最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。

冬木ゆあ

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第2話 魔王、勇者を旅立たせたい!

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「リリー、俺、お茶飲みたいなぁ」
 
 アランはリリトヴェールの家でゆったりとくつろぎながら言った。
 二人はダイニングテーブルを挟み座っていて、正面に座るリリトヴェールは立ち上がった。

「はい、はい……じゃない! なぜアランはここに住み着いている!」

 リリトヴェールはキッチンでお湯を沸かしながら、テーブルにお茶菓子のクッキーを置いた。
 アランはそのクッキーをひとつ手に取り、口に放り込んだ。

「親父に追い出されたんだよ。早く旅立てって。……うん。リリーの焼いたクッキーは美味しいなぁ」

 キッチンに立つリリトヴェールはその言葉を聞いて、慌てて振り向いた。

「こら! 勝手に食べるな! 私のおやつだぞ。せめて私が座るまでは待て」

 怒りながらもリリトヴェールはアランの分のお茶も用意して椅子に座った。
 それからリリトヴェールもクッキーに手を伸ばした。

「それで、アランはいつまでここにいるつもり? 親父殿の言う通り、さっさと旅立て。勇者だろう」

 アランはお茶を一口飲んで言った。

「リリーまで親父みたいなこと言うなよ……。最近、親父がそれしか言わない人形みたいで家に居づらいんだ」

 アランは深いため息を吐いた。
 リリトヴェールは机をドンっと叩いて言った。

「溜息を吐きたいのはこっちだ! 私には親父殿の気持ちがよく分かる。なんでアランは旅立ちたくないの?」

 アランはクッキーをまた一つ取って言った。

「俺はレベル三十五になるまで旅立たないと決めている」

 それを聞いたリリトヴェールは呆れた顔をした。

「はじまりの森でそれは無理でしょう。アランが森に入った途端、魔物たちは姿を隠すじゃない……」
「それじゃあ、しょうがない。旅立てないな」

 アランは口にクッキーを入れた。
 リリトヴェールはさらに尋ねた。

「なら、なんで勇者の剣を抜いたの? 勇者になりたいわけじゃなさそうなのに」

 アランは真剣な顔で手を組んで、リリトヴェールを見据えた。

「長くなるけど……、聞きたい?」

 ――くっそむかつく顔だな!

 リリトヴェールは口元を引きつらせながらうなずいた。
 アランがゆっくりと語り出した。


 俺の十四歳の誕生日のことだった。
 親父が唐突に言った。

「アランも来年には成人だ。一度は思い出作りに家族旅行をしよう」

 そんな親父に俺は言った。

「だるいからパス」

 打って変わっておふくろは瞳を輝かせていた。

「まぁ! 旅行なんてはじめてね! アランは行かないなら、旅行の間の食事の支度は自分でどうにかしてちょうだいね」

 俺は笑顔で言った。

「旅行、すっごく楽しみだね。親父、おふくろ」


 家族旅行の行き先は、勇者の剣が祀られている村だった。
 観光地と化したその村は多くの人で賑わっていた。
 そして、村の中には長蛇の列があり、その先には、勇者の剣があった。
 その剣に触るのにひとり小銅貨五枚というぼったくりが行われていたのだ。
 親父は迷わずその列に並び、意気揚々と言った。

「俺は昔抜けなかった。だが、あれから二十数年。今なら抜けるかもしれない」

 おふくろは嬉しそうに手を合わせて言った。

「そしたら、わたしは勇者の妻ね」

 そんな浮かれた両親二人と一緒に俺はぼったくりの列に並んだ。
 多くの人が挑戦するも勇者の剣は抜けることなく、どんどんと順番が回ってくる。

 とうとう親父の番が来た。
 両手で力の限り抜こうとするが抜けなかった。
 意気消沈している親父の横で、なぜかおふくろもチャレンジしていたが、やっぱり抜けなかった。

 ついに俺の番が来た。
 抜けるものかと高を括り、片手でチャレンジしたら、なんということでしょう。
 何の抵抗もなく勇者の剣は抜けてしまった。
 管理者の男性は持っていたベルをけたたましく鳴らした。

「おめでとうございます! あなたが勇者です!」


「……という、いきさつだ」

 リリトヴェールは頭痛のする頭に手を添えた。

 ――女神も他に勇者にするべき人間はいただろうに……。

 勇者は女神が選んでいると言われているが、どうやら人を見る目はないらしい。
 アランは言い募る。

「勇者より面倒な仕事が他にあるか? 魔王を討伐するために旅をして、その間は野宿をし、食事もままならない日もあるだろう? だったら、木こりとして最低限の衣食住があれば、俺は満足だった……」

 アランは悔しそうに机の上で震える拳を握る。
 リリトヴェールは冷静さを保とうと必死だった。

「でも、勇者の剣をアランは持ち帰ったんでしょう?」
「返そうとしたさ。元の場所に戻そうとしたら、親父と管理者に必死に止められた」

 真剣な顔つきで言うアランに、リリトヴェールは溜息を吐いた。

「なんでアランみたいなのが勇者に選ばれたんだ……」
「俺もそう思うよ」

 アランはクッキーを取ろうと手を伸ばしたが、リリトヴェールは皿ごと取り上げた。

「もう腹くくって、さくっと魔王を倒してこい!」
「無理だよ、リリー。俺、ひとりで村から出たことないもん。右も左も分からないよ。……そうだ。リリーは魔女だから魔法が使えるだろう?」

 リリトヴェールは不思議そうに首を横に傾げる。

「魔女だからね。使えるけど……。だから何?」

 アランは茶色い瞳を輝かせた。

「リリーも一緒に行こうよ。それなら旅立ってもいい」

 ――魔王が勇者と共に魔王討伐に行くなんてそんなことできるか!

 リリトヴェールはクッキーの乗った皿を机に戻す。

「無理だよ! 私にはこの森を管理するという大事なお役目がある」
「大丈夫だって。この森に魔女はずっといなかったんだし。それに魔王討伐は人類の切望だろ?」

 アランはリリトヴェールの手を掴んで、懇願する瞳を向けた。
 リリトヴェールはそんなアランの手を振り払った。

「無理なものは、無理だ!」
「なら、レベル三十五になるまで旅立たない!」

 アランは膨れた顔をして、椅子に座り直し、クッキーをまたひとつ口に入れた。

 ――そんなの困る! 魔王を引退して、平凡に暮らすと言う、私の目標のためにもここは折れるしかないか……。

 リリトヴェールはそんなアランにとうとう押し負けて、溜息を吐いた。

「私が一緒に行けば、魔王討伐に行くの?」

 アランは目を丸くしてうなずいた。

「リリーが一緒なら」
「途中までだよ。アランに旅の仲間ができたら私はそこで離脱する。それでいいなら一緒に旅に出てやる」

 アランは笑みを浮かべてうなずいた。

「それでいいよ。ありがとう、リリー」

 ――まぁ、途中までならいいか。さっさと勇者の仲間を見つけて、魔王城に戻ろう。

 そうして、魔王リリトヴェールは勇者パーティの一人目になった。
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