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8.光のほうへ
6話
しおりを挟む「バルドラッドさん!」
シオンはバルドラッドの執務室のドアを叩き、返事を待たずにドアを開ける。
窓際に立つバルドラッドの姿はあまりにもいつも通りで、シオンを見る表情に一切の翳りも、驚きもない。
その余裕すら感じさせる態度に、シオンは恐怖した。
「カイレンの居場所を教えてください」
「俺の話が理解できなかった?」
バルドラッドの言葉は平坦で、感情を感じさせない。
雰囲気に飲まれそうになるのをこらえて、シオンは大きく息を吸った。
「……納得できません」
バルドラッドの眉がぴくりと反応する。
一瞬、刺すような威圧感。
しかし、気圧されている場合ではない。
シオンはとにかく高速で思考を回転させていた。
「あの子が、どんな理由があってモンスターの変異に加担するっていうんですか」
バルドラッドは答えない。
「毎日、城のために一生懸命働いていました。頑張りすぎるくらいに」
こんな話にバルドラッドは流されない。
そんなことはわかっている。
流されないために、彼は検証し、答えを出しているのだから。
「あの子が頑張っていたのは、ここが居場所だからです。精一杯働いて、自分の価値を証明しないと不安だから」
バルドラッドに、感情のまま言葉をぶつける。
胸の奥には罪悪感があった。
カイレンに対しても、こうして感情的にバルドラッドと、向き合ってしまっていることに対しても。
「――それは、君のことじゃないの?」
バルドラッドの言葉に、心臓が大きく跳ねる。
どこか、カイレンに自分のことを重ねていた。
そのことにシオンは気がついていた。
彼女を守ることで、自分の心も守ろうとしている。
彼女の頑張りは、報われなければならないのだ。
「君はもっと理性的だと思ってたよ」
バルドラッド言葉には、落胆の色すらない。
淡々と、感想を述べているだけだ。
「カイレンは、体調も崩して……それこそ、道端で倒れ込んで眠るくらいだったんです」
そう口にして、シオンはぴたりと口を閉じる。
……あれは、いつからだった?
過労だと思っていた。
実際、医療班にも休息を促されていた。
それでも、あまりにも頻繁に、彼女は『意識を失うように』眠りに落ちていた。
前後の記憶が、曖昧になるほどに。
はっとして、シオンが尋ねる。
「バルドラッドさん……彼女の意識を奪って行動させる方法には、どんなものがありますか」
少し考えてから……バルドラッドは口を薄く開いた。
――その瞬間だった。
爆発音と共に、城の外で黒煙が立つ。
煙の根本には火柱が見えた。
突然のことに目を奪われていると、間髪入れずにその付近でもう一つ、もうもうとした煙の柱が発生する。
「……な、何が起きて……」
シオンが動揺し、窓際に近づこうとするその時には、バルドラッドは窓を押し開き、そこから身を乗り出して宙に舞っていた。
彼を拾うように飛竜が舞い降りてくる。
あっという間にバルドラッドを背に乗せて、竜は黒煙の方へと吸い込まれるように飛んでいった。
開いた窓から吹き込む風には、木や草が焼ける匂いが混じっている。
やがてにわかに城内が騒がしくなってきた。
「城付近で変異モンスターの群れが暴れてる!」
城を揺らすような足音の中でシオンは立ち尽くし、ひたすらに思考する。
この変異モンスターも、カイレンが発生を手引きしたと言うのか?
あまりにもタイミングが良すぎる。
脳裏に、無邪気に微笑むカイレンの姿が思い出された。
柔らかな獣の耳、嬉しい時にはぽっと赤らむ丸い頬。
それから、細い首元には、彼女のトレードマークのチョーカー。
シオンはぎゅっと自身の服の胸元を握る。
胸騒ぎがする。
彼女がいつも、肌身離さずつけていたチョーカー。
執務室で会話する時も、外出する時も。
突然、変異について調査する時も、だ。
「まさか……」
記憶の中で、彼女の首を彩る赤い石が、ゆらりと光を反射して煌めいた。
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