白砂の夜に踊る

晴なつちくわ

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番外編

お祝いには二人でダンスを

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「はぁっ!? 誕生日!?」

 思わず声を上げたヴェルナに、ミュトラは平然と、ああ、と頷いた。

「だってお前……、生誕祭は!?」

 ウル皇国では誕生日を明かさないΩも、誕生月の初めには生誕祭をした。だというのに、月初めにミュトラの生誕祭はなかったし、今日だっていつも通りの夜だ。違う事と言えば、座卓に乗っている食事が少し豪華で、甘味が多めに置かれている事くらいだろう。
 もしやラナキアには生誕祭の風習がないのか!? とも思ったのだが、ミュトラ本人によって否定された。

「十歳になってからはしていない。王妃殿下が快く思わないからな」
「ハァ!? なんでだよ。お前が自分の子どもじゃないからか?」
「ははっ、それもあるかもしれないが、王になる者の権威を落としたくないのだろう」

 思わず顔を顰めてしまった。
 弟の生誕祭を盛大にやったくらいで落ちる権威ならば、兄が王の器ではないと証明しているのと同じだ。何度か開かれている宴で見た兄のヴィシラは、そんな愚か者には見えなかったが『王妃殿下』とミュトラが言うあたり、彼女がそう指示をしているのかもしれない。王は国政を司り、妃が王宮を司るのは王国ではよくあることだ。
 だとしてもこの対応はあんまりだ。
 年に一度生まれたことに感謝する日であり、生まれたことを祝福する日を、ミュトラは十歳の頃から独りで過ごしていたのだろうか。想像すると何とも言えない気持ちになる。一年に一度しかないのに。
 ヴェルナは誕生日こそ祝われないものの、誕生月の初めに皆から祝福されて過ごしてきた。母と父を早くに亡くしたけれど、兄姉や、ウルウィの妹分、仲間たちにはたくさんお祝いの言葉と贈り物を貰って過ごしてきた。それなのに、ミュトラは。

「ヴェルナ、そんな顔するな」

 膝にそっと置かれた手に顔を上げると、ミュトラが眉を下げて笑っていた。だってお前の誕生日なんだろ、という言葉を飲み込む。当事者ではない自分が怒っても仕方のない事だ。

「もともと騒がしいのは好きではない。お前がいてくれれば十分だ」
「ッ、お前なぁ! もっとあるだろなんか!」
「? 他に何があるんだ?」

 心底分からないと言いたげのその顔といったら。そういうのは好きな人に言うべきであって、一介の踊り子に言う事じゃないだろうと思うのだが。全く心臓に悪い。まあでも、と思う。ミュトラ本人がそう言うならそれでいいのだろう。

「はぁ。お前が誕生日だって知ってたら贈り物用意したのにさ」
「気持ちだけ受け取っておこう」

 頬を緩ませたミュトラを見ながら思う。
 随分とミュトラは表情が豊かになった。無表情の堅物だと最初の頃は思っていたが、根はどうやら違うらしい。こうしていろんな顔を見せてくれるのは正直言って嬉しかった。もうヴェルナにとって、ミュトラはただのムカつくクソ王子ではなく、気の置けない友人以上の存在だから。
 何か出来ないか、と考えてふとある事を思いつく。
 立ち上がって、手を差し出した。ヴェルナが出来ることと言えば踊りくらいだ。それだけだがしかし、他国の踊りにも詳しい。ある国ではめでたい時にダンスを踊る風習がある。誰かに見せるもの、というよりも、そのめでたいものをじっくりと味わう、という意味を持つそれ。
 突然手を差し出された理由が分からないのだろう。首を傾げているミュトラに、笑って言った。

「俺と踊って頂けますか、王子サマ?」

 ぱちりと目を瞬いたミュトラが、これでもかと言うほど柔らかな笑みを溢して言った。

「喜んで」

 立ち上がったミュトラの手を引いて、少し開けた所に足を進める。音楽はない。見えた薄水の瞳に笑い返して腰に手を誘導する。

「他国の踊りをした事は?」
「恥ずかしい事にない」
「じゃあ俺に任せて。こっち手の置き場所はここ。こっちの手はこっち。腰骨あたりを密着させて…、そうそう、上手い」

 手取り足取り教えて、視線を合わせる。

「俺に合わせて、足を動かして。いくぞ。いち、にぃ、さん」

 リズムを取りながら踊る。だんだん慣れてきたのか、足取りが軽くなってきたミュトラに合わせて、くるくると回る。
 リズムではなく昔懐かしい曲を口ずさみながら、軽快に二人の足が床を滑る。誰にも見せる事のない、ゆったりとした音楽に合わせて、たった二人だけの踊り。
 楽しんでくれているかな。
 そう思って見たミュトラは、これでもかと言うほど目元を緩ませてこちらを見つめていて、思わず足が止まる。あ、と思った時には遅かった。もつれた脚。お互いに体を支え合うようにしていたバランスが崩れて、そのまま床に倒れ込む。

「ウワッ! ッ、悪い! 大丈夫か⁉︎」

 床に倒れ込む直前で、ミュトラが下敷きになってくれたらしく、ヴェルナにはほとんど衝撃がなかった。下になったミュトラを伺うと、何やら楽しそうに笑っていた。

「問題ない。怪我は?」
「ないよ。お前が庇ってくれたから。ごめんな、今退く、」
「もう少し、」

 言葉を遮られてそのまま抱き締められた。心臓が跳ねた音が耳の奥で聞こえた気がした。

「もう少しだけこのままでいさせてくれ」
「お、お前がいいならいいけど。重くないか?」
「大丈夫だ」

 抱き締められているせいで顔は見えない。だが、声から察するに彼はあの満足げな笑みを浮かべているのだろう。ふー、と息を吐いて心臓を落ち着かせてから、笑って言った。

「誕生日おめでとう、ミュトラ。お前にたくさんのしあわせが訪れるよう祈ってるよ」

 いろんな人にそう祈られてきた。だからその通りにミュトラにも伝えれば噛み締めるような、ありがとう、が聞こえた。
 この先、ミュトラの人生に多くの幸が訪れると良い。そうして、次の誕生日からはいろんな人に囲まれて祝われると良い。
 ぬくもりに包まれたまま、そんなことを思った。


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11/8 happy birthday ミュトラ!
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