魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ

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6.守りたいもの

4話

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 パタパタパタ、雨が勢いよく体を叩く音がする。
 何とかぬれずにすんでいるのは、ドラン工房謹製のレインコートのお陰だ。

「思ったより暖かいですね」

 雨に濡れてじわじわと体を冷やすことを想像していたのだが、一流の仕事はいつだって期待以上だ。
 頭からくるぶしまですっぽりと覆い隠してくれるレインコートをしげしげと眺めながら、シオンは同行者のふたりに声をかけた。

「それに、裾の葉っぱ柄が可愛いですっ」

 うきうきと声を弾ませて微笑む彼女は、エルフ族のベル。
 大きめのフードの中で、彼女のふわふわとした茶色い髪が揺れている。

「村が見えてきています。ちょっと、しゃっきりしてくださいね!」

 先頭を歩く小柄な青年が元気よくこちらを振り向いた。
 小さな角を黒髪で隠しているが、彼は立派な鬼族だ。

「はーい、ユウリ先生」

 ベルがぴっと手をあげて笑う。
 それを見たユウリはわかりやすく頭を抱え、ため息をついた。

 目的地の少し手前で飛竜を降り、出来るだけ威圧感を与えないように雨の中を三人で歩く。
 大きな武器を持たず、ユウリは手甲と腰の短刀だけ。
 ベルはスズランの花を模した可愛らしい杖を携えている。
 
「大丈夫ですよっ、私たち可愛い属性ですから、人間もメロメロですっ」

「そ、そうかな?」

 謎の自信をのぞかせるベルの言葉にシオンは曖昧に笑う。
 それでも彼ら二人の実力は確かなもので、和やかながらも周囲の警戒は決して怠っていない。

 「それにしても、やっぱり雨の被害はひどいですね」

 真面目な顔をしてユウリが呟く。
 その言葉に、シオンも静かに頷いた。

 川が氾濫した跡が見られたり、山の一部が崩れ落ちていたり……この分では、村の田畑も使いものにはならないだろう。

 王都から離れた、言い方は悪いが辺鄙な村だ。
 食糧事情やライフラインも、自力で何とかしなければいけないのであろうことを想像すると心が痛む。

「……ちょっと変わった建物が多いですね?」

 手で双眼鏡を作るようにしながら、ベルが不思議そうな声を上げた。
 確かに、ここから見える建物は木造建築が多く、どこか古い日本家屋を思わせた。

「本当ね。以前見た港町の建物は、レンガ造りのものも多かったけれど……」

 天気も相まって、どこかさびれた、物寂しい雰囲気が漂っている。
 ゴロゴロ、と山の方から雷の音が響き始めた。

「わっ、やだやだ、早く村に行きましょう!屋根の下にくらい入れてくれるんじゃないですか?」

 ベルが雷鳴に飛び跳ねながら、足を速める。
 一層強まる雨足に体を打たれ、水を滴らせながら、三人はいそいそと村へと向かった。




「入口まで来ましたけど……誰もいませんね」

 ぐるりと、形ばかりに村の周りを囲う木の柵をポンポンと触りながら、ユウリは目を細めて村の中をきょろきょろと探っている。
 手近な村人に声をかけて村長を呼んでもらおうなどと思っていたが、あまりにも人の姿が見えない。

 民家もすっかり戸を閉め切って、中の様子をうかがうのは難しそうだ。

「手近なところを訪ねてみますか?」

 困った様子でユウリがシオンを振り返った。
 そうね……とシオンが一歩村の中に踏み入れようとしたその時、ベルがあっ!と声を上げた。

「あそこ、女の子がいる」

 指をさしたその先には、なぜか体をずぶ濡れにさせながら、小さな櫓の上に座り込む黒髪の少女の姿があった。

「何してるんでしょう……人間ならあっという間に風邪ひいちゃいますよ」

 怪訝な顔をして、ユウリが首を傾げた。
 座り込んだ少女は何をするでもなく、ただ時折空を見上げては俯いて、を繰り返している。
 櫓の四隅には紫陽花に似た花が活けられており、よく見るとそれは何かの祭壇のようにも思えた。

「……他に人もいないものね。声をかけてみましょう」

 周囲をきょろきょろと確認しながら、シオン達はゆっくりと村の中へ足を踏み入れた。
 舗装もされていない、何年もかけて踏み固められてきたのであろう土の道を歩く。

 古びた建物も多いが手入れはされており、人の姿は無いものの生活感は残されている。
 それでも、この村は少し不気味な静けさをまとっているように感じられた。

「あの……こんにちは」

 櫓の上で目を閉じる少女に、シオンが声をかける。
 雨のせいで足音も聞こえなかったのだろう。
 少女はびくっと体を震わせて、勢いよくこちらを見た。

「……た、旅の方ですか……?」

 か細い、怯えたような声。
 フードを目深にかぶっている三人は、一見すると魔物だとは分からないはずだ。
 それでも異様に人目を気にするようにして体を震わせる少女の姿に、シオンは違和感を覚えた。

「はい。この村の代表者の方……村長さんは、いらっしゃいますか?」

 彼女の緊張をほぐすように、シオンはゆっくりと、できるだけ穏やかに語り掛けた。
 その長い黒髪や身にまとったワンピースは絞れば水が流れ出るほどにぐっしょりと濡れている。
 体は小さく震えているようだった。
 
「風邪をひいてしまいますよ。一緒にコートに入りませんか?」

 シオンが両手を差し出すと、少女の瞳が大きく見開かれ、動揺したように揺れた。
 少女は素早く櫓から降りると、小さな声で「人を呼んできます」と言ってから村の奥へと駆けて行った。

「……どうしたのかしら」

 ぽつりと呟くシオンの手を、くいっとベルが引っ張った。
 振り返ってみると、彼女の表情はすっと陰り、あどけない笑顔は消えていた。

「あの子……混血だよ」

 その声を聞いて、ユウリもきゅっと眉をひそめる。
 
 ――混血。

 つまり、人間と何かの、という事だろうか。
 様々な考えがシオンの脳裏を駆け巡る。
 それはやがて、彼女がこのひどい雨の中誰にも見守られることなく、櫓にひとり座り込んでいた光景と結びつく。

 シオンは、自分の肌がぞわりと粟立つのを感じていた。
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