣れていないクロエは、考えすぎて結局何を贈ればいいのかわからなくなる。何も買えないまま時間だけが過ぎていった。
 歩き疲れ、クロエはベンチに座る。こんな事なら、前もって何を贈るか決めてから買い物に来るべきだった。
 しかしこれだけ探してプレゼントする物を見つけられないとは。
 どうしたものかと悩んでいて、ふと思った。サイラスに何が欲しいか訊けばよかったのではないかと。それならば失敗もない。彼の欲しいと思う物をプレゼントできるのだから。
 その事に気づいて呆然としていると、遠くからクロエの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
 立ち上がり、そちらへ向かう。
 必死な様子のサイラスが、クロエの名前を呼びながら走っていた。

「サイラス様」
「クロエ……!?」

 声をかければサイラスは慌てて駆け寄ってくる。そしてぎゅっとクロエを抱き締めた。

「良かった、無事だったのか……!」
「え?」
「帰りが遅いから、何かあったのかとっ……」

 言われて、もう辺りが暗くなってきている事に気づいた。プレゼントの事で頭がいっぱいで時間を忘れていた。
 サイラスは心配して捜しにきてくれたのだろう。

「あっ、すまない……っ」

 ハッと我に返り、サイラスは慌ててクロエから離れた。
 クロエは彼に頭を下げる。

「私の方こそすみません。連絡もせず、帰りが遅くなってしまって」
「いや、クロエに何もなかったのならそれでいいんだ……」

 最初の頃は不審者のようにクロエの後をつけ回していたサイラスだが、今はそんな事はしていない。さすがにもう、彼女が他の男と逢い引きしているかもしれないなんて疑っていない。
 しかし今日、クロエがなかなか帰って来なくて心配で心配で堪らなくなり後をつけていればよかったと後悔した。クロエに何かあって帰れない状況にあるのでは……と。
 こうして彼女の無事な姿を見て、心の底から安堵した。

「でも、どうしてこんな遅くまで外に? 何か用事でもあったのか?」
「いえ、実は……サイラス様へのプレゼントを探していて……」
「……プレゼント? 俺に?」

 サイラスは首を傾げた。クロエからのプレゼントは嬉しいが、理由がわからない。誕生日が近いわけでもないし、プレゼントをもらうようなイベントはなかったはずだ。
 それなのにどうして……と考えて、ハッと理由に思い当たる。

「もしかして、俺がいつまでも落ち込んでいたからか……? 眼帯の事をずっと引きずってたから、それで……?」
「はい。サイラス様を元気づけようと思ったのですが、でも結局、何をプレゼントすればいいのかわからなくて……。こんなに時間をかけて探したのに何も用意できなくて……すみません」

 すまなそうに目を伏せるクロエに、申し訳なさを感じつつ感動に胸を熱くしてしまう。自分が子供っぽくいつまでもいじけていたせいで彼女を困らせてしまった。でもそんな彼女が自分を励ます為にプレゼントをしようと一生懸命考えてくれた事が堪らなく嬉しい。

「謝るのは俺の方だ。俺がいつまでもウジウジしていたから、クロエに気を遣わせてしまったな。すまない……。でも、ありがとう。クロエのその気持ちが嬉しい、とても」

 サイラスは頬を染めて微笑む。
 彼はそう言ってくれるが、クロエはやはり何か眼帯に代わるものを贈りたい。

「あの、サイラス様の欲しいものは何でしょうか……? 今日は用意できませんでしたが、改めてプレゼントしたくて」
「……プレゼントとは違うかもしれないが、実は欲しかったものがあるんだ」
「! はい、何でしょう?」
「また、君の作ったものが食べたいんだ」

 はにかみながら伝えられた言葉に、クロエはきょとんとした。それから、以前クロエが作ったケーキを彼が食べた事を思い出す。

「私の……? ケーキですか?」
「ケーキじゃなくても、何でもいいんだが……。君の手作りのものが食べたくて……。もし嫌じゃなければ、また何か作ってほしい」
「それはもちろん構いませんが……。いいんでしょうか? 私、特別料理やお菓子作りが上手なわけではありませんし、そんなに美味しいものは作れないのですが……」
「いいんだ、クロエの作ったものが食べたいだけだから。それに、前に食べたチーズケーキはとても美味しかった。俺の好みの味だったよ」

 サイラスは照れ臭そうに、今になって味の感想を教えてくれた。
 美味しかったと言ってもらえたら、作ったクロエとしてはやはり嬉しい。

「わかりました。また、作ります」

 コクリと頷けば、サイラスは喜色を浮かべ微笑んだ。欲しい物をプレゼントされて喜ぶ子供のような屈託のない笑顔だった。





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