極上の君

晴なつちくわ

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第一部

16.融解する心身*

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 触れるだけだったキスが、どんどん深くなる。
 呼吸まで食べられてるみたいだ。そう思いはするものの、止める理由なんて無い。いつまでもこの生ぬるい熱に浸かっていたい。唇の隙間から潜り込んできた舌。歯の根元を撫でられて、背筋に走る痺れ。薄目で見たダンテは満足げに目元を緩ませて、もっと、というように器用に舌の根元に潜り込む。

「はっ、……ンンっ」

 筋を舐め上げられて、鼻から声が抜けていく。
 腰のもっと奥の方から滲み出した熱。背骨を駆け上がってくる快感に流されそうだ。これ以上は駄目だ。これ以上キスをしていたら、それ以上のことがしたくなる。一瞬その先のことを想像して、きゅっと縮こまった下腹部。
 ヤバい。
 そう思って顔を離そうとしても、追い掛けてくるダンテに執拗に口の中を舐めあげられる。頭が痺れる気持ちよさに身を委ねてしまいたい本能と、病人なんだからという理性の間で藻掻くように顔を背けた。

「ダンテッ、しつこい」

 口元を両手で隠せば、不満げに口元を歪めたダンテと目が合う。不機嫌そうな猫そっくりだ。うっ、ずるいだろその顔。絆されそうになる自分に喝を入れて、ジロリと半眼を向ける。

「これ以上は駄目だ」
「なんで」
「なんでって、……我慢できなくなるだろ」

 何が、といわずともダンテなら理解できるだろう。バツが悪くて視線を逸らした。なのに、顎をやわく掴まれて視線を合わせられたと思ったら、柔らかな笑み混じりの声が落ちてくる。

「我慢する必要なんてないよ」
「ッ、必要ないわけないだろ。俺は一応重病人らしいし、アザミさんとかお前の部下が来る可能性だって、」
「じゃあ言い方を変える。僕が、我慢できない」
「ちょっ、ダンテ、ッんん」

 言うなり、首元に顔を埋められて、首筋を熱い唇で柔くまれる。ゾワゾワと期待をはらんだ興奮が背中から全身に広がって、マズい、と余計に思う。その間にも、首の弱いところを吸い上げる音に、時々吐息の音が交じって、耳からも快感を呼び起こされる。

「ダンテッ、駄目だってい、ぅあッ、ぁ」
「クロード。僕、凄く我慢したんだ。あんたに可愛いおねだりされても手を出さなかった。ホントに、頭がおかしくなりそうだったんだよ。あの時は我慢出来たけど、でも、もうこれ以上は無理。おねがい。一回だけでいいから」

 耳にばかり意識をやっていたせいで、身体を隠していた布団を剥がれたことも、寝間着のボタンが外されたことも、気付けなかった。骨ばった大きな手のひらに腹を撫で上げられて、身体が跳ねる。
 もう抵抗なんて出来るわけがない。気持ちよさで滲んだ視界を瞬きでクリアにして、ダンテを見る。熱に浮かされた、しかし鋭い光を宿した瞳と目が合った。
 少しだけ上気した目元。興奮している。余裕なんて微塵もない。そんなに求めてくれるなら。
 ふっと溢れた笑みのまま、言ってやる。

「ホントにいっかいだけにしろよ?」

 心を掻っ攫った目の前の男に乞われたら、駄目だ、なんてこれ以上言えるわけがなかった。本当は期待もしていた。強引に押し切ってくれたら良いのに。正直な自分は頭の片隅でそう思っていたのだから。

「うん。今日は、ね」
「ンッ、ぁ」

 表情を嬉しさで溶かしたダンテにそのまま唇を塞がれて、瞼を下ろす。その間にも、ダンテの両手はクロードの素肌を滑るように暴いていく。ダンテの指先が、乳首を掠めて身体が勝手に跳ねた。満足そうな笑みの吐息が落ちてきて、肌が粟立つ。
 全部気持ちがいい。脳がゆっくりと痺れていって、思考が緩んでいく。
 一度離れた唇。瞼を上げると、ダンテがゆるく口角を上げているのが見えた。両手が腰にたどり着いて、そのまま裾にかかった親指で下着ごと寝間着を下ろされる。浮かせた尻から、するりと剥ぎ取られた寝間着は、適当に放られてしまった。すでにクロードの性器は先走りで濡れている。ダンテはそれを指摘する代わりに、クロードの薄い腹にその体液を広げるように、右手をゆっくりと動かしながら言った。

「あのクズに、どこも触られてない?」
「ァ、何の話だ、ッん」

 するすると左の指先が、足先から太ももまで戻って来る。触れるか触れないかの絶妙な触り方に、また腹の奥がじいんと重くなる。さらなる熱を呼び起こすような触り方が、本当にダンテは上手かった。
 話に集中したいのに、それをさせてくれない。
 ぢゅ、と太ももを強く吸い上げられて、腰が跳ねる。朱い痕を満足げに撫でてから、ダンテはクロードと視線を合わせた。

「あんたを裏切ったアイツだよ」
「はっ、ぁ、あいつとは、ッ、そんな関係じゃ、ぁッ」
「ホントに? ここも今まで一度も触られてない?」

 人差し指が、足の付根からゆっくりと股の間を通って、期待にヒクつく後孔のひだにたどり着く。もう言葉を発することは難しくて、口元を腕で塞いで何度も頷いた。

「よかった」
「ンンンッ! アッ、っ、ぅあッ! ぁっ」

 ご褒美とでも言いたいのか、ゆるく反っていた性器に指先が絡みついて、擦り上げられた。鋭い快感が全身を駆け抜けて、勝手に声が漏れる。先端を指の腹で刺激されて、もうイくことしか考えられない。でも物足りない。さっきからずっと腹の奥が、切ない。自然に閉じかけた両膝の間に、ダンテが陣取った。

「閉じないで」

 言い終わるか否か、とろりとした物が股を下る。粘着質な音が意識の隅でなっていたのも束の間、抵抗なくナカに入ってきた指。

「ンぁっ、ッ、んぅ、ぁあぁッ」

 ぎゅうぎゅうと締め付けているのが自分でも分かる。内側から気持ちがいいところを擦られて、ひっきりなしに声が漏れる。もう止まらない。腰も勝手に揺れてしまう。
 でも、やっぱり足りない。早く、もっと気持ちよくなりたい。もっと奥まできてほしい。もっと深い所がずっとさみしくてたまらない。
 ダンテの腰を抱き寄せるように両足を絡ませる。動きを止めたダンテを、滲んだ視界のまま見つめる。

「だんてっ、はやくッ、ぁッ、ぉまえがっ、ほしぃ」

 もうなんでも良いから、ほかでもない目の前の男に、早く腹の奥のさみしさを埋めてほしかった。ダンテだけが埋められる空虚感を、早く埋めてほしくて。プライドなんてかなぐり捨てて、本能のまま強請ねだる。
 小さく笑ったダンテは、一度手を止めて触れるだけのキスをしてくれた。

「わかった」

 ネクタイを適当に抜いて、背広を脱ぎ捨てたダンテは、立ち膝になった。そのままクロードに見せつけるように、ベルトとスラックスのジッパーをくつろげていく。
 パンパンに膨れ上がった下着。そこから目を逸らせずに、喉が鳴る。じわりと頭の後ろ側から期待の熱が染み出して、全身に広がっていく。熱を逃すように、口内は唾液がいっぱいになった。こくりと飲み込むうちに、目の前にダンテのはち切れそうなほど膨れ上がった男根が現れた。
 雄臭さが鼻をつくのに、彼のだと思うと尻のもっと奥が震えた気がした。
 ダンテは笑みを深くすると、クロードの膝裏に手を掛けて押して来る。勿論抵抗なんてしない。ぴたりと先端が後孔に触れた。ゾワゾワとした期待感に、目が潤む。

「いくよ、クロード」

 こくりと頷いた。ゆっくりと己のナカに飲み込まれていくダンテの性器。

「~~~~ッ、ぁッん」

 圧迫感だってあるのに、胸を占めるのは、何事にも変え難い気持ちよさだった。
 このまま揺さぶられたらきっと、ぶっ飛んでしまうほど気持ちが良いに違いない。
 そう思った直後。

 コン、コン、コン。
 扉を叩く音が響き渡った。一気に現実に戻されて、動きを止める。ダンテもまさかここで誰かが割り込んでくるとは思っていなかったのだろう。動きを止めて、しぃ、と人差し指を口元に当てた彼に、背中を冷やしながら頷く。ダンテは扉に向かって声を上げた。

「だれだ」
「ボス、すみません。私です」
「……ジオスか。どうした」
「取り急ぎ確認したい事が二つありまして」

 ダンテの瞳がクロードへ向けられる。少し待って、と音のない声で言ったダンテは、また扉へと目を向けた。

「なんだ」
「まず一つ、さっきの電話の事ですが、あれは本気ではないですよね?」

 さっきの電話、とはダンテが後継をと言ったものだろう。電話口から聞こえた声と、いま扉の外にいる彼の声は同じだ。
 そりゃあ取り急ぎ確認したい事項に入るだろうな、と冷静になり始めた頭で思う。

「嗚呼、その件は解決した。今は白紙に戻ってる」
「そうですか。それは良かったです」
「もうひとつは?」
「アドルフォと同盟関係だったギャングから、和解の申し入れがありまして。今ちょうど向こうの頭目が来てます。どうしますか?」

 どきりと心臓が跳ねる。
 頭目が来ているという事は、こんな事はすぐにやめて、その頭目との話し合いに臨むのがベストだろう。
 そう頭では分かる。
 でも心はそうではなかった。
 
「今そいつはどこに、――――ッ!」
 
 いやだ。いくな。
 そう思った途端、挿入はいったままのダンテの陰茎を締め付けてしまった。突然の締め付けに、ダンテの声が不自然に途切れる。

「ボス? どうかしましたか?」
「、何でもない」

 ゆらりとこちらを見たダンテの瞳は、情欲で燃え上がった挑発的な光を宿している。ヤバイ。そう思った時にはもう遅い。
 腰を強く掴まれて、緩やかにナカを行き来し始めた熱源。弱いところを擦られて、咄嗟に口元を自分の手で塞いだ。

「客間に、通して待たせていい。私用を済ませたら行く」
「ッ、ぁ、ッぅ、~~ッ」

 ぱちゅ、ぱちゅ、と肌がぶつかる音が扉の向こうに聞こえたら絶対にマズイと思うのに、思考が快感に侵されて常識的な考えが浮かばない。
 与えられる気持ちよさに、乱れた息と声を指の隙間から漏らすことしか出来なくて、いつの間にか、口を塞ぐ手の上にダンテの片手が乗せられている事にも、みっともなく腰を揺れている事にも気付けない。

「御意に。一時間程度で来ると伝えても?」
「ああ、頼む。それでキレるようなら潰せばいい」
「フフフ、貴方ならそう言うと思いました。では先に行ってます」

 遠ざかっていく気配。乗っていたダンテの手が離れて、口を覆っていた手を掴まれる。強く握り締められた手がベッドに縫い止められて、深いところを抉るような腰使いに翻弄されるしかない。
 口の端から溢れる唾液も、声も、もう止められなかった。

「ぅあ、ンンッ、…はっ」
「ふふ、…はッ、僕のこと、離したくなかった?」

 バカになった頭では碌な返事もできなくて。緩慢に首を縦に振ったクロードは、ダンテが笑みを深めたことを認識できなかった。
 奥ばかり虐めてくる律動に、白飛びし始める頭の中。
 限界が近かった。

「あッ、……ッ、だん、ンぁッ、ぃきそッ」
「いいよ、クロード。――――イッて」
「~~~~ッ、ぁ」

 白濁が飛び散って胸まで汚れた。これで一回だよな、なんてやっと戻り始めた思考で思っていたのに。
 ダンテがまた腰を揺らし始めて、は、と声が出る。

「なん、でッ…! いっかい、ッ…、って、言った、んぁッあ」
「僕まだイッてないよ。付き合って、クロード」
「~~ッぁ、ちろー、が! っアッあ!」

 口ではそう罵ったけれど、きっとクロードの本心はダンテにはお見通しだったのだろう。


 時間ギリギリまで楽しんだダンテが、満足げに和解の会合に出ていたせいで、和解を求めに来ていた相手を余計に怖がらせたのはまた別の話である。


 
 

 
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